日本にもっとオーガニックレストランを!「オーガニック認証センター」の取組み。山下春幸さん(HAL YAMASHITA)


山下春幸さんといえば、素材の持ち味を最大限に活かす“新和食”の提案、そしてそれが食べられるレストラン「HAL YAMASHITA」運営のほか、コロナ禍で貧窮する飲食店のために声をあげたりと、その活動は多岐にわたる。
有機食品とも関係が深く、「一般社団法人オーガニック認証センター」では理事を務める。オーガニック食材の取り組みについてのお話をうかがった。

――2021年7月に「オーガニック認証センター」の理事にな就任されたとうかがいました。さまざまな活動をなさっているなか、こういうお仕事もされているんですね。

山下さん:私の活動の軸は料理人です。なので、食材に対しても人一倍強い思いがあります。私は神戸の出身で、料理人としての人生もこの地でスタートさせました。25年近く前から、兵庫県を中心に有機農法を行っている生産者さんたちと仕入れはもちろん、足を運んだり勉強したりと、さまざまな形でお付き合いはあったんです。
これまでもグループとして存在していたのですが、食の安心安全やSDGsが注目される昨今の状況もあり、「オーガニック認証センター」として法人化し、きちんと組織化することにより、活動をより活発にさせたい狙いがあります。私が理事になったのは、生産者と飲食業界、ひいては行政をつなぐ役割を担うためです。

――日本のオーガニック農作物の現状はいかがでしょう。

山下さん:オーガニック、有機農法などという言葉は随分と聞くようになりましたが、欧米に比べると日本では、まだまだ市場は小さいのが現状です。オーガニック先進国のひとつ、アメリカ合衆国の2017年の有機食品の売り上げは約400億ユーロ。日本は約14億ユーロほど。ひとりあたりの消費額をみても、アメリカ合衆国が122ユーロに対して、日本はわずか11ユーロです。

――そんなに少ないんですね。理由はなんでしょう。

山下さん:いちばん大きいのは価格です。季節やものにもよりますが、オーガニックが一般に流通する農作物の2〜3倍となると、おいそれと手を出せません。

――それは大きいですね。

山下さん:はい。それと、オーガニックが随分知られるようになったとはいえ、日常生活に浸透しているとは言いがたい状況も大きいと考えます。多くの人にとって“オーガニックを身近が感じられない”“意識が高い人たちのもの”という印象がどこかにあって、なじみにくい。その意識を変えていくのも、オーガニックが普及するための課題だと感じています。

――国の動きはどうですか。

山下さん:国で食を扱う機関といえば農林水産省になり、国民の豊かな食生活や農家のためにオーガニックを推進しようという動きは確かにあります。ただ、なかなかハードルが高い。
農家がオーガニック認証を獲得するための審査が厳しいのは当然です。これに対して異論はありません。しかし、日本の農家は基本、小規模経営です。農作業で手一杯で他のことまで手が回らなかったりしますし、認証取得のための費用がかかる点もハードルが上がる一因となっています。

――飲食店に対しても、オーガニック推進の動きはあるのでしょうか。

山下さん:オーガニック食材を採り入れているレストランを認定し、ステッカーなどを貼り出して、それとわかるようにしようという認証制度があります。
しかし、ひとつのメニューで何品目、何割以上がオーガニックであるべし、という規定が非常に厳しい。前述のように、オーガニック食材は高額なので、実際にやりたくてもオーガニック食材でまかなおうとすると、メニューの価格を上げざるを得ない。コロナ禍で厳しい経済状況の中、それは現実的とはいえません。
とはいえ、一般の方々に関心は高まっているのも事実です。オーガニックを扱っているメニューやレストランの認定をもう少し緩和して、その上でしっかりアピールできれば、多少であれば価格が高くなっても納得されるお客さまは多いと確信しています。

――実際に味に、オーガニックとそうでないものと違いはあるのでしょうか。

山下さん:食べてわかるものもあればそうでないものもあります。農作物よりも一足早くその認識が浸透したワインを考えてみればわかりやすいのですが、オーガニックだから味が優れている、味の違いが明確とはいえません。むしろ、環境問題などに積極的に取り組む生産者、小売店や飲食店の姿勢が大事なのではないかと感じています。

――問題提起や共有にもなりますね。

山下さん:レストランでオーガニック食材を扱う意義はまさにそこにあると考えています。言葉だけがひとり歩きしているような現状で、実際に料理に使い、食べてもらう機会を作る。まずはレストランが窓口になって、オーガニック食材を身近に感じてもらいたい。

――レストランで、「今日のタマネギはオーガニックです」などと言われると、興味を抱きそうです。

山下さん:さらに「○○県の△△さんが手掛けました」などの言葉が加わると、その食材がぐっと愛おしくなり、感謝して食べるようになりますよね。
オーガニックは、やもするとむずかしくなりがちですが、根本は“食材本来の力を信じて無理なく育てたものをムダなくいただく”というごくシンプルなものです。
一般のお客さまと触れ合う機会の多い「HAL YAMASHITA」レストラン経営者として、生産者の方を束ねた「オーガニック認証センター」理事として、できることをできる限り、かつスピーディーにやっていきたいですね。

オーガニック認証センター
http://organic-cert.or.jp

Haruyuki Yamashita
1969年 兵庫県神戸市出身 大阪藝術大学藝術学部卒WFP国連世界食料計画顧問。ひょうご食担当参与。一般社団法人オーガニック認証センター理事。
料理の見聞や技術、国境のない感覚を養うため世界各国で修業を積み、 素材の持ち味を最大に引き出す「新和食」を確立。そのパイオニアとして国内外にて活動中。その範囲はテレビ・雑誌等、各メディアと幅が広い。

text: Noriko Hane photo: Yusuke Onuma


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