食のプロたちが「KOBAYASHI」に集結し座談会を開催


新生中国料理「KOBAYASHI」に、料理界の著名人が集結した。
集まったのは、三田「桃の木」時代から通っていたという「バードランド」の和田利弘さん、赤坂時代に訪れている「ラフィナージュ」の高良康之シェフ、滋賀の精肉店店主「サカエヤ」の新保吉伸さん、今回が初めてになる「リューズ」の飯塚隆太シェフである。

それぞれが中国料理とは違うジャンルながら、小林シェフの料理を食べて、いかなる感想を抱くのか。
彼らの優れた感性が、どう捉え、料理に触発されて、どんな発想が浮かぶのか。

一皿目は2種類の「春巻」であった。
醤油煮にしたハンマーヘッドシャークの春巻と、牛乳と生クリーム バター キャビア コンテチーズのせである。醤油味とクリーミーな甘みが広がる、異なる味わいが面白い。

高良シェフ「いいキャビアを使っていますね」

和田さん「どこのフカヒレですか?」

「気仙沼です」と、すかさずマネージャーが答えられた。

二皿目の前菜は、北海道の地鶏 赤平火をどりを、一羽煮込んでぶつ切りにした料理が出された。しっとりと煮含められた鶏肉の滋味が広がる。

和田さん「鶏の醤油煮をやっていたのは竹爐山房だったかな?」

と、小林シェフの修行先をすかさず指摘された。

高良シェフ「中国料理は、牛のわざわざ硬いところを千切りにして使ったりする、冷凍して薄く切ったりするので面白いですね」

次は サカエヤの北野ポークの鹵水(ルースイ )煮である。
ローリエ、八角、陳皮を入れた液体で、豚足と脛肉は煮て、脛肉は肉辺を寄せてテリーヌ状にしたものである。

牧元「脛肉は、部位は違いますが、テット・ド・フロマージュのようですね」

高良シェフ「脛はバッサバサになるので煮込むのが難しいのに、これはしっとりとして、美味しい!」

新保さん「脛は皮付きで仕入れて2週間ほどおくんです」

高良シェフ「豚はダメになるのも早いので、扱いが厄介です」

新保さん「確かに豚は厄介です。そして皮付きをリクエストされるのは中国料理くらいですね。国内でも一部皮付きを扱うところもあるが、屠畜のラインの問題で難しんです」。

高良シェフ「沖縄は昔の文化で毛を焼きます。藁などで焼いて毛を外すので、皮付きにはなるが、焼かれているので日持ちがしないんです」

和田さん「それは鶏肉も同じです。日本の鶏は脱毛するのにお湯につけますが、フランスではドライピッキングといってゴムのローラーで羽根を抜きます。熱を加えていないので2週間使えます」

高良シェフ「フランス料理でも脛肉は使います。1匹全部使う。脛は煮こごり。マデラで煮込んで骨付きで出す古典料理や、塩漬けして保存食にするなどします」

続いて前菜盛り合わせが運ばれた。

「赤平火をどりのよだれ鶏」、「宮城の黒鮑と黒トリュフソース」、「能登のかぼちゃとアヒルの卵黄の塩漬け」である。

高良シェフ「え?アヒルの卵位の塩漬けってスタンダードなんですか?」

牧元「中国料理では、定番です」。

和田さん「アヒルの卵黄の塩漬けは輸入されているし、とても手間がかかりますが作ることもできます」

高良シェフ「今までの小林さんの料理と違って、酸味がなくなって、ぎゅっと凝縮している感じになっていて、イメージが変わりました」

和田さん(本日のメニューを見て)「多分、今からの料理でまた印象が変わると思う」

ここで和田さんがリクエストしたのは「乾焼明蝦」(海老をエビミソで煮たもの)。
トマト類を使っていない、エビチリとは別の料理で、「竹爐山房」を継承して天使のエビを使っている。ニンニク、ネギ、生姜、で煮焼きにしたところに、唐辛子の粉をさっと振って仕上げた、軽やかな料理である。

