新たな地中海料理:実験的な皿でフーディーたちを惹きつけるロンドンの新名所


ロンドンで最も実験的なキッチンの一つを運営するチームが、食通がたむろする市内きってのグルメ街に2店目をオープン。地中海地方にインスピレーションを得た独自アイディアを、またも発信し始めている。

恩師となる人がいて、先輩シェフというのがいるとしても、どうにもこうにも独自カラーを発揮しなければ立ち行かないのが、シェフの世界だ。

2016年にロンドン北部の美しい広場に面して「Perilla / ペリラ」という名のレストランがオープンしたとき、かつてない斬新な皿の数々に多くのロンドナーが虜になった。

そのペリラの創業エグゼクティブ・オーナーシェフは、国内で一時代を築いた伝説の2つ星レストラン「ザ・スクエア」や、5つ星ホテル「クラリッジズ」の厨房だけでなく、世界のNomaなどを経験したBen Marks / ベン・マークスさんである。彼の師匠の一人に「ザ・スクエア」を成功させたフィリップ・ハワードというマエストロがいるが、ベンさんは今となっては、シェフ・フィリップさえも思い付かないような奇抜で全く新しい視点を取り入れた料理を手掛けることで知られている。

ペリラの創業チームが新たなヘッドシェフを迎え、今年2月に2店目をオープンした。ユニークな店が軒を連ねるグルメ通りにあるそのレストラン「Morchella / モルケッラ」は、早くもフーディーたちの溜まり場となり曜日を問わず大賑わいだ。

ヴィクトリア朝時代の元銀行を改装したホットな空間。
オープン・キッチンで大チームが汗をぬぐいつつ立ち働いている。

新ヨーロッパ料理を標榜するペリラとは一線を画し、モルケッラはバルセロナの最前線バルを思わせる独自の地中海料理を提供している。ペリラと同じDNAを持っているだけあり、スペイン・イタリア風の小皿料理は今のロンドンらしい煌めきがある。

「塩ダラのチュロス」と名付けられた皿は、塩ダラのコロッケをチュロスのように細長く整形し、力強く繊細なロメスコ・ソースと一緒にいただく人気の品。濃厚な味わいでオレンジ・ワインによく合う。トマトではなくラディッキオで作るパンザネッラは、爽やかなビーツやブラッド・オレンジを組み合わせた申し分ない箸休め。みずみずしいラディッキオの歯触りと香りが何よりのご馳走だ。

ヒヨコ豆とほうれん草の煮込みには柔らかな卵、アイオリが添えられている。優しく深みのあるトマト・ソースを吸ったパンと一緒にいただくとえもいわれぬ満足感がある。

2度の訪問で2度とも注文したソルト・コッドのチュロス。2回目は塩気が強く感じられたが、それでも完食。
右はイカの上にアンコウの切り身を載せたタパス料理。ホースラディッシュ・ソース。左はおつまみ風に工夫したヴィテッロ・トンナート。
ヒヨコ豆とほうれん草の煮込み。滋味深く穏やかな味わいでどんどん食べられる。

メイン・セクションにある若鶏のソルトベイクも甘くコクのあるチリ・ソースが特筆すべき味わいだったが、最後にあっと驚いたのがギリシャ伝統のオレンジ・ケーキ「ポルトカロピタ」を進化させた、ユニーク極まりないデザートだった。

ほど良い甘さの歯応えあるスポンジに、ブラッド・オレンジがほろ苦さを添えている。食べ進めるとブラック・オリーブのマットな質感が加わり、独特の風味が味に陰影をもたらす。これをいただくためだけに、私はまたモルケッラを再訪するだろう。

バーも併設され、予約なしで気軽に立ち寄ることができる。このクオリティの料理をウォークインでいただけるのはロンドンではありがたいの一言だが、再訪したくなる気持ちを後押しするのは、店の雰囲気も大きい。

元銀行だった天井の高いヴィクトリア朝建築を改装し、北欧風の落ち着くモダン空間を創り上げている。カウンター内に広がるオープン・キッチンはフォーカル・ポイントで、ミッションを背負ったチームが忙しく立ち働き独特のヴァイヴを放つ。テーブル席につくと手前の引き出しの中にカトラリーとメニューを発見し、目が輝く。空間全体にパワーがみなぎり、また戻ってきてこの一部になりたいと思わせるのだ。

モルケッラには、今のロンドンの食業界が成功するための全てがある。

若鶏のソルトベイク。甘みの強いチリ・ソースに生姜の香りが漂う。ガーキンと合わせるとさっぱりといただける。
ブラック・オリーブがアクセントのブラッド・オレンジのケーキにはクロテッド・クリームがよく合う。

Morchella
https://www.morchelladining.co.uk

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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