「フレンチレストランOGINO」だけでなく、複数のイートイン形式の惣菜店、パテやソーセージの専門店を経営する荻野さんが、1カ月に使う野菜の量は半端ではない。多くの人の口に入るものだからこそ「、おいしく安全なものをできる限り低価格で」がモットー。テイクアウトの惣菜にも心を込め、手作りにこだわる。この日もレストランの休憩時間を利用して、100人分もの野菜のタブレを手際よく作ってみせた。
荻野シェフが使う野菜は無農薬、低農薬が大前提。たくさんの野菜が収穫される時期には約40軒、あまりとれない時期でも6軒ほどの農家と契約している。「北海道の佐々木ファームは雪氷野菜を作っているから、冬場、野菜の少ない時期にも新鮮なものが届くので助かります。雪の中で熟成した雪氷野菜には甘みがあり、ひと味違うんです」。
業者から慣行野菜を仕入れていた時期もあったが、無農薬野菜と出会って、野菜に対する見方が変わった。形が悪かったり大きさも不揃いだったりするが、その味わいや質のよさは驚くばかり。形が悪くても、小さく切って惣菜に活用できるのが、多店舗展開する強みだ。
「野菜の風味がしっかりしているので、アンチョビやベーコン、生ハムなどをプラスしないと味がのってこない、などということがなくなりました。レストランではオープン以来、アミューズとして野菜のピクルスを出しているのですが、野菜を変えてからお客さんの反応も変わりました。健全な環境下で作られた野菜は日持ちもよく、調理すると今度は、料理自体のいたみが遅い。野菜にエネルギーが漲っている感じです」
佐々木ファームでは、今年から自然農法を取り入れている。自然農法とは、種を撒いた後、農薬はもちろん、肥料なども与えずに、すべてを自然の力に委ねるというやり方。この決断を応援したいと、荻野さんの惣菜店では、ファームの野菜をそのまま販売することに決めた。
「慣行野菜にはないおいしさは、都会育ちの人々を唸らせるでしょう」
食材の質の向上を求めるだけでなく、生産者がよりよい野菜作りに取り組めるような環境を整える努力も、料理人の仕事だと言う。シェフ仲間や消費者に直接呼びかけることで、新たな食環境のサイクルを築いてきたいと考えている。
北海道野菜のタブレ
「タブレ」とは、野菜や肉をクスクスという粒々のパスタと合わせて作る冷たいサラダのこと。今回は合わせる具に玉ネギ、ニンジン、キャベツ、ダイコン、カリフラワー等の野菜と鶏肉を使った。クミンパウダー、コリアンダーパウダーでスパイシーに仕上げる。
上村久留美=取材、文 富貴塚悠太=撮影
本記事は雑誌料理王国2014年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2014年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。