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「木桶仕込みの酒」が支持される理由


新政の特徴は「甘酸の絶妙なバランスとジューシーな味わい」、そして木桶由来の「複雑さ」だ。木桶仕込みの酒に宿る魅力を、新政を愛する食のプロフェッショナル、大越基裕氏と杉本敬三氏が語り合った。

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PROFILE

大越基裕(おおこし・もとひろ)
外苑前「AnDi」、広尾「An Com」オーナー。ワインテイスター/ソムリエ。フランス料理店の老舗「銀座レカン」でシェフソムリエを務めた後、独立。日本酒に対する見識も高く、サケエデュケーターとしても活躍。ワインと日本酒、世界と日本の酒を語れる食のエキスパート。

杉本敬三(すぎもと・けいぞう)
新橋「Restaurant La FinS」オーナーシェフ。12年間のフランス修業を経て帰国後、32歳で現レストランを開業。料理を独学で学び、独自の信念で突き進む姿は、新政酒造蔵元の佐藤祐輔氏と共通する。新政愛好家を自称し、貴重なバックヴィンテージを多数所有している。

木桶由来の微細な要素がおいしさに繋がっている(杉本)

――新政酒造が木桶を導入する際、「木桶仕込みはオフフレーバーが出るのでは?」と疑問視する声も多かったようです。

大越 「これまで新政さんのお酒はたくさん飲んできましたが、木桶由来のオフフレーバーを感じたことは一度もありません。むしろ、木桶のニュアンスが加わることで、フレーバーやストラクチャーといった味わいの世界観を確立することに寄与すると思います」

杉本 「ワインでも木桶を使いますが、蔵に棲む菌、葡萄が持っている菌以外に、木桶の中に入り込んだ微生物が、最終的に新しい風味を生み出しているのではないかと推測できます。木桶でお酒を仕込むことで複雑な発酵経過をたどり、個性的な味わいになるという点は、日本酒にも共通すると感じています」

大越 「日本酒は、余韻を含めどのように綺麗なフィニッシュで締めくくるかが大事。甘ダレするお酒は、杯が進まなくなってしまいます。一方、木桶のフレーバーやストラクチャーは、きれいにフィニッシュを迎えることに一役買っていると思います。「No.6 S-type Essence 2019木桶仕込み 生酒」は初めて飲みましたが、現行商品と比べて輪郭が整い、ひと段階クオリティーがあがった印象がありましたね」

杉本 「一般の方が、このお酒を飲んだ瞬間に木桶仕込みと判断するのは、非常に難しいと思います。でも、この微細な要素が実はおいしさに繋がっているんですね」

大越 「シェフが仰ったように、強すぎないから貢献になるんですね。強すぎるとマスキングになってしまい、単純化してしまいます。控えめであることで、香りのレイヤーが増え、複雑性につながるんだと思います」

杉本 「なぜ新政さんが木桶で酒造りをするのかを考えてみたのですが、自分の料理に共通することが多くて」

――それはどういうことですか?

杉本 「料理は何にしても、その工程を簡単にすればするほど味が単調になります。その最たるものが低温調理です。低温調理をすると柔らかくはなりますが、おいしくはなりません。機械的に、科学的に料理を作り始めると微調整しなくなります。僕の店だと、僕自身が料理しなくても料理ができてしまう。でも、僕はそれを許さない。レシピと作り方で真似は出来ても、僕の味は出せないからです。

同じように、仮に新政さんのお酒の分析データを真似て酒造りをしても、新政の味が出ることはないと思います。料理も日本酒も手間をかけるということは、つまり愛なんです。愛とは、手を差し伸べること。料理においても、水を入れる、皮を剥く、煮詰める、仕上げる、いろんなところに手を差し伸べるわけです。その数が多ければ多いほど、料理はより完成度の高い方向にいくと思っています。木桶も、新政さんの愛のひとつなんじゃないかなと。だって、木桶は手間がかかるじゃないですか。一度使った木桶の内側をカンナで削って、熱湯で殺菌してから、また次のお酒を仕込む……。こういった手間も愛ですよ」

大越 「新政さんの蔵には毎年伺っていますが、愛の数は年々増えていると思いますよ(笑)。半切り桶による生酛造り、蓋麹、手洗い洗米など人手のかかる工程もそうですが、より良いお酒を造るために手間を惜しまないという考え方の延長線上に、木桶があるんだと思います」

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