かつて修行したシチリアの文化と三河湾の恵みを活かす独自の感性 日本のイタリア料理店 sai 加藤了裕 23年12月号


名古屋にある「日本のイタリア料理店 サイ」は若きオーナーシェフ、加藤了裕氏の感性が生み出すオリジナリティ溢れる料理が魅力的だ。シチリアで学んだ加藤シェフは、地元愛知県、特に渥美半島と知多半島に挟まれた三河湾の魚介類や野菜を用いた料理の才が際立つ。

地中海に浮かぶシチリア島は、古代から多くの国家や民族が支配し、文化、芸術、そして料理とさまざまな足跡を残してきた地中海文明のるつぼ的存在の土地である。ギリシャ人はワイン作りを伝え、アラブ人は米や揚げ物をシチリアにもたらした。そうしたバックグラウンドゆえか、シチリアに生まれた料理人は非常に個性的かつ文化的思考が深い人物が多い。名古屋の「日本のイタリア料理店 サイ」オーナーシェフ加藤了裕氏もシチリアで学び、その精神を日本に伝えるべく日々研鑽を積む料理人だ。

地元名古屋のイタリア料理店で経験を積んだ加藤シェフはイタリアに渡り、まずはトリノで修行をスタート、やがて転機となるシチリアに渡る。最初に選んだレストランは南シチリアの海辺の街・シャッカにある「サン カロージェロ」だ。若き加藤シェフは6ケ月間仕事に専念するも、休憩時間にはイタリア人の友人と海に行き、シャワーを浴びてそのまま夜の営業。仕事が終わると仲間とバールに集まり語らう、イタリア的ライフスタイルも学んだという。チッチョ・スルターノの「ドゥオモ」では日本にいる時よりも働き、多くの経験や知識を吸収して日本に帰国。35才となる2020年に「日本のイタリア料理店 サイ」をオープンした。海が好きだという加藤シェフはサンゴをレストランのロゴに選び、渥美半島と知多半島に挟まれた三河湾の湾の魚介類や知多の野菜をイタリア料理として表現している。

「カマスのグリル、ルーコラのソルベ、ホワイトバルサミコのジュレ」。

「サイ=sai」という言葉はイタリア語では「知る」あるいは「ねぇ」という呼びかけの言葉だが、「彩色の彩」「最高の最」「再会の再」という意味もこめた。さらに動物の犀のエチケットで名高いスピネッタも愛することから、前進の象徴である犀にもかけた。常に前身を続ける加藤シェフらしいエピソードでもある。

個室とカウンター席、テーブル席がある店内。入り口にはサンゴのロゴが飾られている。

「日本のイタリア料理店 サイ」の料理はシンボルでもあるサンゴをモチーフにしたグリッシーニと、オレガノとラグーサのチーズを使った南シチリアのストリートフード・スカッチャから始まる。三河湾で獲れたワタリガニとトウモロコシ、「龍の瞳」という岐阜県産の米を使ったひと口サイズのリゾットは懐石料理の温石にちなみ、まず温かい料理で胃と心も温めてほしいからだと加藤シェフはいう。

「ワタリガニととうもろこし、龍の瞳のリゾット」はバターやチーズを使わずに仕上げてある。

珠玉は三河湾のムラサキウニを使った冷製カッペッリーニだろう。シチリアで食べるウニのパスタは温かいトマトソースにウニを加え、むせるような海のヨード香を楽しむことが多いが、加藤シェフの冷製パスタも遥かシチリアの海を思い出させてくれる。自家製リコッタのカッペレッティ、アユと加賀太キュウリのアーリオオーリオとパスタは3種類登場、合間に登場するトリュフジェラートはとても余韻が長い。

「三河湾のムラサキウニのカッペッリーニ」
地元三河湾でとれたクリーミーなムラサキウニをふんだんに使ったひと皿。パスタは極細のカッペッリーニを茹でてから冷水で締めた冷製。皿の中に敷き詰めた氷の上にウニの殻を乗せ、その上にパスタを豪快に盛り付けたプレゼンテーションはインパクト大。トッピングのマイクロネギの風味が一服の清涼を呼びこむ。
「自家製リコッタのカッペッレッティ」
中に手作りのリコッタチーズと刻んだエダマメを詰め込んだカッペッレッティ。ソースはパプリカ、ズッキーニ、ガスパチョ。アンチョビとローストした松の実が味のアクセント。日本の食材を使ったとしても自分の料理はイタリア料理、という加藤シェフの思いが込められた、クラシックかつ上質な伝統的詰め物パスタ。
「サマートリュフのジェラート、小さなチーズタルト」にあわせて2012年のマルサラを。
「鮎と加賀太胡瓜のアーリオオーリオ」には鮎の魚醤や肝、うるかをソースに使用。

加藤シェフが常に念頭に置いているのは、日本の食材を使ってイタリア料理を表現するということだ。「その解釈は人それぞれ、でも自分の料理は絶対にイタリア料理だ」という。日本とイタリア両国には、種々多様な旬の食材第一主義という絶対的な共通項があるが、それは世界でも稀有な存在で、多くの国には四季の食材という概念は存在しない。ゆえに日本の多様な食材はイタリア料理へと昇華することが可能なのであり、時に和イタリアンと呼ばれることもあるが、正確に表現するなら「日本のイタリア料理」と呼ぶべきであろう。トマトが食用になったのは18世紀のことだし、乾燥パスタの大量生産は産業革命以降のこと。料理の世界に変革は常に訪れる。加藤シェフの料理を目の当たりにすれば、その根底に流れているのはまぎれもないイタリア料理の精神であることは一目瞭然だろう。

「鱧」
三河湾のハモを湯引きにし、熊本の赤ナスはフリット、トウガンのすりおろしにアサリのブロードを加えたソースで食べる温かい魚料理。アサリのダシと加藤シェフが修行したシチリア、ラグーサのオリーブオイルのうま味が印象的。和食を思わせるビジュアルながらも味はしっかりイタリア料理、というのが加藤シェフの真骨頂。
「伊良湖半島黒牛のシンタマ炭火焼き、かぼちゃのピューレ、ヘーゼルナッツ」。
最後に登場する小菓子。

加藤了裕

1985年、愛知県生まれ。名古屋のリストランテで修行を積みイタリアへ渡る。トリノ「リストランテ バリック」のあとシチリアへと向かい「サンカロージェロ」、2ツ星「ドゥオーモ」にて修行。イタリア人と共に働き、生活することで貴重な経験を得る。帰国後の2020年に「日本のイタリア料理店サイ」をオープン。2021年「RED-35ブロンズエッグ」入賞。

日本のイタリア料理店 sai

愛知県名古屋市中区千代田2-8-17 グリーンハイツ鶴舞公園
TEL 052-265-7117
11:30~14:30(月、火、土、日 11:30~11:45に入店、一斉スタート)
18:00~22:30
水、木休

text&photo: Masakatsu Ikeda(Italian Week 100 Director)

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