名レストランの料理には美味しいパンが欠かせない――。このベーカリーガイドでは、料理人の指名を受けてパンを焼く名の一流ベーカーをご紹介。料理人のリクエストや哲学をくみ取って、料理を支える最高のパンを作り上げる、ベーカーたちの思いとは?
コロナ禍で同ホテルのフレンチレストランが休業中なのが残念だが、イタリアンレストラン「ケシキ」およびテイクアウトのできる「ザ マンダリン オリエンタル グルメショップ」では、イタリアのパンと発酵菓子の伝統と革新を感じさせるコラボレーションが、さまざまな形で味わえる。
「レストランでは初めから終わりまでが体験であり、その重要な要素をパンが担っています」。「マンダリン オリエンタル 東京」のエグゼクティブシェフ、ダニエレ・カーソンさんは言う。「パンはレストランのアイデンティティを象徴するものでもあります」。
同ホテルのイタリアンレストラン「ケシキ」の料理には、2種類のパンが供される。オニオンブレッドはフォカッチャをブール型に成形し、クラムをよりたくさん楽しめるように仕立てたもので、スカルペッタ(残ったソースをすくうこと)に適している。一方でチャバッタ オリーブは大きな気泡を持つ水分量の多い生地で、クラストのパリッとした食感を楽しめる。「いずれもイタリア産の石臼挽きの小麦粉や全粒粉を用いることで、料理との相乗効果を出すほか、パンだけでもおいしく召し上がっていただけるように仕上げています」。シェフベーカーの中村友彦さんは言う。中村さんは「ジョエル・ロブション」出身。国内外での豊かな経験が活きる。
「常に疑問を持つことで、既にあるものをより良くするだけでなく、新しいものにチャレンジする探究心も備えている。良きチームリーダーです」とダニエレシェフ。
「パネットーネ」、「コロンバ」、「マリトッツォ」など、シェフの出身地であるイタリア伝統のパンにも中村さんは次々と新しい感覚を取り入れて展開、それらは季節ごとにグルメショップで販売されている。特筆すべきは「ファルチータ」。48時間かけて熟成、発酵させたピッツァ生地に旬の食材を包んだカルツォーネ的なパンだが、細長い形状が食べやすい。その名はイタリア語で「詰める」を意味するが、イタリアには存在せず、マンダリン オリエンタル 東京ならではの味わいだ。
中村友彦
静岡県出身。東京都台北の「ジョエル・ロブション」で計12年の研鑽を積むほか、ニュージーランド・ウェリントンではフレンチベーカリーのスーシェフを務め、オーストラリア・シドニーでは日本スタイルのベーカリーの開業に関わるなどさまざまな環境で経験を培う。「マンダリン オリエンタル 東京」では2018年よりシェフベーカーを務め、館内のすべてのパンを手がける。
ザ マンダリン オリエンタル グルメショップ
東京都中央区日本橋室町2-1-1
TEL 0120-806-823
(レストラン総合予約 9時~21時)
11:00~18:00
text: Mihoko Shimizu photo: sono/bean