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名匠のスペシャリテ「クイーン・アリス」石鍋裕さん


偉大なる先駆者たちが生み出した不朽の名作

創意工夫を凝らし、洗練を重ね、完成させるスペシャリテは、時代を超えてなお記憶に深く刻まれるインパクトに満ちている。偉大なる先駆者たちが生み出した不朽の名作を繙きます。

フォワグラのソテー 大根添え

このスペシャリテが誕生したのは、1984年頃。バブルの真っただ中で、朝から晩まで仕事に明け暮れる毎日でした。目新しいきっかけを作れば、お客さんがどっと来店する時代。駅のない西麻布の住宅街で、ゲストを1日500人は迎えていました。

きっかけは雑誌の連載です。「家庭でできる料理」というテーマで、フォワグラに大根を合わせてみました。日本の根菜類は、カブにしても大根にしても本当においしい。カブは数時間で味が抜けてしまうが、その点大根はへたりませんし、利便性があって安さも魅力。大きく厚く切って、丁寧に下ゆでし、上質なチキンコンソメでしっかりと煮込んでいきます。テリーヌのイメージが強いフォワグラは、素材そのものに主張があるので、塩、コショウをして表面がパリッとするまで焼くだけ。調理はごくごくシンプルです。ソースは鴨のフォンをベースに、エシャロットやニンニク、コショウなどでスパイシーに。香りが高く、カラメルのような香ばしさもあります。フォワグラはあまりデリケートに料理すると、食べ疲れしますから。言ってみれば「おでん」のようなもの。実際ほっとさせる味わいですし、こう伝えると抵抗を感じるお客様もスムーズに食べてくださいます。

ハンバーグやトンカツの域にまで落とし込めるか

身近な食材と高級な食材の組み合わせは意外性があり、瞬く間に話題となりました。大衆がちょっとした贅沢を求めていた頃です。自分の個性を主張したり、技巧に走るよりも、ゲストが食事をしながら楽しい会話をし、有意義な時間を過ごすことで人生の大切なエッセンスになれば、というのが僕の思いでした。この皿は温前菜でお出ししましたが、当時はオマールやトリュフも使ってコース7500円だったのですから。今の若い子の店に行くと、食べたか食べないかわからないような量なのに高い。やはりプロの料理人なら、少しでも安くする努力も必要だと思います。僕らが若い頃は、今のように何でも手に入る状況ではなかったですからね。フランスから帰ってくると、インゲンひとつにしても極細インゲンのアリコベールや甘味の強いものが欲しかった。だから種を持って帰ってきては、知り合いの農家さんに作ってもらったり、そこからのスタートです。フォワグラは子会社を通して輸入することで安定した価格で購入が可能となり、買い支えができました。1ヵ月で使った量は2トンです。もちろんグループ全体でしたが、この記録はそうそう破れないでしょうね(笑)。

スペシャリテは高級食材でなくても、安い材料でも十分成り立ちます。ただし、自分がどんなに作り飽きたとしても、やめさせてはもらえない。どんなにいい料理ができたとしても、「私はあれが食べたかった」と言われる。お客様はその味を求めて来てくれるのも事実です。あのトロワグロにしても、同じ料理を50年作っているのですから。それならば、ハンバーグやトンカツのように、日本人になじみ深い洋食の域にまで落とし込めるか。潔く貫く姿勢も、大切ではないでしょうか。


フォワグラのソテー 大根添え
大根はていねいに下ゆでし、鶏骨付きもも肉のみで引いたチキンコンソメで煮る。煮てすぐよりも1日おいたほうが味もよくなじむ。芳醇でコクのあるフォワグラと上品な大根を一緒に食べることで、口の中で旨味が渾然一体となり、さっぱりとした余韻が残る。キレがありスパイシーなソースでまとめ上げる、石鍋シェフを代表するひと皿。

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クイーン・アリス 石鍋裕
1948年2月7日生まれ。神奈川県横浜市出身。16歳でフレンチの世界に入り、1970年の大阪万博を機に渡仏。パリ「マキシム」をはじめ5年の修業の後、27歳で帰国。六本木「ビストロ・ロテュース」の料理長を経て、34歳で独立し、「クイーン・アリス」を開店。現在では、料理人であるとともに、食に関わるさまざまな分野でプロデューサーとしての手腕を発揮している。


photos by Teruaki Nagamine, text by Cuisine Kingdom

本記事は雑誌料理王国第214号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第214号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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