名レストラン御用達の美味しいベーカリーガイド「ル・ルソール」 21年8月号


名レストランの料理には美味しいパンが欠かせない――。このベーカリーガイドでは、料理人の指名を受けてパンを焼く名の一流ベーカーをご紹介。料理人のリクエストや哲学をくみ取って、料理を支える最高のパンを作り上げる、ベーカーたちの思いとは?

土地に根ざしたものが求められる時代の、今の日本ならではのパン。

料理人たちが日本の食材を再発見し、それを用いて大切に表現していく時代、パンも同様に、日本ならではのパンを世界に向けて胸を張って発信していく時が来ている。行列の絶えない人気店「ル・ルソール」は、創業以来そのスタンスを守り続けている。

フロリレージュ(東京・外苑前)
「スペルトカンパーニュ」(左)、「酒粕の蒸しパン」(右)

滋賀県の大地堂、廣瀬敬一郎さんの古代小麦を使ったカンパーニュは色濃く焼けてうま味たっぷり。焼いたものと蒸したもの2種が供される。酒粕の蒸しパンはポーリッシュ法でつくられ、日本酒が甘く香る万頭のようなパン。

2001年に日本に上陸した「メゾンカイザー」の立ち上げに携わった清水宣光さんは、いざ自分の店を開こうという時、日本の環境下でフランスの名店を再現することには興味がなかった。それよりもフランスでパンを焼く仲間に、いつか日本のパンスペシオを教えてあげられるようになっていたい。その時、日本の小麦を使っていなかったら淋しい気がする。それで国産小麦を用いることにした。そして今、日本のフレンチレストランも、日本の食材を使うことを大切に考える時代になっている。「レストランに供給することを考えると、土地に根ざしたものが求められているのを感じます。そのシェフにとって何が大事かを考えてつくります」。

重要なのは技術だけではない、と言うのは清水さんが長年パンを納める「フロリレージュ」の川手寛康シェフだ。「パンは唯一の外注食材なので、シェフ同士の時差のないコミュニケーションが必要です。お客さまの反応、季節食材との相性、パンの状態、あげればきりがないほど密接に絡み合っているのです。食事中のパンには細やかなフィット感が必要で、それを進んで具現化してくれるのが清水さんなのです」。

例えば、テクスチャーとして軽く、咀嚼回数を多く必要としないパン、という要望には蒸しパンで応えた。肉が蒸しと焼きで違うように、同じパンでも全く異なったものになるのだ。

「レストランのパンは大変に手間のかかることなので、かけてもよいと思える料理人とだけ仕事しています」。清水さんは言う。「食べることが大好きなので、食べることが好きな人のいるレストランという場で仕事をし、成長したいと思ってやっています」。

奥は「sio」のフォカッチャ、手前は「パーラー大箸」のワンローフ。レーズンと小麦の酵母で発酵させたフォカッチャは、白いご飯をイメージして作られたが、料理のトーンを落とさないように、塩を効かせているのが特徴。口どけが良くそのままでも美味しい。「ワンローフ」は「sio」の鳥羽周作シェフが展開する別業態「パーラー大箸」の黄金比率のあんバタートースト「パンあんこバター」のために作られたオリジナルブレッド。レーズン酵母を使用し、味に奥行きを出した、乳製品たっぷりのソフトでリッチな食パン。トーストすると軽やかな食感になる。
コロナ対策のため、店頭に並ぶパンはビニール袋に入れて販売せざるをえない状況が続く。

清水宣光

1979年愛知県出身。製菓専門学校卒業後、洋菓子店のパン部門を経て「メゾンカイザー」日本一号店の立ち上げに携わる。その後国内外で研鑽を積み、2006年駒場東大前に「ル ・ルソール」を開業。2020年Scene KAZUTOSHI NARITAのシェフブーランジェを兼任。2021年夏にル・ルソールのラボをオープン予定。

ル・ルソール

東京都目黒区駒場3-11-14 明和ビル1F
9:00~18:00(土日祝は17:00まで)
月休(祝日の場合は営業、火休)

text: Mihoko Shimizu photo: Katsuro Takashima

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