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農業で東京のレストランの生ゴミをゼロに!?畑から目指す食の循環(五十嵐創/土とシェフ)


料理人が担う役割にも変化が現れ始めている。「美味を提供する職人」として機能していた料理人が、「社会課題や未だ知らぬ食文化のコーディネーター」とでも呼びたくなるような役回りを帯び始めている。敢えて店舗を持たずに活動の幅を広げる料理人。都市部ではなく地方に目を向け、拠点すら構える人。他ジャンルの料理人やクリエイターと協働する人。思いやミッションを達成するという目的のためなら、手段を問わず、価値を生み出す料理人を紹介する。

土とシェフ 五十嵐創 CONNECTED TO >>> [ 飲食と農のエコシステム ]

第二次世界大戦中に疎開した画家が移り住み、現在も芸術の町としてのDNAが受け継がれる神奈川県の旧藤野町(現在は相模原市緑区)。ここは市民発電所「藤野電力」やオーガニックマーケット「ビオ市」など住民によるコミュニティ活動が盛んだ。
クリエイターやパーマカルチャーを志向する人々も多く、環境意識の高い町として知られる。そんな藤野に移り住み、農とレストランから、生ゴミを資源に変える取り組みを目指しているのが五十嵐創さんだ。

農業で東京のレストランの生ゴミをゼロに!?
畑から目指す食の循環

現代のゴミの流れは一方通行

物心ついたときから、レストランの中にいた人である。

両親が営む中華料理店「広味坊」の厨房で手伝い始めたのはなんと9歳。府中の農業高校に進学し、東京農業大学短期大学部を卒業。麺食のふるさととして知られる中国北部の山西省で料理研修するなど、中華料理の英才教育を受けたといっていい。

そんな五十嵐創さんが、農とレストランのエコな関係づくりを真剣に考え始めたきっかけは「広味坊」で1日の仕事を終えた後のこと。大量の生ゴミを前にふと「これらは棄てたらどこにいくんだろう?」と思ったのだ。「考え始めたらのめり込む」性格。そこから、ゴミとリサイクルの本を徹底的に読み漁った。「休みの日には都内の焼却炉を見学したり、京都大学までゴミを研究する先生の話を聞きに行ったり。産業廃棄物処理を手掛ける企業の方にも会いに行きましたね。そこでわかったんです。現代の日本はほとんどのゴミを捨てるだけの一方通行社会。一方で、江戸時代の日本は、国内の物資と収支で成り立っていた循環型社会でした。例えば、金肥といって、人が食べたものを土に還していたのもそのひとつ。ゴミゼロはもともと日本の文化にあったんです」。

そこで「今のような状態で料理を作っても、地球のためにはならない」と一念発起。藤野に移住し「農園 土とシェフ」を立ち上げ、東京のレストランから求められる野菜を作りながら、そこで出る食品残渣を循環し、作物に戻す方法を考え始めた。

目指す循環は、土に始まり土に終わる

「バクテリアを呼ぶ男」、葉坂さんとの出会い


活動にあたり、大きな影響を受けたのが、有機性排出物の完全リサイクルを実現したハザカプラントで知られる葉坂勝さんである。ハザカプラントは、換気によって自然に集まるバクテリアで有機物を分解し、約30日で完熟堆肥に変えるという画期的な設備。調理場から出続ける食品残渣のほとんどが廃棄される現状に疑問を抱く五十嵐さんにとって、葉坂さんとの出会いは必然でもあった。「会いに行ったとき 30数年間で料理人が来たのは初めて。君みたいな子を待っていたよ と言われました。葉坂さんとともに、アースランドライフの大浦政秀さんも、オーガニックとは何か?ということを僕に教えてくれた師匠です。目指しているのは、レストランに野菜を提供し、食品残渣をもらい、堆肥にしてまた野菜を育てること。そこには命の循環があります。生ゴミなんてないんです。すべては資源ですから」

取材した2月中旬は、春の種蒔きに向けて土づくりの時期。五十嵐さんの畑では、宮城県で作られたハザカプラントの堆肥を導入(写真左)。畑には、肥沃な土地に生えるというホトケノザの花があちこちに(写真右)。周辺の小枝や雑草を畑に蒔き、土と化すまで鋤き込むスタイルは、同じ藤野で抜群においしい野菜を作ると評判の「ゆい農園」の油井敬史さん(写真右から二番目)から教わった。

プロセスを共有し、関わる人の知恵を増やす。


現在は、農作業をしながらレストラン営業やケータリング、友人のシェフのサポート、講演など多角的に活動しながら足場を固めている五十嵐さん。栽培作物は旧知のシェフから直接頼まれたものを中心に、作るだけでなく、育てるプロセスをすべてシェフに共有することを心がけている。その代わり、シェフには野菜の使い方を教えてもらい、自分だけでなく、藤野の人に還元するのがモットーだ。

レストラン営業は週に2日だが、多い日は1日70人もの人が訪れ、地域の雇用も生んでいる。ユニークなのは、夜のコースやアラカルトはなく、すべてゲストの予算に合わせて料理を作っていること。1,000円でお腹いっぱいになりたいという方もいれば、3,000~4,000円でちょっといいものを食べたい方も等しく大歓迎。これも藤野という土地に合わせたやり方だ。

