フランス 日本酒蔵の今「WAKAZE」

パリの空の下、「世界酒」の歴史が始まる。

スローガンは、「日本酒を世界酒に」。2019年11月、パリ郊外にSAKE醸造所「KURA GRAND PARIS」を立ち上げた、日本酒ベンチャーのWAKAZEが、2020年春、デビュー作「C’est la vie」(これが人生)をリリースした。現在、第2弾も発売中。 2年目を迎えた杜氏の今井翔也氏にパリでの酒造りについて語ってもらった。

コロナ禍のパリで「Cʼest la vie」と名付けた思い。

―― 2019年11月15日フランス・パリ郊外にKURA GRAND PARISを立ち上げて1年が経ちました。第1弾「Cʼest la vie」(セ・ラ・ヴィ)リリースはロックダウンのタイミングでした。「SAKEを世界酒に」という志でパリに来られた今井さんにとって、このタイミングでのコロナ禍をどう捉えていますか?

食が人を繋いでいたことの重要性を再認識すべき時期だと捉えています。蔵の創立初年度の最中、ロックダウンでフランス全土の飲食店が閉鎖となり、人々が囲む食卓の場所や人と人の距離感が大きく変化しました。食の都パリだけでなく、欧州各国にお酒を届け、その食卓に添えられる一瞬の喜びを想像してお酒を設計してきたKURA GRAND PARISにとっても、その価値の再考を迫られた大きな節目になりました。ロックダウンの中にあっても変わらぬ日々の癒しと喜びを届けることを使命と信じ、少人数で稼働を止めず酒造りに邁進してきました。
食と酒の関係は、主従でいえば酒が従の存在であり、お酒は人々を繋ぎ潤滑させる液体であると信じています。食のプロフェッショナルたちが多くの困難に直面する時代だからこそ、酒がそっと食を支えられるように自らの役割を堂々と全うする醸造所でありたいと考えています。

――「Cʼest la vie」は、2020年8月末にパリで開催されたフランス人トップソムリエのテイスティングによる日本酒のコンペティション「Kura Master」にて、純米酒部門の最高賞、プラチナ賞を受賞されました。WAKAZEと言えば定番のFONIA、ORBIAに代表される一筋縄ではない酒質が特徴というイメージがあったので、純米酒部門での受賞が新鮮な驚きでした。

「Kura Master」を受賞した「C’est la vie」は、創立初年度に初期衝動を込めて造り上げたひときわ思い入れのあるお酒。それがフランスの権威ある賞を受賞したことは素直に感動が大きいです。また、先日世界最大規模のワイン品評会IWCの「SAKE部門」に出品しシルバーメダルを受賞した「C’est la vie」は、ロックダウンが決まった日に醸造所閉鎖もあり得た中で仕込み始めた、スタートから数えて9本目の醪で、COVID-19に負けずにパンデミックが収まった頃に喜びの乾杯の酒となることを願って仕上げたものです。実は、同日ニューヨークでSAKEを造る醸造所「Brooklyn Kura」も同じようなロックダウンの状況で仕込み始めており、当時Twitterで連絡交換して同じ日に三段仕込みの一段目である「添」を仕込んだことがわかってから、海を越えて醸造家が繋がっていることを心強く思いました。そのお酒がうまく仕上がった先にある受賞で感慨深いです。

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