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【清澄白河】中華であることを、うっかり忘れる大津ワールド。「O2(オーツー)」

味坊 ルカツィテリ クヴェヴリ

中華料理とワインとのマリアージュを提案した、脇屋友詞シェフの血統を受け継いだ大津光太郎シェフ。大津ワールド全開のコースと自然派ワインを味わえば、中華であることをうっかり忘れる!?


外観のイメージが瀟洒だからだろうか。「お洒落カフェと間違えて扉をあける人もいる」と言うのは「O2(オーツー)」のオーナーシェフ、大津光太郎さん。大津シェフが好きだというグリーンを基調に調えられた店内に足を踏み入れた瞬間に、ゆったりとした気分になっていることに気付く。「O2」は、大津シェフが繰り出す中華料理と自然派ワインとを互いに噛み合わせることで名を馳せる。シェフに寄り添い、ワインをセレクトするのがソムリエの大竹智也さん。両者が織り成す「O2」ならではの魅力を探ってみよう。

(左から順に)【1】 Vin Jaune Arbois アルボワ・ヴァン・ジョーヌ 【ラ・カーヴ・ド・ラ・レーヌ・ジャンヌ】(仏)白・サヴァニャン100%
フランス東部のジュラ地方で生産される、特殊な白ワイン。タンクにて自然に任せて発酵を行ない6年熟成させて出荷。大津シェフのお気に入りでセレクト。コースのフカヒレに合わせるのがおすすめ。
【2】Frederic Gechockt Obi Wine Keno Bulle Episode 3 オビ・ワイン・ケノ・ビュル エピソード 3 【フレデリック・ゲシクト】 (仏)白・微発泡:ピノ・オーセロワ、ミュスカ、リースリング
アルザス地方、アメルシュヴィル村のテロワールが育んだ優しい味わい。前当主の息子、アルノー氏が映画「スターウォーズ」から考案し、命名。大津シェフの趣向とマッチ。あっさりした味わいの前菜とともに。
【3】Binner Hinterberg ビネール ヒンテルベルグ【ドメーヌ・クリスチャン・ビネール】 (仏)赤:ピノグリ、ピノノワール、ピノブラン、ピノブーロ、ピノオーセロワ
1770年から代々無農薬栽培を継承し続けている。このヒンテンベルグは、区画に植わる5種のピノをすべて一緒に醸した新感覚ワイン。ナチュールらしい、綺麗な酸と濁りのうま味は、魚料理に寄り添う。
【4】Lucy Margaux Sauvignon Blanc ルーシー・マルゴー・ソーヴィニヨン・ブラン 【ルーシー・マルゴー】 (豪)白・ソーヴィニヨン・ブラン100%
元シェフのアントンファンクロッパー氏が2002年に設立。葡萄はすべて野生酵母で発酵、 温度コントロールも行なわないため、毎年味わいが異なる。皮の苦みも感じオレンジワインのよう。前菜からDim sumとご一緒に。
【5】Les Etape レ・ゼタップ【ラ・ヴィーニュ・デュ・ペロン】(仏)赤・ピノノワール100%
サヴォア地方で、元ピアニストのフランソワ・グリナン氏が設立。ミネラルをしっかり感じ、まるで和の出汁のニュアンスを感じるうま味がじわじわと口の中に広がる。肉料理のタイミングでリコメンドしている。

ソムリエの大竹さんにワインをセレクトする基準を伺うと「シェフのお気に入り」「シェフが大好きで」というセリフが幾度となく登場する。大津シェフと自然派ワインの出合いは「友人に勧められたからという…なんとも普通」だったそうだが「神楽坂のとある店で飲んだ時のインパクトは今でも記憶に残っています」。以来、自然派ワインに惹かれていった。

当初はフランス料理志望。身の丈に合った中華料理へ。

「本当はフランス料理のシェフになりたかった。でも上達しなくて…。そんな中、中華だけは納得のいく味に到達できたんです。憧れを形にするより得意なことを伸ばしたほうが良い」と決断。中華でありながらフランス料理のようなスタイルを極めていた脇屋友詞シェフに師事。中華料理とワインとのマリアージュをいち早く提示するなどして中華料理の新たな魅力を開拓する脇屋シェフの下で15年間修業した。