今後は「食品残渣が実際に資源となる場を作るために、地域がそれを受け入れる土壌、すなわちマインドが大事になると思うんです。循環型社会を担っているというみんなの意識を共有していくのも自分の仕事かなと思っています」と五十嵐さん。

参考までに、平成14年度に農林水産政策研究所が発表した「外食産業における生ごみ・食べ残し等の処理の実態」によると、「処理業者が回収している1日1店舗あたり回収される生ごみ、食べ残し等の量はおよそ37kg」。実際に資源化するとなると、店側でさらに細かな分別も必要となろう。生み出す側も消費する側も、環境に配慮した選択を考えざるを得ない現代。東京と藤野、料理人と農家、食品残渣と資源が命ある循環をつくれるよう、つなぐ役割を自ら買って出た五十嵐さんの一歩は大きい。

週に2日、藤野らしいやり方で厨房に立つ

鍋をふる
週に2日、町の文化的拠点として内外から人が集まる「カフェレストランShu」で腕を振るう。素材は藤野のオーガニック野菜が主役。藤野名産の柚子の塩漬けや、金木犀の花のシロップ漬けなど保存食も活用。

種を募る
種の購入代金のドネ―ションを募る知人の漫画家手描きのPOP。本人と作りたい野菜のイラストとともに、キャッチーにビジョンを伝えている。各農家バージョンがあり「効果絶大」とか。

FARM TO TABLE

日替わりメニュー(一例)

「オーガニック農家レストラン 土とシェフ」の日替わりメニュー(一例)。手前より、藤野名産の柚子を使った「みそ柚餅子(ゆべし)」とマスカルポーネ、「ゆい農園」の蕪をまるごと包んだ春巻、紅芯大根と紫大根と梅酢生姜和え。漬ける生姜は、ひげ根の部分のみを使用。「ここを梅酢につけるとおいしい、と地元の農家さんに教わったんです。普通は捨てているところが付加価値になる智恵ですよね」(五十嵐さん)。ドリンクは金木犀酒。花を摘んでシロップにするワークショップで作られた。

一般的には水耕栽培が多いトレビス(ラディッキオ/紫チコリ)を地植えで。育てているのは、藤野「ゆい農園」の油井敬史さん。土づくりには農薬はもちろん肥料も使わない。「小枝や雑草を土に蒔いて、2か月くらいかけて土になるまで耕していくんです」(油井さん)。
「ゆい農園」の2月中旬の蕪は軟らかくきめ細かい。そのおいしさに心が動いた人が繋がり、オーガニック農家によるマーケット「ビオ市」や、都心で野菜を育てる「アーバン・ファーマーズ・クラブ」等の活動が生まれた。

ニジマスの蒸しもの 越冬香菜添え

たっぷりの越冬香菜と、近くの川で朝釣れたてというニジマスのダブル主役。長さ30cmほどのニジマスは、軟らかくしっとりとした身で、藤野の風景を味わうような清らかさ。蒸した後、白髪ねぎと千切り生姜の上に熱した油をジュッとかけ、魚醤を使った甘めのタレで仕上げる。

冬季の霜を当て、地面を這うように小さく育てた越冬香菜。「香菜は放置すると木のようになりますが、そうするとえぐみが出てきて香りもなくなります。越冬香菜はえぐみがなく、甘味が口中に残るんです」(五十嵐さん)。
五十嵐さんの畑で獲れた越冬香菜、葉ニンニク、藤野の生産者によるヤーコン、蕪の皮。香菜の根はスープの出汁に。葉ニンニクは麻婆豆腐や回鍋肉に。ヤーコンは炒めものに、蕪の皮は春巻きに。どこも捨てるところがない。

春野菜の炒め 蕗の薹と鹹魚と干しえびの香り

白菜のトウを摘んだ「白菜ナバナ」、スナップエンドウ、ロマネスコ、トレビス、紅芯大根、独活を使用。塩漬けして発酵させた広東料理の調味料・鹹魚(シェンユィ)と干しえびを刻み、油で香りを出してから炒めている。春野菜の香りや食感を生かすため、スープやとろみはつけていない。

HOW TO RESERVE
「オーガニック農家レストラン 土とシェフ」
毎週火曜日および水曜日に「カフェレストランShu」で営業。営業時間はランチ11:30 ~ 14:30、ディナー 17:30~ 21:00。ランチは地元のオーガニック野菜を中心としたセ ットメニュー 1,200円(税込)、ディナーは予算やリクエストに応じた内容を提供する。予約可。
予約方法 [email protected]にメールするか、もしくはFacebook「農園 土とシェフ」経由でメッセージを送付

PROFILE
五十嵐創(いがらし・つくる)
1984年東京都生まれ。東京農業大学短期大学部卒業。父が開業した「広味坊 千歳烏山本店」で13年間腕を磨いたのち、2018年5月より神奈川県相模原市藤野に移住。無農薬無堆肥で農作物を作り、地元農家の作物も取り入れながらレストランやケータリングで料理を提供する活動「農園 土とシェフ」を始める。「東京のレストランの生ゴミをゼロにする」を目指し、多角的に活動中。


※参考資料
有機性資源プロジェクト研究資料 第3号「外食産業における生ごみ・食べ残し等の処理の実態 -アンケート分析を中心に-」

text 佐藤貴子 photo 岡本 寿

本記事は雑誌料理王国2020年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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