高良シェフ「これは小林さんらしい料理ですね」。

飯塚シェフ「海老は年々選択が難しくなっていますね。いい海老は鮨屋にいってしまう。リューズでは、車海老、才巻えび、徳島の足赤海老を使っています」。

飯塚シェフ「このエビチリにトマト入っているんですか? 入っていないんですか? 赤い色は唐辛子なんですか?」

高良シェフ「赤いのにそんなに辛くないですね」

和田さん「トマトケチャップ使うようになったのは陳建民さんからです」

次は小林シェフの本領発揮、「NOTO 高農園のジャガイモ細切り炒め」が出された。
均等に細く切られたじゃがいもは、清く、凛々しく、他の芋料理にはない品格がある。

牧元「この料理は本当に素晴らしい。 中国料理は炒め物が命だから、ジャガイモとかモヤシの炒め物が美味しくできないとね」

和田さん「これは寝かしたジャガイモではないんですか? 使っているスープが違いますよね? 毛湯(マオタン)に何か足していますか? 普通のスープより旨みが強い」

「基本的には清湯スープを使いますが、おそらくシェフが料理に合わせて変えていると思います」とマネージャー。

牧元「ニンニクもわからない程度に入っている。一見何の変哲もないように見えますが、普通の料理人じゃ出来ないものです」

高良シェフ「ネギや野菜を正確に一ミリ角に切る小林さんらしい料理ですね。お皿を触って食べると、違う世界の温度(熱々)のものが口に入ってきたのでびっくりしました」

牧元「80%火が通ったら、鍋からあげるんです」

高良シェフ「残りの20%はここに届くまでの間に火が入るということですね」

飯塚シェフ「ちょうど今週クリュッグのワイン会があり、まさにこんな感じの料理をやる予定なんです。でもシャンパンなので、キャビア乗せようと思っていますけど(笑)」

ここで小林さん登場。

和田さん「ジャガイモの細切り炒めのスープは、清湯に何を入れているんですか?」

小林さん「中国ハムの出汁を何種類かとっています。ハム自体でスープをとる際に入れて上湯を作るものもあれば、雲南ハムスライス(缶詰)の脂身のところを掃除して(脂身を捨てる)清湯スープ入れて何時間か蒸すんです。そうすると同じ中国ハムでも全然ちがう味になる。何種類かそんなふうにスープをとって使い分けています」

高良シェフ「ジャガイモの長さは5センチ?」

小林さん「はい。ジャガイモはサイズが色々だから難しいんで(笑) でも若手の土井くんの包丁捌きがだいぶ上手くなってきたんです」

高良シェフ「ジャガイモの細切り炒め、器と食べた時の温度差に驚きました。ポイントはなんですか?」

小林さん「餡のバランスによるものだと思います」

飯塚シェフ「水にさらすんですか?」

小林さん「水に晒して澱粉を抜くとともに水分を吸わせてパリッとさせる。サッとゆがいてぱっと炒める。シャキシャキ感を維持するためにですね」

ジャガイモ炒めが、どうやらシェフたちの探究心を、一挙に煽ったらしい。次々と質問が浴びせられる。

続いては、牧元さんのリクエスト「鶏レバームースのスープ」が運ばれた。

小林さん「綺麗に掃除した白レバーを卵と混ぜて裏漉しした後に、清湯スープを注いだ料理です、まずはスープを一口召し上がっていただいて、そのあとは混ぜてお召し上がりください」

牧元 「古典四川料理ですね。以前「上野毛 吉華」で久田大吉さんという四川料理の名手がいたんです。中国料理通の小倉エージさんも好きな店で、何回か行ったときに、このスープをいただいて感動しました。これはその時のものと寸分違わない」

高良シェフ「味が綺麗。フォアグラだと脂が多く香りも強いので、こうはならない」

和田さん「レバーだけだとこうはならないのでは? 中国料理で鶏のささみを濾したスープと食感が似ている。鶏レバー以外に何が入っていますか?」

小林さん「昔の四川料理です。200gの鶏レバーに全卵2個、卵白2個分、スープ120cc、塩、胡椒を 器に流して蒸します。昔の人たちは血のニュアンスが強かった」。

高良シェフ「フランス料理にもフランがあるが、同じようにフォアグラで作ったら、フォアグラの嫌なニュアンスが残るような感じがする」

小林さん「卵の量が多いですが、フランス料理は生クリームを足したりするので」

和田さん「すり身が入っているような食感があって、ある意味レバーの臭みをいい意味で消していると思ったが、レバーしか入っていないとは思わなかった。全卵以外卵白が入るのがポイントかな?」

小林さん「フランス料理のフランのようなものより雑に感じませんか?」

高良シェフ「いやピュアでそんなことはない」。

和田さん「食べながら、竹爐山房の鳥の雑炊を思い出しました。ささみを裏漉しして小さな器にスープに入った状態でまるで雑炊のような料理。ささみがほろほろになって透き通ったスープに白いささみが浮かんですごく綺麗な料理だった」

