イタリアとフランス伝統の驚愕トリ料理


イタリアの「鶏の悪魔風Pollo alla Diavola」

悪魔とは恐ろしい名前である。風情や美を重んじる日本では、料理の名前に「悪魔」をつけるなどちょっと考えられないが、そこは狩猟民族ゆえの感覚というべきか。「鶏の悪魔風」はイタリア――なかでもトスカーナ州、ラツィオ州といった中部の伝統料理のひとつで、おどろおどろしい名前にもかかわらず、広く、長く愛され続けている。

いったい鶏のどこが悪魔風なのか。と、その前に、この料理における鶏の姿を説明しておこう。通常は骨付きの一枚開き、人によっては縦ふたつに分割して、手羽、胸、モモと、すべてをつなげたまま大きく広げてソテー(またはグリル)する。鶏も、胸肉だけやモモ肉だけだとかわいいものだが、ひとつながりになった一枚開きの鶏はちょっとスゴイ。なかなか見ることのない姿ゆえ、想像せよといわれてもむずかしいはずである。そんな方には、ディズニー・アニメ「リトル・マーメイド」の魔女アースラの巨体を思い浮かべていただければ、まさにピッタリの容姿である。

悪魔の由来だが、この迫力の一枚開きを強火の上で豪快に焼くさまが悪魔を火あぶりに処しているよう、というのが一説。そしてもうひとつが、赤トウガラシやカイエンヌペッパーなどの辛いスパイスで調味するために、辛さで「口の中が燃え上がる」ところに、悪魔のイメージが重なるということのようである。
さらに、一枚開きの鶏の形が、マントを広げた悪魔の姿に似ているから、との説を挙げる人も。先のアースラも「魔女」だから、この説も大いにうなずける。


古い料理書では、由来どおりにピッカンテな香辛料を使うレシピになっているが、現代では塩、コショウ、オリーブオイルが一般的。いたって普通の調味である。口の中が辛くて真っ赤に燃え盛ることはないが、「巨体」をカリッ、パリッと香ばしく火あぶりにするところに悪魔の片鱗が残っている。
香ばしさにジューシー感、そして手羽、胸、モモと異なるおいしさが一度に味わえるところに、この料理の醍醐味がある。

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