韓国人の夫婦デュオが、競争厳しいロンドンの飲食業界でミシュランの星を獲得し、大成功中。韓・英・仏の見事な三位一体に驚かされるテイスティング・メニューは、本物だ。
これほど清々しい調和があるだろうか。韓国の心、英国食材のパワー、フランス料理の技術。そのすべてがロンドンで手を取り合い、最高の多重奏を奏でているのだ。レストランの名は「Sollip / ソリップ」。韓国語で「松葉」という意味で、かの国の伝統的な調理に欠かせないものとして店を象徴している。
シェフたちは韓国生まれの韓国育ち。母国、英米で料理を学び、各地で腕を磨いてきたウンチャル・パク(Woongchul Park)さんが主菜を作り、母国と英国で学んで修業を重ねたボミー・キー(Bomee Ki)さんがデザートを作る夫婦デュオ(写真上 ©Restaurant PR)。この夫婦ときたら、とんでもなくセンスがよいのだ。
2020年に創業したSollip は二人にとって初めての自営ビジネスでもあり、パンデミック期の苦労を乗り越え、2年後にミシュラン一つ星を獲得。2024年の英国レストラン・ランキングでは前年100位以下から突如36位へと浮上し、その実力を今、広く知らしめているところだ。
2人の基礎となっているのは、フランス料理である。ル・コルドン・ブルーのロンドン校で知り合った二人は、それぞれに英韓の最高峰レストランで経験を積み、韓国チェジュ島にある5つ星ホテルの高級フレンチ「Meileu / ミリュー」で再会。ホテル・シェフであることに飽き足らず、自分たちのキャリアを拓くべく古巣ロンドンへと舞い戻り、Sollipをオープンさせた。
こんな国際的なお二人による全9コースの各皿には、真の技術を極めた者だけが漂わせるバランス感覚がある。「韓欧流」とでも呼びたくなる居心地の良さなのだ。
例えば彼らのシグニチャー料理に「大根のタルトタタン」がある。薄くスライスした大根を水抜きした後、キャラメライズしてオーブンで焼き、パイ生地をかぶせさらにオーブンで仕上げる。干草で風味づけしたポテト・ピューレといただく甘辛いセイボリー・タルトである。表面に少しばかりのキムチ・パウダーを振りかけ酸味と辛味を加えているのがニクい。ほんの少しだけなので、「我こそはキムチなり」という強い主張はない。さりげなく。あくまでも、さりげなく。ただし、そのキムチ効果は絶妙であり、韓欧のよきバランスを感じることができる一品だ。
アンコウをふわりと調理した一皿も、個性的だった。下には紫キャベツ、上には飾りのほうれん草。ケイパーとキムチが隠し味なのだが、真のまとめ役はパッション・フルーツのソース。ほのかにガーリックが漂い、全体を直感的にまとめるあげるシェフの力量を否が応にも感じてしまう。
また韓国のお焦げ「ヌルンジ」を、ヨーロッパ特産の根菜、セロリアックと合わせた薬膳がゆ風の一品も素晴らしかった。歯ごたえの良い緑豆を加え、その青臭さも一緒に楽しむ。さっぱりとした鶏スープは強いセロリアックの出汁と合わさり、滋養の塊だ。参鶏湯をイメージした一品だという。
韓国食材はこの他にも、アミューズ・ブッシュに使われていた海藻海苔のカムテ(Gamtae)や、口直しのアイスクリームに使われた桔梗の根「ドラジ」など、縦横無尽に登場する。
韓国西海岸の特産品であるカムテ海苔は、近年世界中の高級レストランが注目するグルメ食材だ。ウンチャルさんはヨーロッパでいち早くこれを取り入れ、好んで英国産チーズと合わせる。潮の香りが強く、土っぽい黒トリュフに似た後味のあるカムテは、同じく濃厚な風味を持つチーズと相性が良いのだ。
コースの締めはボミーさんにバトンタッチ。桔梗の根「ドラジ」のアイスクリームと洋梨のコンポートから始まり、シグニチャーのモンブラン、そしてプチフールであるナツメヤシのマドレーヌまで、やはり滞りのない流れ。
モンブランの表面は、まるで掃き浄められた禅寺の庭のようだ。マロン・クリームの静寂をザックリ掘り起こすと、水面下には松の実のプラリネ、トンカ豆のクレーム・シャンティイが波打っている。これほど洗練された味の良いモンブランは久しぶりだ。
最後に頬張るナツメヤシの茶色いマドレーヌには韓国料理の素朴さが見え隠れし、なぜかホッとする思いがした。東西はかくも美しく融合する。私はそのことを証明し、豊かな気持ちにしてくれたSollipの、大ファンになった。
Sollip
https://www.sollip.co.uk
text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni