本場南仏のトップシェフ ドップ・ヴェベールさんに学ぶ プロヴァンス料理のテクニックとアイデア 13年6月号


「プロヴァンスはグラン・ジャルダン(広大な庭)。新鮮で滋味にとんだ野菜と果物が豊富なのが何よりの魅力。地中海には鯛、スズキ、アンコウなど、魚にも恵まれているしね」とドップさん。南仏の素材の話になると止まらない。しかし今回は、日本の食材の豊かさに驚いた。
「日本の魚のクオリティ、そして、ハーブやスパイス、フォアグラなど輸入食材の品質もすばらしい」

南仏野菜
フランスでも指折りの野菜の産地だけに、野菜を使ってさまざまな付け合わせを作る。春夏の代表選手はズッキーニ、ナス、トマト。

伝統を尊重しつつ香りと食感、風味をより高める

ティアン、アンティボワーズソース、ルイユ、トマトのファルシー、オリーブオイル、鯛、オリーブとホロホロ鳥……。ドップさんは、プロヴァンスならではの素材や、伝統的な料理法を駆使してめいっぱいプロヴァンスを表現しつつ、さまざまなアレンジを加えた。

たとえば真鯛のアンティボワーズソースには、一般的な材料にコリアンダーやエシャロットを加えた。エシャロットを加えたのは、トマトの酸味を和らげるため。コリアンダーは香りづけのため。それにルイユソースを重ねてコクを出した。

真鯛のフィレのロースト アンティボワーズソース
鯛のフィレにオリーブオイル、塩、コショウをふり、焦がしバターを少々。50℃のオーブンで40分ローストする。野菜とハーブたっぷりのアンティボワーズソースをかけ、ルイユを最後に加えるのがドップさん流。

プロヴァンサルな2種類のソース

アンティボワーズソース
ルガイソースとも呼ばれる。ドップさんは、みじん切りしたエシャロットをゆっくりオリーブオイルでコンフィし、冷めてからトマト、コリアンダー、ケッパー、松の実を加えて混ぜ、最後に火にかけ温める。バラエティにとんだ香りと食感が特徴だ。
ルイユ
ブイヤベースに合わせるソースとして有名なプロヴァンスのマヨネーズ風ソース。ドップさんは卵黄、キュマン、サフランパウダー、ニンニク、 マスタード、塩、コショウをミキサーにかけ、最後にヒマワリ油を加える。

南仏の魚料理といえば、マルセイユの郷土料理ブイヤベースが有名だが、シンプルな白身魚の料理にルイユソースをつけて食べるのも、昔ながらの食べ方だ。今回は鯛をローストする際、塩とコショウ、オリーブオイルをふったあと、プロヴァンスでは使わない焦がしバターを加えた。伝統を尊重しつつも、より香りと風味を高めた料理にしたかったからだ。

また、トマトのファルシーは、中にひき肉を詰めるのが伝統的な手法だが、ドップさんは、赤ピーマンやキュウリ、グリンピース、数種のスパイスを加えたクスクスのサラダ仕立て「タブレ」を詰め、軽くて目に鮮やかなガルニチュールに仕上げた。形は伝統的なプロヴァンス料理そのものであり、中の詰め物もこの地方でなじみ深いものではあるが、新鮮な組み合わせである。

プロヴァンサルなガルニチュール ① トマトのファルシー
ひき肉ではなく、北アフリカ発祥のクスクスのサラダ「タブレ」を詰め、軽いファルシーを創作。クスクス500gに対し、1Lのフォン・ド・ヴォライユ、エシャロット、キュマン、キュリー、サフランパウダー、オリーブオイルで炊き上げる。
トマトの水分をしっかりとっておく
10秒程で手早く湯むきしたトマトを氷水で冷やし、冷めてからカット。中身をくりぬく前に、まず水分をとっておく。
クスクスに色鮮やかな野菜を加える
クスクスが冷めてから、ソテーした赤ピーマン、茹でたグリンピース、キュウリ、コリアンダーを加える。
ドップさんの料理には多くのスパイスが使われる。写真は、トマト・ファルシーのなかのタブレに使用したキュマン、キュリー、コショウ、サフランパウダー。

交通の要所、南フランスは地中海文化が融合した料理の宝庫

「私にとっていちばん大切なのは味。だから、クスクスもフォン・ド・ヴォライユでしっかり味を出す。そのうえで、ひと皿のなかにさまざまな食感をしのばせるという点も重要。じつは、これは日本の料理から学びました」

