料理人の新たなキャリアの可能性を探る「食育×キャリア 料理提供を通して実現したいキャリア形成 ワークショップ」(株)Chef’s valueが開催〜イベントレポート

料理人の新たなキャリアの可能性を探る「食育×キャリア 料理提供を通して実現したいキャリア形成 ワークショップ」(株)Chef’s valueが開催〜イベントレポート アイキャッチ

プロフェッショナル・エージェンシー事業を展開する株式会社クリーク・アンド・リバー社(本社:東京都港区)の食分野の子会社である株式会社Chef’s value(本社:東京都港区)は同社が運営するレストラン「Cassolo」(東京・虎ノ門)にて、「食育×キャリア 料理提供を通して実現したいキャリア形成 ワークショップ」を開催した。

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イベント会場のCassolo外観

今回のイベント会場となった「Cassolo」は、料理人の独立開業やスキルアップ、キャリアアップを支援するスタートアップのためのレストランで、2022年11月にオープン。曜日ごとにシェフが入れ替わってオリジナルメニューを提供し、店舗運営を学びながら経験を積むことができる場として注目されている。料理人の交流や、新しい食材や調理器具を知るイベントも開催している。

プロ料理人が挑む「食育」の世界──虎ノ門Cassoloで新たなキャリアの可能性を探る

今回のイベントは5名の料理人がそれぞれテーブルに分かれて子どもたちにマンツーマンでワークショップを行い、自身の新しいキャリアの可能性や「食を届けること」の本質に迫る。

参加した料理人はフレンチ、イタリアン、和食、中食・外食企業のメニュー開発者など、食のプロフェッショナルとして活動している人ばかりだ。全員が食育のワークショップを担当することは初めてだが、「新しいキャリアに興味がある」「これまでと違うフィールドを見てみたい」などと想いを語った。

株式会社ravide代表取締役 江口 颯良(えぐち・そら)さん 講義の様子
株式会社ravide代表取締役の江口 颯良(えぐち そら)氏

「食育と料理人のキャリアを繋ぐ」ことをテーマにした今回のイベントは、全国40〜50の保育園や幼稚園での食育活動を展開している株式会社ravide(本社:東京都世田谷区)代表取締役の江口 颯良(えぐち そら)氏を講師に迎えて実施された。

江口氏は調理師学校卒業後、名古屋のミシュラン一つ星店「ラ・グランターブル ドゥ キタムラ」や東京・赤坂のミシュラン二つ星店「ピエール・ガニェール」で腕をふるった元料理人。コロナ禍に保育園で勤務し、食育の現場を目の当たりにしたことをきっかけに、現在の活動を始めた。自身も新たな食のフィールドへキャリアチェンジした経験者ということだ。

江口颯良さんが講義している様子2
料理人たち向けの講義をする江口氏

「正解を設定しないで」──元ミシュランシェフが説く、子どもの主体性を引き出す食育とは

ワークショップに子どもたちを迎える前に、料理人たちに向けて江口氏による講義がなされた。江口氏は「大人からの問いかけを通して、子どもたちが自分で何をしたいか考え、自由な感性を育むことができる」とし、「正解を設定するのをやめてほしい」と話す。

多くの食育イベントでは料理を作ることをゴールとするが、江口氏は「一皿できても、できなくても」「おいしくても、まずくても」いいとし、子どもたちに主体性を持たせることをベースにするよう促した。

これまで食育に関わったことのない料理人からは少しばかり困惑の表情が見られた。

レストランで研鑽を積んできた人にとって、この食育の方法では、これまでの当たり前を外すことが必要とされる。一方で、レストランや企業で身につけたコミュニケーション能力を生かすことはできる。

子どもたちの自由な発想が教えてくれた「食を届けること」の本質と未来

ワークショップにて食材を選ぶ子どもたち
料理人と一緒に食材を選ぶ子どもたち

いよいよワークショップに招待された子どもたちを迎えると、これまでの不安な顔つきは一転。料理人たちは担当する子どもに目線を合わせ、「好きな食べ物は何?」などと話しかけた。
ワークショップに参加した子どもたちは幼稚園の年長から小学4年生までの5組6名。保護者に付き添われながら、「ラーメンが好き」「野菜は好きじゃない」などと答える。

ワークショップにて用意された食材
ワークショップに用意された食材

用意された白なすや黄ズッキーニなど、スーパーではあまり見かけない野菜を一緒に見て、触って、選び、その形や色、触り心地を共有する。もちろんレシピなどなく、調味料は基本的なものしか置いていない。江口氏も「食べられそうな野菜ある?」「にんにくもあるから、おいしいにおいになるよ」などと話しかける。

通常ravideの食育活動は、保育園や幼稚園で一日かけて、少人数、異年齢などいくつかのクラスを行う。園の一員として保育に携わり、コミュニケーションを図る。

この日も「子どものやりたい、作りたいという気持ちを汲んで、道筋を立てる」ことをぶれない軸とし、ワークショップは丁寧に進められていった。

ワークショップにて調理を楽しむ子ども
ワークショップで調理を楽しむ子ども
ワークショップにてトマトに包丁を入れる様子

当日サポートに入ったravideの福島聖さんも元々は料理人だ。各テーブルを回り「オレンジ色のトマトって中もオレンジなんだね。焼いても同じ色なのかな?」などと問いかけ、当たり前と思っていたことから疑問を持つチャンスを子どもたちに与える。

江口氏は「食育においてリスクを排除するのは簡単だが、リスクから得られるものは多い」と言う。「体験を価値」にすることが、食育においていかに大切かを語った。

江口氏は「料理の可能性はレストランだけではない」とし、料理人の社会貢献やキャリアアップには展開の仕方がまだまだあると考える。今回参加した料理人からは「食育が自分のキャリアのひとつの選択肢となった」との声も聞かれた。

ワークショップで完成した料理を持つ子ども
ワークショップにて作られた料理
ワークショップにて完成した料理を手に持つ家族
料理を食べる子ども

子どもたちには、多くの料理人に囲まれて食に触れた今回のワークショップは、心に残る体験となったようだ。
料理人たちはサポートに徹し、少しだけヒントを与え、子どもたちは自由に野菜を扱う。

包丁を手に具材を切る男の子
包丁を手にズッキーニを切る男の子

フライパンでじっくりと焼く子、パスタに仕上げる子、華やかに盛り付ける子・・・とさまざま。「イタリアレストランみたいな食事になった」「楽しかった」など、笑顔で感想を伝えた。

厨房に入って野菜を洗ったり、茹でたパスタを運んだりと、家庭のキッチンとは違う食の現場を体験し、目を輝かせた。

ワークショップ 参加者集合写真
本ワークショップに参加した料理人とスタッフ

多くの料理人にとってコロナ禍がキャリアチェンジやキャリア形成について考える大きなきっかけとなったことは想像に難くない。

今回、食育が新たなキャリアの選択肢となっただけでなく、子どもたちと食を分かち合うことで料理人としての気付きに繋がるチャンスとなったはずだ。

ravide_代表_江口颯良氏_プロフィール写真

江口 颯良(えぐち・そら)
株式会社ravide代表取締役
名古屋辻学園調理専門学校卒業。名古屋のミシュラン一つ星レストラン「ラ・グランターブル ドゥ キタムラ」、港区赤坂のミシュラン二つ星レストラン「ピエール・ガニェール」勤務を経て、食育講師として保育園での活動を開始。「食を楽しみ続けられる人を育てる」をビジョンに掲げ、2023年に株式会社ravide設立。
HP:https://ravide-sensei-sora.com/

text:神田えり子
写真提供:クリーク・アンド・リバー社

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