トップシェフの健康な食事の提案#2「牛乳に代る食材を」


スープ、シチューなどに代用ミルクを使う

日本人は牛乳に含まれる乳糖という物質を分解する力が弱い人が多く、牛乳を多く飲むと胃腸に負担がかかります。そこで、牛乳を使わずにおいしいスープやシチューを作る方法のひとつが、豆乳、アーモンドミルク、ココナッツミルク、麦から作るオーツミルク、米から作るライスミルクなどで代用すること。このうち、もっとも普及しているのが豆乳で、少し豆の香りがするものの、味わいはまろやかです。また最近人気のアーモンドミルクは牛乳のように白く、飲むとアーモンドの風味が口いっぱいに広がります。この点はココナッツミルクも同じで、食材に合わせて使い分ける必要があるでしょう。オーツミルクはほんのり甘みがあり、ライスミルクは味がかなり薄く、この2種はカロリーが控えめです。

生クリームの代わりになるのは豆乳クリーム。また、豆腐をホイップして豆腐クリームを作ることもでき、どちらもホワイトソースの材料としてグラタン、パスタのソースに使用できます。

玄米や米粉、野菜をペースト状に

豆乳、アーモンドミルクなどを使わずに、穀物もしくは野菜のペーストを使って風味ととろみをつける方法もあります。和食や中華料理で使う片栗粉は、カタクリという野草の根に含まれるデンプンを取り出したもので、最近は安く作れるジャガイモのデンプンを「片栗粉」として販売しています。デンプンでとろみが出るのは、水と一緒に加熱すると透明ないし白っぽいゲル状になる性質があるため。

デンプンが豊富な食品の代表は、玄米、白米、大麦などの穀物。また、野菜なら、デンプンが多い順に、サツマイモ、ニンニク、山芋、西洋カボチャ、ジャガイモ、トウモロコシ、ソラマメ、シイタケ、レンコン、ゴボウ、サトイモ、枝豆、タマネギ、ニンジンなどがあり、いずれも少し塩を加えてじっくり蒸すと旨味を引き出せます。これをペーストにすれば、コクのあるスープに。

成田一世さんが提案するひと皿

ナッツから穀類まで、「種子」をテーマ軸に味と香りを紡ぎ、豊かな広がりを楽しむひと皿

牛乳の代用としてアーモンドミルクを選んだ理由

今回、成田さんが手がけたのは、日本人に多い「牛乳に含まれる乳糖を分解できない人」すなわち、乳糖不耐症という体質に合わせ、牛乳などの乳製品を使用しないで仕上げるデセール。奥田先生は代用食材として一番に豆乳を挙げてくれたが、苦手な人が少なくないため、ほかの食材を検討。油分、糖分がほぼ同量であるアーモンドミルクの採用に到った。牛乳とアーモンドミルク、どちらも白濁がもたらす味わいがあることもポイントのようだ。

「乳製品のおいしさには、たんぱく質の拡散による白濁という要素があります。濁って見えるのは粒子が大きいからで、舌が味としてキャッチしやすいという特徴があるんです。人間の味覚は舌にある味蕾(みらい)で味をキャッチしていますが、細胞のバランス的には味を感じる穴の大きさが山手線の内側だとしたら、味をキャッチするための細胞の大きさは東京ドームくらい。さらに味としての情報を感じさせる分子の大きさはピンポン球1個分に過ぎないそうです。クリアなスープを飲んでほとんど味がしないと感じる人も、トロッとした白湯スープならおいしく感じたりするのには、そういう理由があるんです」

おいしさのバランスには必ず油分が含まれる

「日本人は料理に油を使っていないつもりでも、脂の乗った魚をおいしいと感じるので、だしに油を合わせることで油と水分のバランスを保ちながらおいしく食べていることになるんですよ」

一般的な牛乳には3.8〜4パーセント程度の乳脂肪分が含まれている。そこで、アーモンドミルクも油分を4パーセント程度に調整したものを使用することで、より牛乳に近い味わいを追求した。

「調理において、食材の代替や擬似的に味を再現したものを作ることは珍しくありません。味のベースをおいしく感じさせるためには、これまでの経験や知識によって何に置き換えられるかを常に考えます。今回の奥田先生のご提案では水と油のことが中心でしたが、そこにアルコールも加えるのが自分の考え。そうすると、おのずと醸造に対する意識、発酵に対する意識も出てきます。要するに、常においしさを提案できる力を持つ。その思いが強いということですね」

roil
roilは英語で「かき混ぜ濁らせる」の意。タンパク質が拡散し、白く濁ることで得られる乳製品ならではの味わいを、アーモンドミルク、ココナッツで代用しながら共通点を探り、見事に再現している。さらにマンゴーや柑橘で夏らしさを演出。

POINT

乳製品を別の食材で代用。油分・水分・アルコールとの相性を見極め素材の味と香りのバリエーションを演出

プレートの上にベースとなるクリームを細く絞り、素描を描くように繊細な線を重ねていく。白いクリームはココナッツのクリーム。

アーモンドミルクの杏仁豆腐に、甘く煮た穀物をトッピングし、円形のフレッシュマンゴーを配置。大小のサイズを用意してリズミカルに。

柑橘の皮、ミントオイル、ココナッツのリキュールなどを加え、仕上げにココナッツの泡とアイスクリームを添えて完成。

本記事は雑誌料理王国278号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は278号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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