スペシャリテ解体新書 林亮平さんの“だし” 24年8月号


トップシェフの厨房での手元や仕込み風景など、普段なかなか見ることができない動画をお届けする人気YouTubeチャンネル「料理王国」。今春から一流シェフが手がけるスペシャリテをテーマに、作家・料理家として活躍する樋口直哉さんがそのおいしさの秘密についてロジカルに解説する新企画「スペシャリテ解体新書」がスタート。第2回は日本料理店「てのしま」の林亮平さんをゲストに迎え、味のベースとなる“だし”の秘密に迫ります。

一番だし一辺倒を変える、定石破りの「いりこだし」

京都の老舗料亭で培った伝統の技と、現代的なセンスを融合した日本料理で若い世代や外国人客を惹きつけている「てのしま」の店主・林亮平さん。季節で品書きは変われども、締めの「いりこだしにゅうめん」は定番で、楽しみにしているリピーターが多い。

半生素麺は小豆島の船波製麺所、レモンは広島県瀬戸田町のたてみち屋。

独立に際し、すべてのだしの材料・工程を見直して再構築したという林さん。いりこだしの場合はいりこの頭も腹わたも取らずに使う、定石破りの方法に着地した。
「瀬戸内海産のその時のベストのものを送ってもらっているので、臭みはありません。多少の苦味は出ますが、味のレイヤーと言いますか、複雑味による厚みが出て、もっと飲みたいと思わせる味わいになると思います」

各種だしに使う材料。いりこは香川県観音市「やまくに」より仕入れる。

にゅうめんの汁として調味する際、ごく少量の純米酢を加えるのがもう一つのポイント。
「酸味は感じられない。ですが入れる前と後では、まったく味が違う。入れた後は、よりバランスのとれたキレのある味ですね」(樋口さん)。

小豆島産の少し太めの生素麺と合わせ、広島県瀬戸田町のレモンを浮かべる。すべて林さんの故郷の食材だ。
「いりこは雑魚ともいわれ、高級店では扱われないものですが、今や希少な水産物。一番だしにばかり頼ることなく、こうした郷土ならではの味を伝えていくことが、自分の店の個性にもなりますし、また自身の使命だと感じています」

「コンソメに通じる手法」と樋口さんが感心した、鶏だし。
朝引きの鶏胸挽き肉でコクを与え、澄ませる。
いりこは水1Lに対し20g。一番だしは利尻昆布と本枯節の血合い抜き。手前は鶏だしのベース。

ほかにも、既成概念にとらわれないてのしま流「一番だし」「鶏だし」の全工程も取材しているので、ぜひ動画でご覧いただきたい。

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text: Yumiko Watanabe photo: Yukako Hiramatsu

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