名古屋にある「日本のイタリア料理店 サイ」は若きオーナーシェフ、加藤了裕氏の感性が生み出すオリジナリティ溢れる料理が魅力的だ。シチリアで学んだ加藤シェフは、地元愛知県、特に渥美半島と知多半島に挟まれた三河湾の魚介類や野菜を用いた料理の才が際立つ。
地中海に浮かぶシチリア島は、古代から多くの国家や民族が支配し、文化、芸術、そして料理とさまざまな足跡を残してきた地中海文明のるつぼ的存在の土地である。ギリシャ人はワイン作りを伝え、アラブ人は米や揚げ物をシチリアにもたらした。そうしたバックグラウンドゆえか、シチリアに生まれた料理人は非常に個性的かつ文化的思考が深い人物が多い。名古屋の「日本のイタリア料理店 サイ」オーナーシェフ加藤了裕氏もシチリアで学び、その精神を日本に伝えるべく日々研鑽を積む料理人だ。
地元名古屋のイタリア料理店で経験を積んだ加藤シェフはイタリアに渡り、まずはトリノで修行をスタート、やがて転機となるシチリアに渡る。最初に選んだレストランは南シチリアの海辺の街・シャッカにある「サン カロージェロ」だ。若き加藤シェフは6ケ月間仕事に専念するも、休憩時間にはイタリア人の友人と海に行き、シャワーを浴びてそのまま夜の営業。仕事が終わると仲間とバールに集まり語らう、イタリア的ライフスタイルも学んだという。チッチョ・スルターノの「ドゥオモ」では日本にいる時よりも働き、多くの経験や知識を吸収して日本に帰国。35才となる2020年に「日本のイタリア料理店 サイ」をオープンした。海が好きだという加藤シェフはサンゴをレストランのロゴに選び、渥美半島と知多半島に挟まれた三河湾の湾の魚介類や知多の野菜をイタリア料理として表現している。
「サイ=sai」という言葉はイタリア語では「知る」あるいは「ねぇ」という呼びかけの言葉だが、「彩色の彩」「最高の最」「再会の再」という意味もこめた。さらに動物の犀のエチケットで名高いスピネッタも愛することから、前進の象徴である犀にもかけた。常に前身を続ける加藤シェフらしいエピソードでもある。
「日本のイタリア料理店 サイ」の料理はシンボルでもあるサンゴをモチーフにしたグリッシーニと、オレガノとラグーサのチーズを使った南シチリアのストリートフード・スカッチャから始まる。三河湾で獲れたワタリガニとトウモロコシ、「龍の瞳」という岐阜県産の米を使ったひと口サイズのリゾットは懐石料理の温石にちなみ、まず温かい料理で胃と心も温めてほしいからだと加藤シェフはいう。
珠玉は三河湾のムラサキウニを使った冷製カッペッリーニだろう。シチリアで食べるウニのパスタは温かいトマトソースにウニを加え、むせるような海のヨード香を楽しむことが多いが、加藤シェフの冷製パスタも遥かシチリアの海を思い出させてくれる。自家製リコッタのカッペレッティ、アユと加賀太キュウリのアーリオオーリオとパスタは3種類登場、合間に登場するトリュフジェラートはとても余韻が長い。
加藤シェフが常に念頭に置いているのは、日本の食材を使ってイタリア料理を表現するということだ。「その解釈は人それぞれ、でも自分の料理は絶対にイタリア料理だ」という。日本とイタリア両国には、種々多様な旬の食材第一主義という絶対的な共通項があるが、それは世界でも稀有な存在で、多くの国には四季の食材という概念は存在しない。ゆえに日本の多様な食材はイタリア料理へと昇華することが可能なのであり、時に和イタリアンと呼ばれることもあるが、正確に表現するなら「日本のイタリア料理」と呼ぶべきであろう。トマトが食用になったのは18世紀のことだし、乾燥パスタの大量生産は産業革命以降のこと。料理の世界に変革は常に訪れる。加藤シェフの料理を目の当たりにすれば、その根底に流れているのはまぎれもないイタリア料理の精神であることは一目瞭然だろう。
加藤了裕
1985年、愛知県生まれ。名古屋のリストランテで修行を積みイタリアへ渡る。トリノ「リストランテ バリック」のあとシチリアへと向かい「サンカロージェロ」、2ツ星「ドゥオーモ」にて修行。イタリア人と共に働き、生活することで貴重な経験を得る。帰国後の2020年に「日本のイタリア料理店サイ」をオープン。2021年「RED-35ブロンズエッグ」入賞。
日本のイタリア料理店 sai
愛知県名古屋市中区千代田2-8-17 グリーンハイツ鶴舞公園
TEL 052-265-7117
11:30~14:30(月、火、土、日 11:30~11:45に入店、一斉スタート)
18:00~22:30
水、木休
text&photo: Masakatsu Ikeda(Italian Week 100 Director)