サルデーニャをはじめ、南イタリア料理を得意とする渋谷「タロス」では、一日の営業が終わる頃には厨房に貝殻が山積みになっている。アサリ、ムール貝、カキ、ホッキ貝……。「とにかく貝はよく使いますね。貝尽くしのコース料理を、と言われたらやりますよ」と話すシェフの馬場圭太郎さん。メニューには「兵庫県室津産殻付きカキ」や「貝類のリングイネ」、セモリナ粉で作ったサルデーニャ名物の粒々パスタ「貝類とチェリートマトのフレーグラ」などが並ぶ。貝料理が多いのは、サルデーニャ料理を意識しているというよりも、むしろ貝好きの日本人の好みに応えているからだという。
【螺】(ツブ)
■ 英名/whelk
■ 分類/エゾバイ科
■ 旬/秋から春
■ 特徴/おもに北海道から東北地方で「ツブ」、日本海沿岸で「バイ」と呼ばれ、どちらもエゾバイ科の巻き貝のうち、食用される貝の総称とな っている。北海道や三陸で「ツブ」と呼ばれる貝は、主にヒメエゾボラ。ツブの種類は日本近海でも100種類はいるといわれ、多くは深海の砂泥底に生息。殻口の蓋がしっかり閉じてあるものを選ぶとよい。料理法としては焼いたり酢の物にしたり、もしくはフライにも向く。
写真の料理は、北海道産の通称「磯ツブ」と呼ばれる巻き貝、エゾバイを使用。殻は叩き割り、中身を取り出して、身と肝に分ける。身は片栗粉を使って丁寧にぬめりや汚れを取り、下処理も念入りに。火を入れすぎると硬くなるのでニンニクと一緒に軽く炒めるが、トウガラシの代わりに葉ワサビを入れてマイルドな辛味を加えた。一方、ソースとなる肝は、ニンニクの香りやアンチョビの塩気と一緒に、ほどよく火を入れて臭みを取る。
馬場さんは、海水をたっぷりと含んだアサリなどの二枚貝は、貝のだしが必要なリゾットやパスタに用い、今回の磯ツブのような巻き貝は、ソテーにしたり、白ワインと一緒に煮るなど、調理法も分けている。「貝は海中のプランクトンなどを食べて生きていて、海の水をきれいにしてくれますよね。サルデーニャで働いていた時、こうした自然界のありがたさを肌で感じました」と話す馬場さん。自然の恵みをリスペクトする心が、料理にも注がれている。
片栗粉で丁寧にぬめりを取った磯ツブは、色艶がいい。ニンニク風味の弾力性ある貝に、葉ワサビの爽やかな香りと辛味が心地よく重なる。アンチョビを加えた肝ソースは、磯の風味をたっぷりと含み、思わずパンに付けて食べてみたくなる。仕上げにピンクペッパーを添えた。
馬場圭太郎さん
1971年新潟県生まれ。94年にイタリアへ渡り、トスカーナ地方、サルデーニャ島、シチリア島などで約5年間修業。99年帰国後、都内数軒のイタリア料理店のシェフを務める。乃木坂「ラ・スコリエーラ」のシェフを経て、2007年に独立。
text:Kanami Okimura /photo:Yuko Uehara
本記事は雑誌料理王国2011年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2011年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。