美酒の地フランチャコルタの美食探訪 ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

美酒の地フランチャコルタの美食探訪 ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

郷土料理の文化が色濃く存在するイタリアでは、ワインもその土地の料理と合わせるのが定石である。しかし、フランチャコルタは、ワインとしての歴史が60年ほどと浅いため、“常識”にとらわれずにワインそのものの性格や特徴と料理との相性を純粋に模索することができる。また、複雑な土壌のおかげで、銘柄ごとに個性があり、そのバリエーションは驚くほど幅広い。たとえブリュット、サテンと名乗っていても、造り手が違えば味わいは全く異なる。意外な出会いも期待して色々な料理と合わせて楽しめるのがフランチャコルタの魅力であり、そして当地では実際に、アルタ・クチーナからピッツァまで、あらゆる“美味”とのコンビネーションを堪能できる。

美酒の地フランチャコルタの美食探訪 ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

素材第一主義を掲げる「レオーネフェリーチェ・ヴィスタ・ラーゴ」

ワイナリー「ベッラヴィスタ」のモレッティ家がワインツーリズムの先鞭をつけるべく創業したホテル「ラルベレータ」は、20世紀初頭に別荘として建てられた屋敷をリスタイリング。手入れの行き届いた美しい庭に囲まれ、彼方にイセオ湖、その向こうにアルプスに繋がるカモニカ渓谷の景色を望む、絶好のロケーションが自慢だ。客室はそれぞれに趣向を凝らしたインテリアで二つと同じ部屋はなく、スパにも力を入れている。そしてもちろん、白眉はレストラン「レオーネフェリーチェ・ヴィスタ・ラーゴ」だ。

ファッソーナ牛のフィレを低温で加熱したところへ、トマトのコンフィ、バジリコ、オレンジとレモンの皮、タイムをあしらった「ファッソーナ・フィレットのピッツァイオーラ」。薄切り肉をトマトソースで軽く煮込むピッツァイオーラのアレンジ。オリーブオイル、ビネガー、ケイパーパウダーで作るサルサ・アチュガータが全体を引き締める。
ファッソーナ牛のフィレを低温で加熱したところへ、トマトのコンフィ、バジリコ、オレンジとレモンの皮、タイムをあしらった「ファッソーナ・フィレットのピッツァイオーラ」。薄切り肉をトマトソースで軽く煮込むピッツァイオーラのアレンジ。オリーブオイル、ビネガー、ケイパーパウダーで作るサルサ・アチュガータが全体を引き締める。

シェフを務めるファビオ・アッバッティスタ氏は、ロンドンの「ル・ガヴローシュ」、パリの「スプーン」、ミラノの「ウニコ」などを経て、2014年からフランチャコルタで腕をふるう。地元の小さな生産者との繋がりを大切にし、素材の旬にこだわる。料理を組み立てるときに最も重要視するのは素材の本質、そして土地の伝統を検分して、新しい魅力を引き出すこと。一見突拍子のない組み合わせに見せて、その実、非常にロジカルに計算された一品をクリエイトする。

美酒の地フランチャコルタの美食探訪 ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~
左/野菜のロースト・ラグーのカッペッレッティ ミルククリーム添え)。右/「ラルベレータ」のオーナー、モレッティ家が営むワイナリー「ベッラヴィスタ」のフランチャコルタ。エチケットデザインをリニューアルし、より華やかな印象に。

例えば、「野菜のロースト・ラグーのカッペッレッティ、ミルククリーム添え」は、普通なら加工肉に回される牛の頭部の端材をパスタの詰め物に用い、ニンジン、ポロネギなどローストした野菜を昆布だしに漬け込み、煮詰めたソースをパスタに絡めている。野菜の甘みとコク、肉の旨みが渾然一体となった力強い料理には赤ワインが欲しくなるところだが、しっかりとした果実味のあるフランチャコルタにも非常に合う。

美酒の地フランチャコルタの美食探訪 ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

ラルベレータ
Via Vittorio Emanuele, 23 Erbusco(BS)
TEL:+39-030.7760550
https://www.albereta.it/en/
レオーネフェリーチェ・ヴィスタ・ラーゴ
12:30〜14:30、19:30〜22:30 無休

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トスカーナの赤身肉文化とフランチャコルタの融合「クインターレ」

