ピエモンテ州の伝統パスタ、タヤリンは、生パスタの中ではやや異色だ。生パスタとはいえ、そのポイントは乾燥させることにあるからだ。むろん、乾燥させ過ぎはNG。生っぽくなく乾燥させ過ぎず、ベストな状態は「なかなか表現しづらい」と宮根正人さん。手の感触だけがそれを知る。パスタを練るのは大理石の上、のばすのは木製の板の上。ピエモンテで働いていた店には、でき上がったタヤリンを乾かすための、網状で蚊帳のような専用機があったが、「オストゥ」では木箱の中でタヤリンを乾かす。湿気の多い季節は、2日目ぐらいからが、ベストな状態になる。「できたては出したくない」ので、注文が予想以上に入ったときはひやひやする。
ラヴィオリの生地は、打ち粉を極力せず、ギリギリのやわらかさを保った生地をパスタマシンに通して折り込み、再びマシンに通すことを何度も繰り返す。生地には、塩とオリーブオイルは入れない。日本で働いていたころは習慣的に入れていたが、イタリアの修業先で塩とオリーブオイルを加えないのを見て「なぜ使わないのか?」と聞いたところ、「なぜ使うのか?」と返ってきた。以来、このふたつは抜くことにした。ピエモンテ州で6年、よりシンプルにと磨かれたパスタには、美しさが漂う。
半乾燥させたパスタならではの、粉の素朴なうま味を噛み締める。タリオリーニとは違った魅力。ラグーはもっとも相性がよい。
中力粉… 800g
薄力粉… 200g
卵 ……… 640g
(全卵4個と卵黄を合わせたもの)
生地作りのポイント
● 生地作りは練るのは大理石の上で、のばすのは木製の板の上で。
● 練って手応えが出てきたらいったん休ませて、再び練ると艶のいい生地に。
● 生地が完成したら、木製の板の上に置いて半乾燥させる。または通気性のよい場所に置く。
● 具が肉のラグーならやや厚め、甲殻類など繊細な具ならやや薄めに、生地の厚みを微妙に調節する。
ラヴィオリの耳は極力作らず、水牛のリコッタチーズの口溶け感を邪魔しない生地に。個性的な水牛のリコッタチーズの味わいを満喫する。
中力粉… 800g
薄力粉…200g
全卵……300g
ホウレン草(ゆでて絞ったもの)…… 300g
生地作りのポイント
● ホウレン草はゆでて充分に水気を絞り、卵とミキサーにかけてペースト状にして粉と混ぜる。
● 生地は、折り込みながら数度パスタマシンにかけて硬さを出す。打ち粉は極力しない。
● ラヴィオリ作りは速さが勝負。生地が乾かないように、広げたら詰め物をしてできるだけ素早く成形する。
オストゥ 宮根正人さん
1974年埼玉県生まれ。01年に渡伊。バローロの「ロカンダ・ネル・ボルゴ・アンティーコ」でスーシェフを 4 年務める。07年6月、現店オープンとともにオーナーシェフに就任。
この記事もよく読まれています!
text by Kaori Shibata photographs by Kohei Nakamoto
本記事は雑誌料理王国2008年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2008年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。