食の未来が見えるウェブマガジン

中国料理ですらない!?広東料理を別次元に押し上げる「サエキ飯店」(後編)


“じゃなきゃいけない”はない。ゆえに中国料理ですらない!?

広東料理人としてストイックに修業した12年を経て、一度自らを解放し、心のままに世界を放浪した、佐伯悠太郎シェフ。風通しがよく、気持ちよく、ライブ感溢れる「サエキ飯店」はいったいどんな体験から生まれたのだろう。後編。

固定観念からの解放と、 広東料理からの守破離。

何かに深く通じれば通じるほど、「型」や「ルール」に固執してしまうこともあるだろう。それは料理人だけでなく、客も同じだ。「でも実際、向こうの人はそんなに細かいことを考えてないんです。特に香港の料理は、他の地域の食材や食文化を柔軟に取り入れて、香港で独自に進化しているんですよね。 歴史を遡れば、西汁猪扒(サイッチャップヂューパー:ポークチョップのトマト煮込み) のような香港式洋食や、広東省潮州市にルーツがある打冷(ダーラン:肉や内臓の煮込みや惣菜を夜食などで食べる文化)は誰もが認める香港の食文化ですし、今では『和牛の焼き肉のたれ炒め』なんてメニューも、当たり前に料理店で見かけます。自由なんです。だから、僕の料理も『こうじゃなきゃいけない』っていうのは一切排除したい。料理に『~でなければいけない』なんてことはないんだから」。

「豚マメと豚レバーの湯引き」

一にも二にも新鮮な内臓が命。スープや潮州辣椒油(広東料理 の唐辛子調味料)を合わせたタレでシンプルに調味する。

「鶏の紹興酒漬け」

味のベースは白滷水(香辛料入り調味液)と紹興酒。沸騰した湯に鶏肉を入れ、火を止めて待つその時間が鶏の食感を決めている。

そんな感性で作られる料理だから、蘊蓄は無用。例えば、中国料理人ならおそらく誰もが作ったことのある、鶏の紹興酒漬けやゆで鶏なら「どう提供したいか」を大事にする。「今日から数日間に分けて出していくのか 、今日のお客さんのために作るのか。僕の場合は、今日来るお客さんに合わせて仕込むので、ムネとモモにギリギリ火が通るところで留めます。そうすると、ササミは生のままですが、ムネは驚くほど軟らかい食感になり、モモはぷりっと仕上がる。おいしいと思う部位は人によって違うから、カットしたら、あの人はモモ肉が好きだったからここを盛ろうとか、『この部位最高!』って言っていた知り合いの香港人には好きな部位を見繕って出そう、とか」

「平かしわと干しつぶ貝の蒸しスープ」

京都の山奥で育った新鮮な鶏と、うま味の強い干しつぶ貝に、金華ハム、日本の白菜、生姜を合わせ、じっくり蒸して素材の力を引き出した。

「スジアラの頭の土鍋煮込み」

材料を揚げて香ばしさを出すのがポイント。広東省の中でも潮州でよく使われる豆醤の味わいが長い余韻を生み、食欲を刺激する。

最近評判なのが内臓料理だ。新鮮なレバーや豚マメ(腎臓)が入るときは、下処理をして下味をつけ、サッと湯引きに。「味付けはスープに油を効かせ、台湾の油麻鶏(ヨウマージー)のような感覚で仕上げています。湯引きは香港にある料理ですが、火の通し方は自分好みです」。そして、ライブ感たっぷりに楽しめるのが土鍋煮込みだ。例えばスジアラの頭であれば、佐伯シェフが好きだという潮州の豆醤を使い、一度唐揚げのようにバリッと揚げてから煮込む。火を入れた豆醤は、葱や唐辛子、 揚げたにんにくや生姜、オイスターソース、油と炎の力でとろりとひとつになり、よりマイルドに余韻の長い味わいを描く。一方、圧倒的なうま味を湛えた蒸しスープは、伝統的な調理法からまったく変えていない。「だって、すごくおいしいじゃないですか。 だから変える必要なんかない。自分のおいしいと思うものを作っていくだけです」。 そう、私たちはこのカウンターで、窮屈さから解放され、確固たる技術に裏付けされた「自由な料理」を知るのだ。

佐伯悠太郎(さえきゆうたろう)
1985年愛媛県生まれ。「聘珍樓 新宿三井ビル店」「福臨門酒家 大阪店」「赤坂璃宮 銀座店」を経て、広東省に語学留学。29歳でワーキングホリデー制度を利用し、香港「家全七福」ほか4店舗で修行。帰国後「楽記」料理長に。退任後、アルゼンチンを皮切りに、南米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアなどを巡り、帰国後『傳』の厨房に入る。2019年4月「サエキ飯店」をオープン。
サエキ飯店
東京都目黒区三田2-10-30 荒井ビル1F
18:00 ~ 24:00
不定休

text 佐藤貴子 photo 田村浩章

記事は雑誌料理王国2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする