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規制緩和がもたらす未来図「醸造家 岡住修兵の挑戦」


日本酒業界は新規参入が極めて難しい。そんな現状に一石を投じようと自身のブランド「稲とアガベ」を立ち上げ、清酒製造免許の取得に本気で取り組む男がいる。岡住修兵、32歳。酒造りの神秘に魅了された、若き醸造家に話を聞いた。

若い人材が育たない業界に未来はないと思っている

――取得困難と言われる清酒製造免許の獲得を目指そうと思ったのは、どのような考えがあったのでしょうか?

「新政酒造でお世話になっている頃から、いつか醸造で起業することを目標に掲げていました。ともに酒造りをしていたWAKAZEの今井氏は、すでにフランスで酒造りを始めていますし、彼らが世界で勝負しているなら僕は国内を変えられる人間になろうと思ったんです。目指すべきは清酒製造免許の規制緩和であり、日本酒業界への新規参入。現行法だと清酒や焼酎の新規参入は、ほぼ不可能な状態になっています。とは言え、近年は日本酒特区や輸出用清酒醸造免許などの規制緩和があり、『はせがわ酒店』さんは試験製造免許を取得して東京駅に醸造所を作りましたよね。実際に国税庁の方にも話を聞きに行きましたが、新規参入が増えることで日本酒の未来が作れるという肯定的な見解を示す方もいらっしゃいました」

――単に清酒を製造したいのであれば、酒蔵を買収するのが手っ取り早いと思うのですが。

「はい。その通りだと思います。でも僕がM&Aで参入してしまうと、文脈が変わってしまうので」

――文脈とは?

「僕の同世代や20代の日本酒好きって、面白い考えを持っている人がたくさんいます。彼らが活躍できる業界にしていくことが、僕が考える文脈です。残念ながら日本酒業界は斜陽産業です。『十四代』さんをはじめ、蔵元杜氏の文化が業界をけん引してきましたが、売り上げが落ち込み杜氏を雇う資金が確保できなくなり、蔵元みずから杜氏を兼任するというケ―スも少なくないわけです。一方で蔵元が杜氏になると、僕たち蔵人や従業員は杜氏になれない。つまり、出世ができない。それではモチベ―ションが上がらないと思います。若い人材が育たない業界に未来はありません。頑張った先に、醸造長というポストがあり、それなりの報酬が得られる業界にしていきたい。その第一歩に新規参入があると思うんです」

――規制緩和実現の可能性を、どのように見ていますか?

「5年~10年後には規制緩和していると思います。その年に減った蔵数くらいは補えるような世の中になるのではないでしょうか。もちろん国税庁の担当者によってスピ―ド感は変わってくると思いますが、すぐ実現されるべきだとは僕も考えていません。段階を踏むことが大切なので、まずは六次産業化でしょう。農地を守っていくという日本の至上命題に対して、耕作放棄地を復活させて酒蔵が六次産業化を図る動きは、国の方針とも合致しているわけですから」

――秋田に新しい酒蔵を造るプロジェクト「稲とアガベ」の取り組みとも一致していると?

「そうですね。僕が2018年に掲げた目標が、3年後には秋田で田んぼを取得し、自分の醸造所を持つことでした。酒造りの仕事を覚えていくうちに強く抱き始めた矛盾が、米を使って酒を醸しているのに、自分は米のことを何も知らない事実。だからまずは米を知ることを始め、米作りからはじめる酒造りをコンセプトに栽培醸造蔵を目指すことにしました」

――米作りを学んだ先が、自然栽培米のパイオニアである石山農産の石山範夫さんだったそうですね。

「大潟村の田んぼをご紹介いただける話があって引っ越したはいいけれど、その田んぼの話が延期になってしまって…。就労先を探しにハロ―ワ―クへ行ったら、運よく石山さんの求人が出ていたんです。でも石山さんは、何年もずっと働く人材を探していた。僕の希望は今年いっぱい。その希望なら通年雇用は無理だと言われ、田植えの間だけバイトさせてもらいました。石山さんはとても厳しかったですね。口も悪いし(笑)、毎日どなられていました。ものの持ち上げ方ひとつとっても気に入らないと。でも、いつも元気に返事して朝早くから田んぼを走り回っていたら、次第に気に入ってもらえて。最後には自然栽培のササニシキをわけてもらえるようになりました」

次ページ:自然栽培のササニシキを入手した岡住さん、その「酒造り」と「結果」


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