フランチャコルタ地方の伝統的な肉料理といえば煮込み料理だが、2022年5月にオープンした「クインターレ」では、トスカーナ式のビステッカとフランチャコルタが味わえる。監修するのはトスカーナ州キャンティの精肉店店主、ダリオ・チェッキーニ氏。炭火で焼くトスカーナのマレンマ牛、スペイン産の牛のほか、ダリオ氏のトスカーナの店でおなじみのさまざまな肉料理を提供している。赤身の強い牛肉にはサンジョヴェーゼ種の赤ワインを添わせるのがトスカーナ式だが、フランチャコルタは、肉に疲れた味覚をすっきりリセットしてくれる。複雑な味わいを持つからこその裏技である。

左/骨つきサーロインと腰肉の炭火焼き。右/牛頬肉やタンなどを使ったスフォルマート。
左/骨つきサーロインと腰肉の炭火焼き。右/牛頬肉やタンなどを使ったスフォルマート。

ダリオ氏曰く「フランチャコルタはスパークリングだから、肉料理は重いのではないか?と思われるかもしれないが、私にとって大切なのは、ワインがそこにあること、そしてワインの文化と肉の文化が融合すること。私は48年間、精肉業に従事してきたが、常に、ワインを頭に思い描いて肉をさばき、下ごしらえし、料理へと結びつけてきた。料理人は時に、皿の上だけで完結することを良しとするが、伝統、すなわち、その土地に根ざし、生活することを考えれば、その土地の美味しいワインといかに合わせるかを考えるべきである」。そして、こうも付け加えた。「ただし、無理にスパークリングワインと肉を合わせる必要はない。この店にはトスカーナの赤ワインもあるから、それを飲んでもいい。私の願いはただ一つ、正しく考え、作られた料理とともに味わってほしいということだ」。

美酒の地フランチャコルタの美食探訪 ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

クインターレ
Via Cavour, 7 Erbusco (BS)
TEL:+39-030.5543935
https://quintale.net/
12:00〜15:00、19:00〜23:00 
月曜、火曜、土・日昼休

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スパークリングワインと好相性のピッツァ「フィリアーレ」

かつてナポリの下町ピッツェリアでピッツァとともに飲むものといえば、ビールかコーラしかなかったが、2000年代初頭から全国的に広まったコンテンポラリー・ピッツァの世界では、スパークリングワイン、それもオーガニックやナチュラルな製法にこだわったものをワインリストに載せるのが当たり前になっている。吟味した素材、長時間発酵で仕立てた軽い生地を使った現代的なピッツァは、庶民のファストフードというそれまでのカテゴリとは全く別のものであり、アルタ・クチーナの一分野として認識されている。そのピッツァにふさわしいのは、やはり上質なワイン、とりわけ発泡性のワインと考えられている。

「チレントの味」と名付けられた、DOP(原産地呼称保護)水牛のモッツァレッラ、DOP水牛のリコッタ、アーティチョークのピッツァ。南カンパーニア州産の濃厚なフレッシュチーズが主役。
「チレントの味」と名付けられた、DOP(原産地呼称保護)水牛のモッツァレッラ、DOP水牛のリコッタ、アーティチョークのピッツァ。南カンパーニア州産の濃厚なフレッシュチーズが主役。

ホテル「ラルベレータ」の敷地内にあるピッツェリア「フィリアーレ」は、食の総合メディア「ガンベロ・ロッソ」のピッツァガイドで最高点を獲得したナポリ近郊の「ペペ・イン・グラーニ」の支店だ。ナポリピッツァの伝統を踏まえ、厳選した素材とオリジナリティを追求したコンテンポラリー・ピッツァが味わえるとあって、ミラノからわざわざ訪れる人も多く、週末は予約必須だ。料理としての骨格を整えたコンテンポラリー・ピッツァが、プレステージワインであるフランチャコルタと合わないはずがない。野菜、チーズ、肉といった、トッピングの主役が何かを考えながらフランチャコルタを選ぶのは、実に現代的な楽しみ方だろう。

美酒の地フランチャコルタの美食探訪 ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

フィリアーレ
(ラルベレータ内)
TEL:+39-030-7762608
https://www.albereta.it/en/franciacorta/la-filiale-pizzeria/
12:00〜14:30、19:00〜22:30
月曜、火〜土昼休

text:池田愛美 photo:池田匡克

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