イタリア随一のプレミアム・スパークリングワインとして知られるフランチャコルタ。その生産地はロンバルディア州イゼオ湖南岸一帯である。1995年に瓶内二次発酵方式で造られるワインとしてイタリアで初めてDOCG(統制保証原産地呼称)に認定され、1990年に設立されたフランチャコルタ協会によってそのブランドが保護されている。協会に加盟する生産関係者は120以上、会員を束ねる会長は、品質向上と生産地全体のイメージアップ及び環境保全に努める。それゆえ会長を担う人物には先進的な発想と行動力が求められるが、とりわけワイナリー「コンタディ・カスタルディ」のオーナーであるヴィットリオ・モレッティ氏はその才に長けた人物として知られる。
フランチャコルタはロンバルディア州ブレーシャ県にある。ブレーシャの街はミラノまで車で1時間ほどの距離にあり、工業などの産業が盛んである。フランチャコルタはそのブレーシャに近いこともあり、ワインの生産者にはビジネスで成功して念願のワイン造りを始めたという人も少なくない。彼らは、より良いワインを造るには最先端の技術と、時代の空気を敏感に察知する能力が不可欠だと認識している。その1人が、ヴィットリオ・モレッティ氏だ。
ワイナリー「ベッラヴィスタ」のオーナーとして、自社ワインのクオリティアップはもちろんのこと、ミラノ・スカラ座のオフィシャルワインを手がけてフランチャコルタの知名度を上げ、さらにワイン・ツーリズムの重要性に注目し、田園ホテル「アルベレータ」をフランチャコルタを代表するラグジュアリーなアコモデーションに仕立てた。
モレッティ氏が「ベッラヴィスタ」とは別に所有するのが「コンタディ・カスタルディ」である。フランチャコルタはプレミアムワインゆえ、購入者層も富裕な年配者に偏る傾向がある。そんな現状を打破し、若い層へのアプローチを重視するのが「コンタディ・カスタルディ」だ。「ベッラヴィスタ」が奥深く優雅なフランチャコルタを表現するのに対し、「コンタディ・カスタルディ」は華やかで明快なフランチャコルタというスタイル。エチケットもミラーボールをイメージしたというポップなデザインだ。しかし、ワイン造りには真摯で、その昔は農家からブドウを買って醸造していた当地の伝統を守り、今もブドウは全て購入している。小さな農家との結束が、新しいワインを生み出す礎となっているのだ。
醸造施設は、19世紀に造られたレンガ工場跡を利用している。20世紀半ばに廃業した同工場は、モレッティ夫人の代母だった女性の一族のもので、夫人が幼い頃、この工場の裏山で遊んだという郷愁の思いを汲んでモレッティ氏が購入したという。地下に掘られたレンガ焼き工場は湿度温度が通年ほぼ一定に保たれており、細長い迷路のような空間をそのまま熟成庫として利用している。さらにその周辺にデゴルジュマンやボトリングの設備を、その上には醸造設備を備えている。古いものをうまく活用しながら、効率性も確保することで、フランチャコルタとしては比較的手頃な価格での提供を可能としている。何よりも、古いものを生かしつつ、先進的なワイン造りを行なっていることが「コンタディ・カスタルディ」の矜持となっている。
さらに、イタリアを代表するオートバイ、ドゥカティ(イタリアではドゥカーティ)のオリジナル・フランチャコルタ「ドゥカーティ・コルセ ブリュット・レース」を2019年にリリース。F1やバイクレースにスパークリングワインは“付き物”だが、単に既存のアイテムを提供するのではなく、ドゥカーティのためにアッサンブラージュし、特別なドサージュ(補糖リキュール)を施している。ワインもオートバイもイタリアの“ものづくり”最大の傑物であり、そのコラボレーションがさらにワインとはあまり縁のない若い世代にアピールするのであれば言うことはない。
ワイン造りは突き詰めていくと素晴らしいものができるかもしれないが、そのぶん狭い世界に閉じこもる可能性もある。ごく一部の愛好家だけでなく、誰もが楽しめるフランチャコルタを。それが「コンタディ・カスタルディ」の目指すところだ。入り口は広く、奥は深い、フランチャコルタの世界へ正しく案内してくれるワインである。
コンタディ・カスタルディ
Via Colzano, 32 Adro (BS)
TEL:+39-030-7450126
https://www.contadicastaldi.it/it/
text:池田愛美 photo:池田匡克