食中毒を引き起こす危険な微生物(菌・ウイルス、寄生虫、カビなど)には、それぞれに好みの環境があります。おもなグループを紹介します。
微生物の多くは、十分な加熱をすれば死滅します。しかし、ウェルシュ菌やボツリヌス菌が芽胞とよばれる「バリア」を作ると、通常の加熱では死滅しにくくなります。さらに、これらの菌は、料理が冷めるときに急激に増加。フォン・ド・ヴォーや煮込み料理は、かき混ぜながら氷水で冷やすか、ブラストチラーなどの急冷機で冷却するようにしましょう。
ウェルシュ菌やボツリヌス菌は、酸素がない環境になると増える菌でもあります。鍋で沸騰した料理の中は無酸素状態になるので、これらの菌にとっては「快適」な場所になります。真空パックも無酸素状態を作りますので、殺菌をしていない真空パックの食品を常温保存するのは危険です。十分な加熱、速やかな冷却、十分な再加熱を心がけましょう。
何枚も積み重ねて置かれたボールやバットの中や、大量に盛り付けられた料理の中心部分など、酸素が薄い環境になると増える細菌があります。牛や豚よりも、鶏の保菌率が高いカンピロバクターが、その代表的な細菌です。生肉を扱ったボールやバットをしっかり洗浄せずに重ねて置いておくと、カンピロバクターが増えることがあります。
細菌などは、「水に強い」というイメージがありますが、乾燥した状態になると増えたり、生き残ったりする細菌もいます。サルモネラ菌です。パイプや梁など、洗浄不足の場所にすみつきます。ウイルスは細菌と違う生物で、生きるために水分を必要としませんから、乾燥しているところでも生き続けます。ノロウイルスなどがそうです。
増殖した細菌が毒を出すこともあります。この毒は、どんなに加熱してもなくなりません。そのため、加熱して安全だと思った料理でも、食中毒になるケースもあります。また、毒を出す場所も、食品の中や人の体内、表皮上などさまざまです。加熱にも無酸素にも強いボツリヌス菌、人のキズ口などから感染する黄色ブドウ球菌などが毒を出す細菌です。
少ない細菌やウイルスの量でも、人の健康を害するものもあります。O157やノロウイルス、カンピロバクターなどです。これらは、加熱、急冷、保存といった食中毒を起こさないように注意しながら作った料理でも、最後の盛り付けなどで人の手を介して(交差汚染)、わずかに付着したことで、食中毒の症状を引き起こしてしまいます。
魚の内臓にすみつく寄生虫のアニサキスは、刺身やカルパッチョなど、魚を生食する際に、もっとも注意したいものです。アニサキスは、塩〆や酢〆では、殺すことができず、加熱と冷凍が一番の撃退方法です。また、内臓が腐敗していくと、アニサキスは身の方へ逃げていく性質がありますので、できるだけ早く内臓除去の処理を行うことも重要です。
人の手は、食中毒を起こす病原菌の運び屋。一時的に手についた病原菌は、洗い落とすことができるので、予防には手洗いが効果的です。
1.流温水で手を濡らし、ハンドソープを手にとる。
2.「お願い」のポーズのように、手のひらを合わせよくこすり、泡立てる。
3.手の甲を洗う「。亀」のポーズ。
4.指先と爪の間をよく洗う。
5.両手を絡めるようにして、指の間を洗う。
6.親指をもう一方の手で握り、回すように洗う。
7.手首も汚染されている可能性もあるので、よく洗う。
8.流温水で20秒以上、十分に洗い流す。1~8までを2回以上実施する。
9.使い捨てペーパータオルかハンドドライヤーで手を乾かす。
10.消毒用のアルコールを手と指によくすりこむ。
本記事は雑誌料理王国第285号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第285号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。