【ミシュランガイド東京2024発表前日公開】グウェンダル・プレネック氏独占インタビュー(前編)


12月5日にいよいよ迫ったミシュランガイド東京2024の発表セレモニー。それに先立ち、11月15日、2024年にアジアでのホテルセレクション「ミシュランキー」が発表されることを告知するメディアイベントが行われました。オークラ東京で行われたこのイベントには、日本国外のアジア諸国からもメディアが参加した華やかなものとなりました。

2014年にインターナショナル・ディレクターに就任以来、「ミシュラングリーンスター」の格付けの開始など、変革を続けるグウェンダル・プレネック氏。このイベントのために来日中の氏に独占インタビューを行い、じっくりお話をお聞きしました。前編は「ホテルセレクションとレストランの関係性」、後編は「ミシュラングリーンスターについて」また、調査の方法や、これまで謎のベールに包まれてきたプレネック氏の人となりについてもご紹介していきます。

――この日本訪問の後はすぐブラジルに行かれるとか。本日は貴重なお時間ありがとうございます。元々、日本との関わりが深くていらっしゃるのですね。

2006年から2009年まで、東京のミシュランガイドの立ち上げのために日本に住んでいました。当時の日本にとって、ミシュランは新しいものだったので、大変な部分もありました。しかし、日本の料理は寿司だけではない、という日本の食の多様性を広め、クリエイティブ、伝統的、ラグジュアリー、カジュアルなど様々な日本の食の側面を世界にも、そして日本の人々にも広めることができたと思います。今では、世界の約3500軒の星付きレストランのうちの400軒、約12%が日本料理の店なのです。

Photo:Kyoko Nakayama

――日本料理が世界に広まることへの、ミシュランガイドの貢献は大きかったのでしょうね。そして、今回発表されたホテルセレクションについては、日本のホスピタリティの素晴らしさを世界に伝えるものだと言えるでしょうか?

そうですね、そういうことができると思います。日本のきめ細やかな心遣いに溢れた、礼儀正しいホスピタリティは、他の文化にはないものです。
素晴らしいシェフがいる背景には、舌の肥えた食通がいるからです。ホスピタリティにおいても同じことで、日本には素晴らしいお客さまがいるからだと思います。
そもそも、ミシュランガイドは1900年に、レストランとホテル両方のガイドとして生まれていますから、今回はそのオリジナルの形に戻るものです。2018年にホテルの予約の流れを運営する会社「タブレット・ホテルス」を買収するなど、数年前から具体的な動きを詰めてきました。2023年11月現在、120か国5,000軒超のホテルを5つの評価基準にもとづいて掲載しています。

――それには、コロナ禍後の人々の変化も反映されているとか。

多くの人が再び旅をするようになって、何を選択するかに注意深くなっているのが、今のトレンドだと感じています。旅先で見るべき、体験すべきものを逃したくないという思いが強くなっている。だから、レストランだけではなく、ホテルにも同じように素晴らしい体験が得たいと思っているのです。
しかし、同じホテルブランドでも、場所によってその質が違うこともありますし、ホテルのウェブサイトの多くはただ部屋を売るだけの予約サイトで、基準とはなりづらい。
そんな中、家から離れたレストランに食事に行った時に、どこに泊まるかに困る、というガイドの利用者の声から生まれたのがこの「ミシュランキー」なのです。私たちはホテルを、以下の5つの原則に基づいてセレクトしています。

  1. ホテル自体が旅の目的地であり、その土地ならではの体験ができる
  2. 素晴らしい建築とインテリアデザイン
  3. 施設の個性やユニークな特徴を反映した独自性がある
  4. サービスの質、快適性、メンテナンスが行き届いている
  5. 価格に見合った体験ができる

「ミシュランキー」はこの5つの原則でセレクトされたホテルの中でも、卓越した特別な体験を提供しているホテルの評価になります。

元々ガイド利用者の声から始まったものですから、レストランを訪れる際の利便性も考慮されています。
ガイド掲載の世界の約16,500軒のレストランを選ぶ際に守り通してきた精神がホテル選びにも反映されているのです。

――予約したゲストのフィードバックもサイト上に反映されるため、それも評価に影響するというのもユニークですね。ちなみに、日本には伝統的な旅館がありますが、それについてはホテルと同じ判断基準で見ていくのでしょうか?

確かに、旅館には、通常のホテルの基準になるような、大画面のテレビなどはないかも知れません。でも、そういったハード面は、投資をすれば手に入るものです。私がこれまでに体験した世界最高のホスピタリティは間違いなく旅館でのものです。シンプルで、サービスのレベルが高く、体験という意味でも非常に思い出深いものです。それは、違った形のラグジュアリーとして考慮されます。大切なのは、スタイルや設備ではなく、全体としての体験の価値です。

――ホテルの評価が良ければ、その中のレストランの評価も上がるのでしょうか?

それは全く関係ありません。だからこそ、レストランは星の評価に、ホテルは鍵の評価にと分けているのです。もちろん、両方が素晴らしい場合もありますけれども。

――コロナ禍でファインダイニングのシーンは変わりましたか?

国境が再び開き、日本の皆さんも実感していると思いますが、「ファインダイニングの文化は始まったばかり」と言えるほどの勢いで、これからますます伸びて行くと思います。
富裕層は増加しているし、美食に興味のある新しい地域が増えているからです。

――星を選ぶ際に、大切にされているのは、どんなことでしょうか?

体験と発見です。

後編は、プレネックさんが2020年にスタートさせたサステナブルの指標「ミシュラングリーンスター」について、また気になる調査員の実際の活動について、そしてプレネックさんの人となりについてお聞きしていきます。

文・写真(一部)仲山今日子

関連記事


SNSでフォローする