【プロが認めた日本の食材(5)】辛み大根


主役が辛み大根 山尾さんの野菜のちから

柏田幸二郎さん かさね

「季節のシグナルに耳を傾けながら、時代を超えて生き続ける文化や習慣とともに、たくさんの人や食材との出会いの場をつくりたい」
 1995年、柏田幸二郎さんは、こう決意して、35歳で東京・赤坂に日本料理の店「かさね」を構えた。「季節をかさね、人と人とのご縁がかさなりますように」。「かさね」には、そんな願いが込められた。

 それから数年後、ひとりの男性が店を訪ねてきた。
「私と同郷の宮崎県の人でいろいろと話が弾みました。そして後日、その人からブロッコリーが送られてきました」
 そのブロッコリーの何と青々と瑞々しいことか。とはいえ、和食の店ではブロッコリーは使いようがない。この青年、宮崎県綾町の山尾公一さんは、たったひとりで土づくりからはじめて、無農薬の野菜を作っていた。山尾さんのブロッコリーの茎をキンピラにしてみた。
「びっくりしました。甘味があってとてもおいしい。ブロッコリーがこんなにおいしい野菜だったとは知りませんでした」。こうして、山尾さんとの縁は〝かさね〟られた。

辛み大根を主役にして鰤の刺身を食す

 以来10数年、旬の「ちからのある野菜」が届く。
「どんな野菜が届くかは、おまかせですから分かりません。昨日届いた辛み大根は、この季節ならではの逸品で、私は日本中で一番おいしい辛み大根だと思っています」
 ブリの刺身と合わせたら、すばらしいハーモニーを奏でてくれるに違いない、と柏田さんを刺激する。

 辛み大根の名産地は、信州など各地にいくつかあるが、こんなに「辛くて甘くて、しっとりと柔らかな大根おろし」は、ほかではできない。
 山尾さんの辛み大根と、3日間寝かせた対馬のブリの刺身の組み合わせは、まさに絶品。

「富山湾のブリも使いますが、寒が明けたこの時期は、対馬産もいいと思います。大間のマグロ、関サバ、関アジといったブランド名に頼るのではなく、生産者や漁師さんとの人間的なつながりを重視しています」
 こう語る柏田さんは、今までの日本料理の刺身の盛り付けとは、まったく違うひと皿を出してくれた。自家製のポン酢をかけた白い大根おろしはみごとに美しく、脇に飾られた「蕾菜」の黄緑色がアクセントになり、おしゃれな皿となった。

「人と食材との出会いの場」として、「かさね」は日々、素敵な物語を紡いでいる。

“この瞬間のおいしさを人と食材の出会いをおしゃれに美しく盛り付けて”

辛み大根とブリの刺身
12~1月にかけては、富山産や能登産、新潟県の佐渡産を、寒が明けた頃からは、対馬のブリというように、今一番おいしい食材を使う。この刺身に辛み大根をたっぷりとのせ、自家製のポン酢をかけたひと皿。春を告げるアブラナ科の新野菜「蕾菜」(博多産)を飾って。脂ののったブリの旨みと、辛み大根の深みのある独特の辛さが口の中に広がる。


長瀬広子=取材、文 星野康孝=撮影

本記事は雑誌料理王国2014年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2014年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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