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「サケトロノミー」~石川・小松の酒と地産を一流シェフの技とともに


石川県・小松市、市街から車で20分ほど離れた山里に、日本最高峰の醸造家のひとりで、生きる伝説でもある農口尚彦(のぐちなおひこ)氏を杜氏に迎えた「農口尚彦研究所」がある。ここで不定期開催されている酒と食のペアリングイベントが「Saketronomy(サケトロノミー)」だ。その第5回目が5月29日、30日の2日間(昼夜4回)にわたって行われた。

小松から山里へ。「この地の水の素晴らしさに惹かれた」という農口杜氏。水だけではなく空気もいい

Saketronomyは、「地元農産物や食に関わるクリエイターの発信拠点を創造し、小松市を「美食のまち」として世界中の美食家達の旅の目的地とする」ことが目標のプロジェクトから生まれた、「Sake」と「Gastoronomy」の融合をコンセプトとしたペアリングイベント。

Saketronomyが行われたテイスティングルーム「杜庵」。茶室をイメージし、石川の文化を忍ばせた心地よい空間

イベントと言っても静謐なテイスティングルームが会場。少人数(1回9席程度)で行われるプレミアムなもので、初回は、2019年3月25日に開催され、ゲストシェフにはフランス料理世界大会「ボキューズドール 2019」 の日本代表である髙山英紀シェフ(メゾン・ド・タカ芦屋)を招聘。以降、「台湾 祥雲龍吟(台湾)」稗田良平シェフ、「レストランA.T(パリ)」田中淳シェフ、「西麻布 山﨑」山崎志朗シェフと続き、最新回である第5回は、京料理の匠、高木一雄シェフを迎えた。

農口杜氏(右)と高木シェフ(左)

高木シェフは、2015年にはインターコンチネンタルホテルグループのアジア・中東・アフリカ地区のアンバサダーシェフに就任。2016年は、日本政府の要請により、ローマで開かれた国連食糧農業機関のシンポジウムに参加。その他、海外のレストランプロモーションの招聘も多く、F1シンガポールグランプリのゲストシェフなどを含め、これまで11カ国、30回以上の海外イベントを行い、日本料理の魅力を世界に発信してきた。そこでキーになっていた一つに日本酒とのペアリングもあり、結論から言えば、今回のSaketronomyでも、その発想と経験が存分に披露されていた。

日本酒のペアリングの魅力のひとつが温度帯。キリっと冷やしたものからとびきり燗、一度上げてから冷ますなど多彩な提案があった。

今回提供されたのは10酒11杯のバリエーションと11皿のペアリング。第1回、第3回に参加した経験があるが、毎回感心させられ、発見をもらえるのは、シェフと杜庵のスタッフによる、テイストやテクスチャーというペアリングの基本要件だけではなく、温度、酒器という、さまざまな組み合わせのアイデア。今回は特に、ワインには難しい、酒の温度帯により引き出される、食材の旨味や歯ざわりの艶が印象的だった。

「金時草とガス海老」×「YAMAHAI MIYAMANISHIKI 無濾過生原酒 2018vintage」。酒の温度帯と料理のテクスチャーを合わせる妙味。

例えば2皿目、「金時草とガス海老」。地元能登産のガス海老に隠されたねっとりと濃厚な舌触りとうま味を、ぬる燗で引き出し、絡めあい、豊かな余韻へと導く。酒は「YAMAHAI MIYAMANISHIKI 無濾過生原酒 2018vintage」。どうしても「いい酒は冷やして」というイメージがあり、燗にするという発想は勇気がいるところだが、そこを超えていくと、なんとも豊かな世界が広がっていく。もちろん温度だけで合わせたわけではなく、ガス海老の甘味、金時草のほろ苦さに、この酒が持つボダニカルでハーバル、しっとりしながらもさわやかさがあってこその楽しさがあった。酒自体、ヴィンテージというイメージからくる深みのようなものは生かされながら、瑞々しいきらめきと優しさの両面があり、多彩な温度で楽しめる良さがあった。

「能登牛炭火焼」には「JUNMAI DAIGINJO無濾過生原酒2018vintage」。肉の旨味とトマト麴の酸味、山椒のさわやかさが、この酒の特徴と手を取り合った。

地酒が持つ魅力、地元食材の魅力。小松に誕生し、小松、石川、北陸の食材や文化と手を取り合い、さらに小松ではない人たちの感覚も加え、この地の魅力をここではないどこかへ。それがこのイベントの魅力だろう。毎回、ここに招聘されるシェフたちの、地元の食材と、海外での経験を含む自分の世界との結び付け方も見事だし、なによりも毎回、農口杜氏の酒、スタッフたちとのコラボレーションを心の底から楽しんでいるようだ。その様子を味わうのもまたSaketronomyの魅力かもしれない。次回の開催も期待したい。

農口杜氏といえば山廃の開拓者であり巨匠。だが、風味も飲み口もどこまでも優しくすっと溶け込んでくれる。

岩瀬 大二
Daiji Iwase
ライター/酒旅ナビゲーター/MC
国内外2,000人以上のインタビューを通して行きついたのは、「すべての人生がロードムーヴィーでロックアルバム」。「お酒の向こう側の物語」「酒のある場での心地よいドラマ作り」を探求。シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。シャンパーニュ騎士団認定オフィシエ。「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。ワインや酒に関する記事を専門誌、WEBマガジンにて執筆。MC/DJとして多数のイベントに出演。
当WEBにて、コラム:酒とワインの幸せを体感する場所と時間「ワインと酒を巡る冒険」も連載。



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