毎年11月に発表される「ミシュランガイド東京」。その2023年度版の掲載店発表会が11月15日、3年ぶりに人を集めたスタイルで開催されました。星を獲得したレストランのリストのほか、近年新設された「メンターシェフアワード」、「サービスアワード」、「グリーンスター」にも注目が集まります。
コロナ禍が長引きつつも、この1年間の飲食店・レストランはようやく多くのゲストを迎え、本来の活力を取り戻しつつあるように見えます。
そんな中に発表された「ミシュランガイド東京2023」。大きな変化があるのか否か? 多くの人が注目するミシュランによるセレクションですが、結果から言うと、今年は動きの静かな年であったといえます。
まずは三つ星では、昨年と同じ12店が引き続き最高評価を獲得しました。
【フランス料理】
・カンテサンス
・レフェルヴェソンス
・ジョエル・ロブション
・ロオジエ
【日本料理】
・まき村
・神楽坂 石かわ
・虎白
・日本料理 龍吟
・麻布 かどわき
・かんだ
【寿司】
・鮨 よしたけ
【中国料理】
・茶禅華
日本料理6店、フランス料理4店、寿司1店、中国料理1店というラインアップで変わらず日本料理が存在感を示します。カンテサンス、かんだ、ジョエル・ロブションの3店は「ミシュランガイド東京」が東京に初お目見えした2008年度版以来、実に16年連続で三つ星に輝き続けています。
二つ星を獲得したのは39店。うち2店が新規でした。
【フランス料理】
・セザン
【日本料理】
・明寂
セザンは、フォーシーズンズホテル丸の内東京の中に位置するレストラン。昨年の一つ星からのランクアップです。若くして経験豊かなシェフのダニエル・カルバートさんによる料理は、フランス料理の骨格を意識した上での柔軟さ、研ぎ澄まされた洗練が特徴。2021年7月のレストランのオープン以来、常に高い注目と評判を集めています。
明寂(みょうじゃく)は、西麻布に今年の4月にオープンしたばかりの料理店。ミシュラン初登場での二つ星です。店主の中村英利さんの料理では、大胆なほどのシンプルさの中に、素材本来の滋味が静かに深く表現されています。そのストイックで奥深い世界が、ますます注目を集めそうです。
今年新たに誕生した一つ星店は16店。コロナ禍の逆境にも負けずに、多くのゲストの支持を集めているお店が並びます。
【フランス料理】
・エラン
・プルニエ
・アマラントス
・NéMo
【イタリア料理】
・グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ
【イノベーティブ】
・TOKi
【日本料理】
・茂幸
・愚直に
・銀座 志翠
・寅黒
・八雲 うえず
【寿司】
・奥
・鮨 一條
・宇多津 鮨
・江戸前鮨 英
【中国料理】
・一平飯店
フランス料理の「アマラントス」は、宮﨑慎太郎さんが2021年にオープンしたカウンタースタイルのレストラン。料理はごく軽やかで、それでいてフランス料理の骨格を保つ正統派。実力派シェフである宮﨑さんが手堅く一つ星を手にしました。
東京會舘のメインダイニング「プルニエ」も新しい一つ星店です。シェフの松本浩之さんは、2019年1月、東京會舘の大規模リニューアルに際してこちらに着任。やさしくてモダン、芯の通った料理で、東京會舘の新しい風を印象付けます。
またビブグルマンは38店が新登場。その料理カテゴリーはフレンチやイタリアン、居酒屋、スペイン料理、立ち食い寿司、ラーメン……など14と多彩で、東京の食の豊かさを反映しています。
ミシュランガイドでは、昨年から2つの個人アワードを開設しました。後進の育成に力を注ぎ、業界の発展に貢献する料理人を讃える「メンターシェフアワード」と、サービスに対する情熱を讃える「サービスアワード」です。
今年のメンターシェフアワードは、「神楽坂 石かわ」(三つ星)の石川秀樹さんに贈られました。石川さんは2003年に神楽坂に「石かわ」をオープンして以来、08年には同じ神楽坂に「虎白」を、09年には「蓮」を開業するなど、日本料理の高みを追求すると同時に、人材育成にも力を注いでスタッフの活躍の場を広げてきました。グループから独立して店を営む卒業生も大勢います。
「この賞は、私ではなく、忍耐強く私と働き続けてくれた個々の人たちへの賞だと思います」と石川さん。「一緒に働いてくれたみんなこそが、私の師です。日々接している人はもちろん、辞めた人も『なぜ辞めたんだろう?』と私に考えさせてくれることでわかったことがたくさんありました。なので、みんなに感謝しかありません」
一方のサービスアワードでは、日本料理「傳」(二つ星)の長谷川えみさんが表彰されました。「傳」が生み出す食事の時間は、圧倒的に楽しく、活力にあふれていることで有名。店主の長谷川在佑さんとともに、えみさんの存在が「傳」特有の温かな活気を牽引しています。
「これはチームみんなの賞です。コロナ禍の中、外食することが大変になりました。だからこそ、来てくださったお客さまの時間をどれだけ幸せにできるか、みんなでたくさん話し合ってきたのが伝わったのだと思います」
去年のサービスアワードは、浅草のフランス料理店「オマージュ」(二つ星)のマダム、荒井麻友香さんに贈られています。荒井さん、長谷川さんと2年続けて女性の受賞。東京のレストランや料理店の一角を支えているのは間違いなく女性。そんな女性たちに対するエールも感じ取ることができました。
ミシュランガイドでは2020年(2021年版)より、“持続可能なガストロノミー”を実践する飲食店・レストランを、「ミシュラングリーンスター」として紹介しています。
グリーンスターで評価されるのは、サステナブルな活動です。たとえば、健全な生態系を守るような食材の選択(環境に負荷を与えない農法の農家を応援する、乱獲された魚を使わない、など)や、フードロス削減への取り組みなどがそれにあたります。調査員は料理の評価とともに、レストランのこうした活動を調査します。
今年のグリーンスターは、以下の12店。ちなみにこちらも昨年に引き続いての12店でした。
【フランス料理】
・カンテサンス
・シンシア
・フロリレージュ
・ラチュレ
・ラ ペ
・ヌー トウキョウ
・クローニー
・マ・キュイジーヌ
・レフェルヴェソンス
【イタリア料理】
・ファロ
【イノベーティブ】
・NARISAWA
【日本料理】
・傳
1997年に導入された「ビブグルマン」(価格以上の満足感が得られる料理)が親しまれているように、2020年に導入されたこの「グリーンスター」も、レストランを選ぶ時の基準として広がっていくことになるでしょう。食材は自然と密接に関わっている以上、レストランもまた、自然環境が現在抱えている危機を無視するわけにはいきません。そうしたメッセージをミシュラングリーンスターは発信しています。
1900年の創刊という長い歴史を誇るミシュランガイド。これから、どのような変化を作り出していくのでしょうか? そんなミシュランガイド自体の動きにも注目です。
text・photo:柴田泉