続いて滋賀の近江鴨の料理、琵琶の形に焼き上げる「琵琶鶏」である。

高良シェフ「近江鴨は聞いたことがないですが、どうやって火入れしているんですか?」

マネージャー「コンベクションです」

和田さん「広東料理の鴨や鳩を食べた時に、フランス料理はあんなに肉に火を入れることがないので、ちゃんとした人が焼いたものを食べた時に「なんだこれ!? 全然ちがうという驚きがある」

高良シェフ「フランス料理には、あれだけパリッとさせる技法がないんです」

飯塚シェフ「うちでは恵鴨を使ってますが、鶏舎が綺麗なんです」

続いてXO醬の料理が出された。
小さなココットに入った、白子と牡蠣のアヒージョである。

マネージャー「自家製のXO醬と海鮮を併せてご賞味ください。根室の白子と厚岸の牡蠣です。中にXO醬を入れても構いません」

和田さん「油脂感がある 。最初に立ってくる香りが沙茶醤(サーチャージャン)の香りに近い、沙茶醤は竹爐山房がよく潮州料理によく使っていた」

続いては炒め物、アオリイカと黄韮の炒め物である。
長ネギやパクチーなどと、塩味で強火で炒められている。イカの甘み黄韮の香りが、よく合う。

高良シェフ「イカはどうやって切っているの? 段になっているのはなぜ? 」

均等に入れられた包丁目ではなく、イカの厚みが段のように細工されていることに疑問を持ったようである。

次は「脆皮鶏」が運ばれた。
ただし単なるクリスピーチキンではない。パリンと焼き上げた手羽先には、フカヒレと銀杏が詰めてある。能登のインゲンと百合根を添えられている。紹興酒を霧状に振りかけている 丸ごと油かける料理 だという。

続いて運ばれたのは「塩ビーフン」だった。
清湯の中にビーフンだけが入れられた、 シンプルな麺料理である。地味深く、クリアーなスープには、アルデンテに茹でられたビーフンが沈められている。

高良シェフ「ビーフンってスープの中で火を入れるんですか? スープの中に戻す? ネギも生姜も何もない(笑)」

牧元「もうほんのちょっと柔らかい方がスープと合いそうだが、もしかしてわざとスープを吸わせないようにこの硬さにしてる気がしないでもない」

高良シェフ「どうやって火を入れてここを狙ってくるのか? なぜこの食感と味になるのか?」

小林さん「7割くらい熱湯で茹でて、1回ざるに開けて蓋をして置いておくと蒸れて弾力が出る。ただ、その分くっつきやすくなる。だからスープの中で茹でながら味を含ませるんです」

牧元「ビーフンはあえてあの歯応えに仕上げている?」

小林さん「固いという人も多いが、中国人はあのくらいの硬さが好み。硬かったと思われるかもしれないが、香港のソウルフードの香港焼きそば(黄韮と麺だけの)が似たようなテクスチャーです。ふにゃーんとさせずに歯応えを生かしています」

最後は甘いもので、サツマイモの飴炊き「抜絲(バースー)」が運ばれた。
黄金色に輝くこの料理の主役は芋で、砂糖の甘さではなく芋の甘さが際立つように調理されている。

高良シェフ「これだけ綺麗な色で(キャラメリゼされていないのに)甘さが抑えられるのだろうか? ざらめ? 外側の甘さがさっぱりとしている。飴色なのに砂糖の強さを感じないのはなぜ?」

小林さん「さつまいもを見て砂糖の量を決めるんです。うっすらと一巻きになるように」。

高良シェフ「砂糖水だと甘いだけ、キャラメルだと甘味が抑え込まれる。ただ、これだけ色がついていなくて表面がパリッとしてて、でも甘すぎない。余計なもの入れた?(笑)と思うくらい、もう少し茶色みがかっているイメージがあった」

