オーガニック・フランチャコルタの先駆者、バローネ・ピッツィーニ ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

オーガニック・フランチャコルタの先駆者、バローネ・ピッツィーニ ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

イタリア随一のプレミアム・スパークリングワインとして知られるフランチャコルタ。ワイン造りの伝統と、革新的な技術、恵まれたテロワールが三位一体となった天与のワインの里である。1995年に瓶内二次発酵方式で造られるワインとしてイタリアで初めてDOCG(統制保証原産地呼称)に認定され、1990年に設立されたフランチャコルタ協会によってそのブランドが保護されている。フランチャコルタの生産地は19の自治体によって構成され、協会に加盟する生産関係者は120を超える。現在、その会長を務めるのが「バローネ・ピッツィーニ」のシルヴァーノ・ブレシャニーニ氏で、同ワイナリーはフランチャコルタでいち早く有機農法に転換した先駆的な生産者だ。

オーガニック・フランチャコルタの先駆者、バローネ・ピッツィーニ ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

古代ローマ時代からワインの生産地であったフランチャコルタ。イゼオ湖がもたらす温暖な気候とカモニカ渓谷の冷気による寒暖差、また氷河によって押し流されてきたミネラル豊富で複雑な土壌が、ブドウ栽培に最適な環境を作り出したからである。昔から、土地の豊かさに惹かれて移り住む富裕層も多く、ロヴェレート(トレンティーノ・アルト・アディジェ州)出身のピッツィーニ・フォン・トゥルベルグ男爵もその1人であった。
時は18世紀の終わり、ウィーン宮廷を始め、ヨーロッパ各地で演奏活動を行なっていたモーツァルトが、友人であるピッツィーニ男爵のロヴェレートの館に滞在したという逸話が残っている。また、時代が下がって20世紀初頭、エドアルド・ピッツィーニ・ピオマルタは騎馬隊の将校として第一次世界大戦に出征したが、当時の上官フランチェスコ・バラッカに暴れ馬を託されたことがあった。時折り馬の様子を訪ねられたエドアルドは、報告の手紙の最後に立ち上がる馬の絵を添えた。空軍大佐となったバラッカはその絵をいたく気に入り、自らの隊のシンボルとしたが、それをさらに気に入ったエンツォ・フェラーリがあの高級車のシンボルにしたという。ワインとはなんの関係もないが、なかなかユニークな歴史を背負ったワイナリーである。

オーガニック・フランチャコルタの先駆者、バローネ・ピッツィーニ ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

バローネ・ピッツィーニが、瓶内二次発酵のスパークリングワインを手がけるようになったのは1971年、エドアルドの息子ジュリオの代である。そして1993年、バローネ・ピッツィーニは複数の企業家が共同所有するワイナリーとなり、人、環境、土地に最大の配慮と恩恵をもたらすことをワイン造りの柱として掲げた。その第一弾が有機農法への転換である。1998年に転換を開始し、2002年に初めてオーガニック・フランチャコルタをリリースした。
既存の畑や農園を買い取り、それを少しずつオーガニックに変えながら、2007年には環境に配慮したカンティーナ(醸造施設)を完成させた。石材と木材を多用したシンプルな建物は周囲の環境に見事に溶け込み、丘の斜面を利用してその半分以上が地中にあることで内部の温度変化を最小限に抑えている。もちろん電力は全て再生可能エネルギーで賄う。こうした取り組みは当初、周囲の生産者から懐疑的な目を向けられていた。(当時イタリアでは、オーガニックに対する関心が低いだけでなく、優れたワインはオーガニックではできないという生産者もいた。)しかし、バローネ・ピッツィーニのフランチャコルタの質が改善されていくにつれ、オーガニックに転換する生産者が次第に増えていった。オーガニック転換を牽引したブレシャニーニ氏は、全てのフランチャコルタがオーガニックになることはないだろうが、協会では今後もオーガニック転換への技術支援をしていくと言う。

オーガニック・フランチャコルタの先駆者、バローネ・ピッツィーニ ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

現在、バローネ・ピッツィーニが取り組んでいるのは、土地伝来の品種であるエルバマット種の復活である。エルバマットをフランチャコルタに使うことで、フレッシュで酸が生き生きとした味わいになると言う。世界的な温暖化で、北イタリアも今や南イタリアのような糖度の高いブドウが簡単にできるようになっている。そのぶん、ブドウ本来の繊細な風味や酸が弱くなっており、複雑味を追求するワイン生産者にとっては頭の痛い問題である。そこで、忘れ去られていたエルバマットを取り入れることで、フランチャコルタ本来のスタイルを盤石にしようというのが狙いだ。バローネ・ピッツィーニでは2021年にエルバマットを使ったフランチャコルタを初めてリリースした。同ワイナリーでは、これからのフランチャコルタを支える立役者として、今後も同種の作付け面積を増やしていく予定である。

オーガニック・フランチャコルタの先駆者、バローネ・ピッツィーニ ~イタリア・ロンバルディア州の高貴なるワイン、フランチャコルタを訪ねて~

バローネ・ピッツィーニ
Via San Carlo, 14 Provaglio d’Iseo (BS)
TEL:+39-030-9848311
www.baronepizzini.it

text:池田愛美 photo:池田匡克

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