スコットランド最前線。野生パワーに圧倒される「Timberyard」が究極の答えである理由


30年以上に渡ってスコットランドの首都エジンバラで人気レストラン事業を手掛けてきた家族が行き着いた、比類のない自然とのコラボレーション。食業界で今、世界的にも注目を集めるスコットランドの現在をレポート。

スコットランドの大自然を、まるごと全身で味わえる究極のダイニングを訪れてきた。筆者にとっては間違いなく、本年度ベストの一つ。そのレストラン「Timberyard ティンバーヤード」は、スコットランドの古都エジンバラにある。

ミシュラン一つ星を持つTimberyardの本質を一言で表現するなら、“ワイルド&ファンキー”。材木置き場を改装した独特のモダン空間、ほぼ野生動物の肉やサステナブルな食材しか使わない姿勢、フォレジングの豊かさ、個性あふれるナチュラル・ワインや自家製ドリンク。まるで未開の地の一部族のように首から足までタトゥーが入った共同オーナーや、妖精の技でドリンクを創るベバレッジ責任者まで。そこは極めてユニークで、刺激的なレストランなのである。

スコットランドのファイン・ダイニングは昨今、地理的な影響から言っても若干スカンジナビアの香りをまとっているのだが、その奥で鼓動しているのは、紛れもないスコットランド魂だ。繊細なプレゼンテーションの中にもダイナミックな自然の息吹が感じられ、ケルトの人々が好む楽しくてシンプルな暮らしが見え隠れしている。そういった伝統をさらに進化させた現代的なダイニングが、Timberyardだ。

古い梁がそのまま生かされたインダストリアルで開放的な空間。2023年春にミシュラン一つ星を獲得した。
肉類は野生のものを使い、シャルキュトリ用に希少種の豚のみ農場から取り寄せている。ハムの下には雉肉のパルフェ、オート・ブレッド、マンダリン・ジェリー。野趣を感じる盛り付けに惹きつけられる。
苔類のベッドの上に美しく並べられた鹿のハツ串焼き。肉の旨味を十分に楽しめるリッチな味わい。

Timberyardはラドフォード家の5人による完全なファミリー・ビジネスでもある。2012年に創業するまでには、すでに先代のアンドリュー&リサ夫妻がエジンバラで30年以上に渡ってレストラン事業家として名をなしており、この巨大空間の立ち上げに際して3人の子どもたちが加わって世代交代が行われ、現在がある。

厨房を率いているのは、昨年エグゼクティブ・シェフに就任されたバート・ストラトフォールド Bart Stratfoldさん。バートさんはロンドン中の高級レストランがごぞって取り引きしたがるイングランド南西部のクームスヘッド農場 Coombeshead Farmで、自然とのコラボレーションについて多くを学んだ経験豊かな自然派シェフだ。

つい最近は使う食肉のほぼ全てをシカやイノシシ、野ウサギ、ジビエなど、スコットランドに生きる野生動物のみと決めた。それらは個体数管理のためにサステナブルな方法で捕獲されるものに限られ、唯一の例外は契約農家から仕入れているシャルキュトリ用の肉のみ。魚介類はもちろん、スコットランドの荒々しくも母性あふれる近海に育まれた新鮮なものを日々仕入れている。

パティオには有機栽培やフォレジングなどで採取した自然の実りをゆっくりと熟成、乾燥、発酵させるための設備があり(冒頭写真)、素晴らしい自家製ドリンクをはじめ、あらゆるメニューに驚くばかりのフレグランスをもたらす。この徹底した食材哲学がTimberyardをますます特別なものとし、「スコットランドらしさとは?」という命題に答えを出し続けている。

エグゼクティブ・シェフのバート・ストラトフォールドさん。左はスカイ島のエビ、バラ島のコックル。とびきり新鮮なのだ。
バラ島沖で獲れた巨大なホタテと、スコットランド産の黒トリュフの組み合わせは絶品。2種のカボチャの軽いソースで。トリュフを削っているのは共同オーナーでフロア責任者、ラドフォード家の次男であるジョー・ラドフォードさん。首にまで彫られたタトゥーに目が釘付け。
タルボットには若いグースベリーのソース、ヒプシー・キャベツを添えて。シェフの技量とセンスの良さが際立つ非常に洗練された一品。
歯応えのよいランゴスティンには、スコットランド特産のポテト「アラン・ヴィクトリー」を添えて。魂に響く食体験をクリエイトする美しい空間。夕暮れどきには魔法のような空気が醸成される。

Timberyardのテイスティング・メニューを味わうことと、スコットランドの大自然を胃袋で感じることは、ほぼ同義だ。

例えばスコットランド西海岸のバラ島沖で潜って獲る巨大なホタテは、ふわっと軽い歯応えのホタテに慣れている口には衝撃的だった。バートさんはバターで少しソテーしただけと言っていたが、まるで軽く燻して乾燥させたような甘さと強い歯応え、そして厚みがある。この腰のある歯応えこそがバラ島沖で獲れるホタテの特徴なのだそうだが、スコットランドの一筋縄ではいかない風土そのままにも感じた。

この後はタイムが香る卵黄ソースのキノコ、美しい高級魚タルボット(イシビラメ)、上質のランゴスティン、花梨と栗を添えたマガモと、研ぎ澄まされた品々が続く。いずれもしっかりとした歯応え、素材のパワー、味わいの輪郭を感じ、あいまいなところは一つもない。

プレ・デザートはフィグ・リーフのソルベと軽くソテーした上品な洋梨の組み合わせ。その後、トーストした発芽ヒマワリの種とレモン・パウダーをトッピングしたヴァニラとイーストのアイスクリーム、アマルフィ・レモンのムース、ブレッド・キャラメル添えが続く。

この豊穣は、どうだ。外来の食材も含めてテイスティング・コースの全てがスコットランドを叫んでくる。この地域の古代から現代までを網羅した技術、食材、土地の個性が、厳然として主張する。

スコットランド産のチーズは必食。左はほんのわずかな酸味を感じるさっぱりクリーミーな山羊チーズ。表面を覆う炭が熟成と保存の両方を助け、なんともいえない上品な味わいに。
アマルフィ・レモンを堪能するアイスクリーム。左は魔女の集会所のような美しいイベント・ルーム。

昨年は満を持してカジュアルな姉妹店「Montrose」が同じ市内にオープンした。通なワイン・リストに合わせる美食小皿はやはり、バートさんが監修。気軽にTimberyardの食クオリティの一端に触れられるようになった。

またこの11月末にはエジンバラで最もトレンディな港湾エリアに誕生したマルチ・カルチャー施設「Brown’s of Leith」内に、「Haze」と呼ばれるカフェ・バーもオープンし、ますます注目を集めている。

「ワイルド」と「洗練」は矛盾しない。同じ意味で「素朴」と「豪華」も同居が可能だ。しかしTimberyardでは「控えめ」は美徳ではなく、たっぷりとした季節のフレーバーが容赦なく繰り出される。スコットランドの大地と海は今、Timberyardのチームにより実に豊かなシンフォニーをともに奏でているようだ。

Timberyard
https://www.timberyard.co

Montrose
https://www.montroserestaurant.co

Haze
https://www.instagram.com/haze.shore/

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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