日本の食卓には、醤油や味噌、納豆、豆腐など、大豆加工食品が欠かせない。またスーパーに並ぶソーセージやかまぼこなど身近な食品も大豆の恩恵を受けている。ここでは大豆の幅広い用途を紹介する。
温かい味噌汁や甘辛い煮物、納豆に冷奴、がんもどきに味噌田楽……。
chart Dを見てもわかるように、日本の食卓において、大豆や大豆加工品は欠かすことのできない存在だ。そもそも大豆は約2000年前の弥生時代、原産地である中国から朝鮮半島を通じて日本へ入ってきたといわれる。奈良時代には中国との交流が盛んになり、仏教とともに味噌や醤油など大豆の加工品や加工技術も伝わった。現在の食卓の光景は、中国からもたらされた大豆や加工技術を日本人が独自に発展させて作り上げたものだ。
日本では、大豆を発酵させて、調味料や納豆を作る。また大豆を搾って出る豆乳を固めて豆腐にする。さらには豆腐を揚げたり、すり潰して野菜と混ぜたりして活用する。世界の中でも、和食は、大豆の可能性を最大限に生かしている特筆すべき食文化といえるだろう。
注目すべきは大豆や大豆加工食品だけではない。大豆から抽出される「大豆たん白」も、ソーセージやハムなどの食肉加工品、かまぼこやちくわなどの水産練り製品、冷凍食品、製菓をはじめとする身近な食品に活用されている。
和食に登場する大豆料理や大豆加工食品を示した。油分を抜いたり、発酵させたり、搾ったり、大豆は様々な技術を掛け合わせ、活用される。
「大豆たん白」とは、大豆から大豆油を抜いた「脱脂大豆」のたんぱく質を抽出して作られる。製法によって粉末状、粒状、繊維状など形状が異なるものが作られ、それぞれ特性も変わってくる。(chart E)例えば粉末状の「分離大豆たんぱく質」は、水に溶かして加熱すると固まる「ゲル化」の性質を持つため、ハムやソーセージ、かまぼこなどの食感を良くするために使われることが多い。
また粒状や繊維状の大豆たん白は、保水性に優れ、肉のようなテクスチャーを持つことから、餃子やシュウマイの具、ハンバーグなどのボリュームアップや食感改善、肉汁を留めておく、などの目的で添加される。動物肉の代替品として近年注目を浴びる「大豆ミート」は、大豆たん白の原料となる脱脂大豆を膨化させて作られている。
日本で大豆たん白の活用が勢いを増したきっかけは、第二次世界大戦後。肉のボリュームアップやタンパク質不足が解決できるとあって、戦後の食糧難の救世主だった。大豆は食の表舞台だけでなく、縁の下の力持ちとしても日本を支えてきたのだ。
大豆のたんぱく質を抽出して作られる「大豆たん白」は身近な食品に添加されている。形状ごとに特性が異なり、用途に応じて使い分けられる。
text 笹木菜々子 photo 八田政玄 styling 下條美緒
本記事は雑誌料理王国2020年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2020年10月号 発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。