飲食店を経営するカトープレジャーグループが全国5ヶ所に展開するスモールラグジュアリーリゾート「ふふ」。中でも今年4月にオープンしたばかりの「ふふ 京都」は、南禅寺にほど近い閑静なエリアで、元料亭だった敷地に元々あった、風情ある庭を望める。庭の離れでは、カクテルも楽しめる。部屋の中でもゆったり過ごせるアイテムが充実。通常のケトルのみならず、おいしい茶を淹れるための鉄瓶が置かれているほか、部屋に置かれているグラスはSghrで知られる菅原工芸硝子製のオリジナルグラスも。冷蔵庫にも無料でビールや水出しの玉露などが揃う。ちなみに、部屋には全室24時間適温のひのき風呂があり、おいしいものを楽しみつつのおこもりステイにもぴったりの場所だ。
朝食は部屋食も選べるが、夕食は食事処「庵都(いほと)」で。京都出身の上西康文料理長が生み出す和食に合わせる形で、グループ統括ソムリエの三浦春悦氏が考えたのが、「プリフィックスペアリング」という、新しいペアリングの形だ。
通常なら日本酒ペアリング、ワインペアリング、ノンアルコールペアリング、もしくはミックスペアリングという選択肢になるところを、ゲストが、日本酒、ワイン、焼酎などのいくつかの選択肢の中から選び、オリジナルのペアリングを組み立てられるスタイルとなっている。プリフィックスペアリング は選択肢の中のどれを選んでも均一料金のため、トータルの金額がわかりやすい安心感もある。
「ソムリエがワインすすめるのは当たり前、でも京都にきたら、せっかくだから日本酒も飲んでもらいたい。とはいえ、多くの選択肢が揃うリストから完全に自由に選ぶ、という形だと、逆に面倒。色々な「合う選択肢」提案することで、どれを選んでも、それぞれの料理にぴったりと合い、食体験を格上げする選択肢を提供したい」と三浦氏。
では、実際にペアリングを組み立てる上で、注意するべきポイントはどんな部分になるか、三浦氏にお伺いした。
「ペアリングですから、もちろん合わせる料理との相性がもちろん第一です。それだけでなく、アイテムごとにどういう特徴がその料理に合うか、また酒器の選び方もポイントです。焼酎などの場合は、何で割るかも考える必要があります。特に日本酒の場合、酒器によって辛さが変わるので、魚・肉など食材の種類によって選定する必要があります。器の形や大きさによって印象は様々ですが、とてもシンプルな表現をすると、スリムな形の器の場合は辛く、丸みのある器は甘く感じられることが多いと思います。特に生酒は、ワイングラスと、薄はりなどのお猪口で試すと、違いがわかりやすいでしょう」
並列で組み合わせるアルコールは、ワインなら白・赤・ビオなどの種類、日本酒は生・生酛・山廃など、大きなジャンルに分けてから、味わいによって組み合わせを考えるという。
「選択肢として並列させるドリンクは、同じ方向の味わいで組み合わせる場合と、逆方向の場合がありますが、比較的に味わいがしっかりした料理は同方向、繊細な味わいの料理は逆に合わせることが多いですね。例えば、力強い味わいの地鶏の炭火焼などに日本酒を合わせるなら、乳酸のニュアンスのある日本酒をワイングラスで提供するようにして、ワインも同じ方向性で揃えることが多いです」。また、日本酒と比べてワインの方がインパクトがあるので、組み込む際にはより注意が必要だという。
今回、8品の食事に対して合わせたドリンクは5杯。
【前菜】
上西康文料理長のシグネチャーとも言える、野菜の冷前菜。甘酢を加えたカツオ昆布出汁に京都の丸茄子や万願寺唐辛子などを漬け込み、生ウニを乗せた品。
◎新政酒造 亜麻猫スパークリング生酒/城陽酒造 梅酒3年熟成プレミアム/N.V. Cuvee Prestige Ca del Bosco
スパークリング日本酒、熟成梅酒、フランチャコルタという選択肢だ。甘味、酸味など、味の要素が多いこちらの料理には、酸味と乳酸のニュアンスのあるスパークリング日本酒、こっくりとした甘味のある梅酒、すっきりとした酸のフランチャコルタと、味の方向性を変えたペアリングを提供。最初のペアリングだけに、ゲストの好みを知る一杯でもある。
【御椀】
鰹出汁をベースに白と黄色のとうもろこしをすり流しにし、胡麻豆腐を入れた。
◎作 純米吟醸 穂乃智/北川本家 米焼酎 樽囲いはんなり/岩出甲州きいろ香キュヴェ・ウエノ
ライチを思わせる甘い香りがとうもろこしの甘味を引き立てる辛口の日本酒は、焼酎はお米の甘さととうもろこしの糖度が同じになるような味のバランスに、瑞々しい飲み口のワインはミネラル感があり、胡麻のミネラルと相性がよく、さらに軽やかに感じさせてくれる。味の方向性を変えることで、料理の新しい魅力を発見できるマリアージュだ。
【鮮と炭遊び】
流通が発達した現代ならではの新鮮な刺身「鮮」と、海が遠く、なかなか新鮮な魚介類が手に入らなかった古、都で魚を食べるためには、焼いたり、塩漬けするなど、工夫して食べていた歴史を振り返り、へしこ、うなぎ、香ばしさと甘味のある黒アワビ茸を焼いていただく「炭遊び(ひあそび)」を組み合わせて。
◎京都 澤屋まつもと 守破離 雄町/Domaine Terres Blanches Sancerre 2018
脂の乗った魚に負けないしっかりとした米のニュアンスのある日本酒と、チョーク質のミネラルが感じられ、クリアで瑞々しいワインと、同じ方向性のペアリングで。
【八寸】
梅肉を合わせたハモ、サツマイモとレモンの蜜煮、穴子寿司、だし巻き卵などを盛り合わせている。
【炭】
京都牛のロース肉に味噌を塗り、赤万願寺、里芋などを添えて。保温性のある竹の上に乗せて供する。
この2皿に合わせるペアリング。
◎新政酒造 涅槃亀オーク貯蔵品/丹後蔵 芋焼酎 いもたんHIKO/Albert Bichot Gevrey-Chambertin La Cuvee du General Legrand 2015
しっかりと甘辛い味わいが多いので、日本酒はオーク樽貯蔵の香りと味わいのしっかりとしたもの。香り穏やかでスッキリした味わいの京都芋焼酎は、常温の水割りで。フランス料理に近いしっかりとした味わいなので、バランスの取れる生産者を選び抜いたピノ・ノワールの赤ワインと。
【鍋】
丹羽高原黒豚や水菜、冬瓜や山ウドの山椒鍋
【食事】
鮎の釜炊きご飯
どちらも温かい温度帯で提供される料理に対する〆のペアリング。
◎木屋正酒造 特別純米 而今
米の旨味を十二分に引き出した而今の特別純米。
黒豚の鍋料理には旨味を引き出すワイングラスで愉しみ、鮎の香りと苦味が心地よい焚き込みご飯にはしっかりと冷やした切子の銚子で。
様々なペアリングがある昨今だが、ワインペアリング、ノンアルコールペアリングなどを決めた後、具体的に提供される飲み物の内容は店にお任せなことが多い。ゲストが一皿一皿に合わせて自分で選べる「プリフィックスペアリング」は、その店のプロが選んだ内容でありつつも、飲み物を選ぶ自由と楽しみを、ゲストに提供しているペアリングと言えるだろう。
取材・文・撮影= 仲山今日子
仲山今日子
ワールド・レストラン・アワーズ審査員。元テレビ山梨、テレビ神奈川ニュースキャスター。シンガポール在住時、国営ラジオ局でDJとして勤務。世界約50ヶ国を訪ね、取材した飲食店や食文化について日本・シンガポール・イタリアなどの新聞・雑誌に執筆中。