温暖で乾燥した地中海性気候のプロヴァンスには芳香性の低木が多く生える。

南仏は昔から交通の要所で、イタリア、スペイン、北アフリカ、中東などの文化の影響を受けている。スパイスを多く使うのは、そんな歴史を尊重しているからだ。石灰質で水はけがよく、夏は高温で雨の少ない地中海性気候のプロヴァンスには多くのハーブが自生しているが、地中海交易の影響で、外来のスパイスやハーブもプロヴァンスではよく使われる。ドップさんも今回、キュマン、キュリー、サフラン(サフランパウダーを使用)、ヴェルヴェーヌ、ロリエ、タイム、コリアンダーなどを使用。なかでも、柑橘系の爽やかさがありながら酸味がないヴェルヴェーヌはお気に入りだ。

トロペジェンヌ
南仏サントロペの名物菓子。フワッと仕上げたブリオッシュに、カスタードクリームと生クリームを合わせたクレーム・ディプロマットをサンド。ポイントは、生クリームを固めに立てること。ブリオッシュ生地の表面にパールシュガーを散らし、食感のアクセント。皿の上には、カラメルとグリエ・ド・カカオを。
ヴェルヴェーヌの葉
通常、オレンジの花水を用いるが、ドップさんは、さらにヴェルヴェーヌ(レモンバーベナ)の香りを加え、プロヴァンスの清々しさを表現。カスタードクリームを作る際、バニラの種、オレンジの花水、ヴェルヴェーヌの乾燥葉を牛乳に加えて、沸騰直前まで温める。

ドップさんはオランダで生まれ、いくつかの大都市での経験を経て、現在、南フランスを拠点にする、いわば世界的視野をもつコスモポリタン。そんなシェフだからこそ、南仏の素朴な料理の真の魅力を理解し、それを再構築できるのかもしれない。

プロヴァンス料理の魅力はと聞くと、「キュイジーヌ・デュ・ソレイユ(太陽の料理)、人生の歓び、マルシェに通う楽しさ」と即答した。

ホロホロ鳥とフォワグラのルーロー
コンフィしたホロホロ鳥、鶏ムネ肉、フォワグラ、オリーブを生ハムで巻いた一品。スペインでよく作られる料理「豚足のルーロー」をドップさん流にアレンジ。南仏のシンボルとしてオリーブを加えているが、フォワグラとの相性を考慮し、カラメリゼしている。

「ホロホロ鳥とフォアグラのルーロー」のポイント

① ホロホロ鳥のモモ肉をコンフィする
ホロホロ鳥をロリエ、タイム、塩、コショウとともに、90℃のヒマワリ油で5時間。
② グリーンオリーブをカラメリゼしてカットする
水洗いして塩分を除いたオリーブをカラメリゼ、175℃のオーブンに10分入れてからカット。
③ よく冷やした材料を混ぜる
鶏ムネ肉、卵白、クリームでムースを作り、さいの目にしたフォワグラを混ぜ込む。
④ ホロホロ鳥、オリーブを加えムースを完成
さらに、手でほぐしたホロホロ鳥とオリーブを混ぜ、塩、コショウをして、ムースを完成。
⑤ 生ハムを重ねてムースを巻く
ラップの上に生ハム4~5枚を
重ね、中央にムースをのせて巻
く。空気をしっかり抜く。
⑥ バン・マリーで25 ~ 30分加熱
アルミホイルで巻き、何カ所か穴をあけ、100℃で25~30分、バン・マリーで加熱する。
プロヴァンサルなガルニチュール② 野菜のティアン
プロヴァンスの代表的な夏野菜、ズッキーニ、トマト、ナスの薄切りを重ね焼きしたもので、家庭料理としてもポピュラーな付け合わせ。簡単だが、美しく仕上げるにはひと手間を惜しまず、ていねいに。
ズッキーニとナスだけオーブンで先に焼いておく
2mm程の厚さに切った野菜を150℃のオーブンで約12分下焼きしておく。この段階では、トマトはまだ焼かない。
サークルを使用して重ねて焼く
下焼きした野菜とトマトを交互に重ね、最後にトマト、その上にラペしたチーズを。150℃のオーブンで5分焼く。

Dop Weber ドップ・ウェーバー
1964年生まれ。アムステルダム、ロンドン、ニューヨークなどで経験を積み、2003年に南仏に拠点を移す。2005年、イエールに「JOY」をオープン。

南仏最南端の町イエールの旧市街にある、レストラン「Joy」。『ゴー・ミヨ』にも掲載。

Restaurant Joy
24, rue de Limans 83400 Hyères
☎04 94 20 84 98
●コース45€(夜のみ)
www.restaurant-joy.com

町田陽子=取材、文、写真 井田純代=撮影

本記事は雑誌料理王国226号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は226号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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