中華であることを、うっかり忘れる大津ワールド。

10月中旬に供されたコース料理をご紹介しよう。前菜3品、点心、スープ、魚料理、肉 料理で5,000円と肉料理がフカヒレの姿煮になる10,000円のコースだ。

10月中旬に供されたコース料理をご紹介しよう。前菜3品、点心、スープ、魚料理、肉料理で5,000円と肉料理がフカヒレの姿煮になる10,000円のコースだ。

〈前菜〉は3種が一皿ずつ登場する。「ホタテと梨の生春巻き(写真1)」は低温調理したホタテのうま味と梨のかすかな甘味に、柚子胡椒と台湾の醤油加工品「金蘭甘露油膏」のコクが重なる。続いて供される「焼き立てチャーシュー(写真2)」は客の来店後にオープンで焼き上げ、熱々で提供。3品目は「炙りアジと2種のぶどうの黒酢ジュレ(写真3)」。キリッとエッジの立った酸味の黒酢のジュレが炙ったアジのうま味を際立たせる。〈点心〉は「あさの豚とバナナの春巻き(写真4)」。良質のトウモロコシで育つ栃木の銘柄豚「あさの豚」のリエットに生バナナを混ぜ、山椒、タイム、ローリエで味付けした餡の、うま味と甘味の重層的な味わいがワインを呼ぶ。〈スープ〉は「冬瓜と干し貝柱のスープ(写真5)」。干し貝柱と冬瓜を鶏の出汁とともに1時間蒸し、ミキサーに。柚子の香りが広がる優しい味わい。〈魚料理〉として供されたのは「鯛の魚香ソース(写真6)」。豆板醤とニンニクを炒め、油通しした椎茸とともにミキサーで混ぜ込んだ魚香ソースで、蒸した鯛と丸茄子を味わう。

上海風フカヒレの煮込み
上海風フカヒレの煮込み
大津シェフ自身が最も得意な料理に挙げているのが、上海料理の紅焼(ホンシャオ)と呼ばれる醤油風味の煮込み。フカヒレは国産で、昨今では珍しくヨシキリザメの尾ビレを皮付きのまま乾燥させた「原ビレ」を使用する。1人前が100gというボリュームも稀有。あっさりとした調味料使いだが、ボディのある味わい。一緒に提供される土鍋の炊き立てご飯も嬉しい。
牛ホホ肉の豆鼓煮込み
牛ホホ肉の豆鼓煮込み
牛頰肉を醤油や鶏のスープで煮込んだメイン料理。下茹でに1時間、調味料とともに味を入れるのに1時間、仕上げに1時間30分蒸すことで、箸で切れるほどの柔らかさに。口へと運べばねっとりとしたうま味の塊のよう。奥の方でかすかに酸味を感じる豆豉のソースが味わいに奥行きをもたらす。「インカのめざめ」を牛乳、バターと合わせてローストしたポテトも絶品。

自然派ワインとの相性を設計。香りと酸味を優しくまとめる。

「基本的に刺激の強い味付けはしないよう気をつけています。使うとしても柚子胡椒がギリギリですね。大切なのは香り。そして随所に酸味を利かせます」。調味料に頼ることなく食材の味を大切にした優しい味わいだが、舌がはっきりとした輪郭を感じるのは香りと酸味を活かしているから。この味覚の設計が自然派ワインに合うのだろう。シェフとソムリエ、両者の仕事を見事なかみ合わせを体験できる名店だ。

左:大津光太郎 (おおつこうたろう)
1982年東京都生まれ。19歳で中華の巨匠、脇屋友詞シェフに師事。「トゥーランドット臥龍居」を経て2018年3月、清澄白河で「O2」を開店。好きな映画は「スターウォーズ」。取材時のBGMは「レキシ」の「狩りから稲作へ」。
右:大竹智也(おおたけともや)
イタリア料理店を経て、「O2」の開店と同時にソムリエに就任。大津シェフの個性あふれるメニューに合わせてワインをセレクトしている。
O2

O2(オーツー)
東京都江東区三好2-15-12 
峯岸ビル1F
TEL 03-6458-8988
18:00 ~ 23:00 LO
月休(臨時休業あり)


text 青山友美 Photo 竹内洋平

本記事は雑誌料理王国2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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