日本酒と自然派ワインが肩を並べる、その理由


日本酒と自然派ワインのペアリングやその監修、さらにはナチュラルワインの認定ラベル「クリーン・アンド・ナチュラル」のクリエイティブ・ディレクターを務めるなど、日本酒と自然派ワインの間をニュートラルに往来する田嶋善文さん。サケ・アクティビストの観点と理論から、日本酒と自然派ワインの共通項を見つけ出す。

造り手と飲み手の変化と味の構成の歩み寄り

小料理屋×日本酒×自然派ワインというコンセプトで5年前にオープンした下沢「namida」。日本料理とイタリア料理のシェフ、そしてソムリエというキャリアを重ねてきた田嶋善文さんがオーナーシェフを務める店だ。故郷・熊本県天草の友人が育てた有機野菜や米を100%使った料理にお酒を合わせる、ペアリングのコースを提供している。自然派ワインだけでも、日本酒だけでも、ミックスペアリングでも可能。「これまで、異なるアルコールを行き来することに抵抗がある人が多かった。でも最近それが、変わりつつある」と感じているそう。飲食店関係者の間では4 ~5年前から、一般のお客様は2 ~ 3年前から、日本酒と自然派ワインを、食事の中で行き来しながら楽しむ人が増えているという。その背景には、まずは「造り手の変化」があると田嶋さんは考えている。

自然派ワインに関しては、雑味やクセのない、クリーンなナチュラルワインが増えてきたこと。一方で、日本酒に関しては、40歳代の若手の蔵元が、徐々に酸のある日本酒を造るようになってきたことが挙げられるという。かつて日本酒における酸はネガティブと受け止められることが多かったが、ハンバーグやシチューなどの西洋料理も「家庭料理」として食べて来た彼らは、酸のある味を食中酒に求めるようになり、自然に酸のある日本酒が出来てきた。また、醸造技術の発達で、酸をある程度コントロールできるようになり、酸があることは「失敗」ではなく「味の表現」として広く認められるようになってきた。

日本酒と自然派ワインを同時に楽しむ人々が増えてきた背景には、その味の構成がお互いに歩み寄ってきたことが挙げられる、というのが、田嶋さんの考えだ。

namidaを開店する前に、和食に合うワインを探し、週2回、1日400本テイスティングをすることもあったという田嶋さん。そこで気づいたのは、自然派ワインが、日本酒と同じく和食に合う飲み物だ、ということ。「自然派の熟成した赤ワインの枯れたニュアンスは、鰹節や醤油などの味わいと重なる。例えば、これまで一般的に『キャンディのような』風味がイメージとして多いガメイも、自然派ワインでは、『梅かつお』のような風味を感じるものがあります」。

「酉与右衛門 無濾過生原酒 亀の尾」&
オーストリアのソーヴィニョン・ブラン
「さわらの青朴葉焼き」は、85℃で蒸した蕪、 万願寺とうがらしの焼きびたし、実山椒とわけぎの醤油づけを乗せたさわらを青朴葉に包んでさらに一段香りのレイヤーを加えて焼き上げた。合わせるのは、オーストリアのソーヴィニョン・ブラン。フレッシュな酸味で、これから脂の乗ってくるさわらの脂を切るようなイメージで組み合わせた。日本酒なら、「酉与右衛門 無濾過生原酒 亀の尾」。「酸があり、生酒のハーブのような青々とした清涼感と苦みがあり、うま味があるお酒。うま味の強いソーヴィニョン・ブランと同じ味の構成なのです」

田嶋さんは、日本酒を選ぶときも食中酒に関しては、吟醸香の強いタイプではなく、食欲を増進させる酸がしっかりあり「ご飯を食べているようなバランスで飲める」自然な米の香りのある残糖が少ないものを選ぶ。
「日本人はそもそも米の味わいに塩気のあるおかずを合わせ、口内調味で味を整える民族なので、おかずの余韻があるうちにご飯を食べる」から、口の中でつまみと酒が混ざり合って味わいが完成する。だからこそ「自然派ワインも、口の中で出汁と混ざり合うようなペアリングになる。口内調味をするからこそ、ご飯を食べているような、米の自然な香りが生きた日本酒、出汁のような味わいのする自然派ワインが合う」と田嶋さん。

つまり、どちらも食事にうま味を合わせるという、共通したペアリングの手法。だからこそ、日本酒とワインの行き来がスムーズなのではないか、と考えている。

田嶋さんは、京都のディオニーと東京のBMOという、2社のワイン輸入業者が会社の垣根を超えて
作った「酸っぱくない、臭くない、濁っていない」と3点の基準で選んだ、ナチュラルワインの認定ラベル「クリーン・アンド・ナチュラル」にも、クリエイティブディレクターとして参画している。(ローンチイベントは、来年2月に京都、3月に東京で行われる)

店で出す料理を作る際も、必ずワインと日本酒、両方のペアリングを念頭に置き「どちらにもフックがかかる」料理を作るが、それができるのも、両方にうま味という共通項があるからこそ。

また、田嶋さんが大切にするのは、料理と飲み物の余韻が同じタイミングで終わること。例えば、現在namidaで提供している「里芋のふくめ煮のスモークとカマンベールの石垣寄せ」には、自然な米の香り、しっかりとした骨格を持つ「松の司」の純米大吟醸を合わせるが、余韻を伸ばすために、40℃の燗にして出す。
酒をジャンルで分けず、味わいでジャンルを横断的に行き来する、そんな時代が、もうやって来ている。

「里芋のふくめ煮のスモークとカマンベールの石垣寄せ」は、里芋の甘さを最大限に感じられるよう、控えめな味付けで煮含めた里芋にスモークをかけ、金山寺味噌の上に、スパイシーなだけでなく、ハーバルで赤いベリーのようなニュアンスを持つピンクペッパーを添えることで、ラングドック産のグルナッシュのワインの、フルーティーで豊かなうま味とも合わせられる。

田嶋善文( たしまよしふみ)
銀座の和食店、原宿のイタリアンなどでシェフとして勤めた後、ソムリエ、和食を経験。2015年『namida』をオープン。「食中酒と食」をテーマに、国内外での出張料理人としても活動している。

namida
東京都世田谷区北沢2丁目28-7
エルフェアシティⅡ 102B
TEL 03-6804-7902
18:00 ~ 25:00
不定休
http://www.namida-tokyo.com/


text 仲山今日子 photo 奥山智明

本記事は雑誌料理王国2020年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年1月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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