小林さん「もっと飴状にしてからめる人がいますが、宮廷料理(北京料理)だとしたらそんなに茶色くは出来ない。ちゃんと作れば宮廷に出せる料理。黄金色で留めるんです」。

本当はここで料理は終わりだった。

しかし卵チャーハンを作るところを見たいというシェフたちの熱望で、実演していただくことになった。カウンター席に移り、目の前で説明しながら作る様子を見る。

小林さん「まず鍋の温度をしっかりあげる。 材料は卵、タイ米、ネギだけ。 チャーハンは卵と油のバランス。 600gのご飯。卵50gくらい。 鍋にお米を入れて、卵をかけて、炒める。卵を入れてから7〜10秒くらいで卵が固ま料理ます。 その時になべ底がテカテカしてないのが小林流(油がない状態)です。香港、タイ、シンガポールアジアの方には、油が足りないとよく言われますが。これが『KOBAYASHI』のスタイルです。 最後に、塩、調味料、ネギを入れて焦がさないようにしながら香りを出すんです」

チャーハンを堪能した後は、杏仁豆腐を食べながら、 小林さんの話になった。

和田さん「小林さんは、竹爐山房の山本さんから『辻調の助教授で大阪から食べに来た人』と紹介されました。95年に竹爐山房が移転して広くなったら『アパート契約してきたので働かせてください』と言って入社したそうです」

牧元「三田のお店も面白かったですよね。竹爐山房のあと、際コーポレーションですからね。面白い繋がり。その当時の際コーポレーションには、中国から地方出身の人がたくさん来ていて小林さんも勉強になったと思います」

和田さん「もともと小林さんは辻調で上海広東、竹爐山房で北京。それが2005年に桃の木をはじめたら唐辛子がたくさん使った料理があって、小林さん四川になったの?と。でもたくさん唐辛子や花椒を使っても、やりすぎない上品な料理でした」

高良シェフ「小林さんの料理は過度に調理されているものがない。止めどきがわかっている」

和田さん「そういう人が、最近の中華でどんどんいなくなっている気がします」

高良シェフ「料理はどこまで攻めるかより、どこでやめられるか、やめどきがある。これ以上加熱しない、これ以上こなさないという点がある。もちろんそこを超えて出てくる美味しさもあるが、そうじゃないことの方が多い。料理教室の生徒にもよくいうんです。『やめ時を見つければ失敗しないよ』と。ただ、やめどきって本当に難しいなとここ数年ずっと思っています。小林さんの料理はやめどきが上手ですね」

和田さん「すごく綺麗」

高良シェフ「行き過ぎない」

牧元「しかし今は、いろんなお客さんが増えてきました。昔はこういう料理が受けましたが、今は一般的には行き過ぎの料理が受けたりする」

小林さん「中華でもキャビア乗っけちゃったりとか…」

高良シェフ「今日乗ってたじゃないですか(笑) 俺は乗っけない体裁でしたけど(笑) 」

和田さん「桃の木を始めたころ、唐辛子の中に鴨の舌が入っている料理があったが、最近まねしたような料理がどんどん出てきてる。それが小林さんの作るものとは違っているんです。食べると山椒が強すぎて舌が痺れてしまい、その後の料理の味が全然わからなくなる」

牧元「見た目とは違って、唐辛子の辛さは少しで、香りを立たせている」

高良シェフ「前にいただいた茄子の唐揚げがまさにそんな感じでしたね」

小林さん「『辛い』より『香り』を」

高良シェフ「最近の料理は、演出になってしまったから、味の方向性が変わってしまった。あの茄子の唐揚げは忘れられない味です」

小林さん「茄子を舞茸に変えることもある。コーンスターチを使う。190度くらいの温度でキノコをあげていくとフワーッとトリュフのような香りが出てくる。コーンスターチ9割、片栗粉1割、それに水です。今度また食べにきてください」

全員「それは食べたい。ぜひぜひ」

小林 武志
1967年⽣まれ、愛知県出⾝。⼤阪・辻調理師専⾨学校を卒業後、同校で8年間講師として勤務。その後、吉祥寺「⽵爐⼭房」など数々の有名中国料理店で研鑽を積み、2005年に港区三⽥に「御⽥町 桃の⽊」を開店。2020年、店名を「⾚坂 桃の⽊」に変更し、東京ガーデンテラス紀尾井町に移転。2023年同店を退き、2024年6月6日より六本木「KOBAYASHI」シェフに就任。ミシュランガイド東京では、2007年の創刊から常に星を獲得し続ける事に貢献。また、太平洋クラブ八千代コースのメニュー監修も行っている。

KOBAYASHI
東京都港区六本木3丁目3-29 六本木アーバンレックス B1F
050-1809-4801
17:00~23:00(20:00最終入店)

text:マッキー牧元, photo:川上尚見


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