一方のハトは、さまざまな食材とのコラボレーションが楽しい、目にも舌にも嬉しいひと皿だ。
「食用のハトは、日本では手に入りにくいので、やはり特別な食材ですよね。血の風味が強い独特の味わいが魅力なので、こちらもシンプルに炭火で焼くだけにしました」と後藤シェフは言う。
とくに今回後藤シェフに調理してもらったハトは、4週齢の仔バトで、肉質も柔らか。しっかり火入れしているのにジューシーで、クセもない。付け合わせに添えた、バーナーで焼いたトウモロコシや枝豆、エシャロットやニンニク、ジロールなどが入った〝食べるソース〞ともぴったりマッチしている。
「よい素材があってこそのおいしい料理。今回は、それを実感しました」。
しかし、そんなフランス料理に不可欠な食材にも、危機はあった。鳥インフルエンザだ。
2015年11月にフランスで起こった鳥インフルエンザによって、フランスから日本向けに輸出されるはずだった生きた家禽と家禽肉の輸入は停止になった。2018年8月の解禁後、入荷は安定したものの、日本ではこの間にフォアグラや家禽離れが進み、カモなどの国産化も進んだ結果、フランス産の家禽の流通量はグンと減ってしまったのだ。
その後、家畜伝染病予防法施行規則が改正され、以前のようにフランス国内のある県で鳥インフルエンザが発生すると、全土からの輸入が禁止されるようなことはなくなった。今は鳥インフルエンザが発生した地域からの輸入が禁止されるだけなので、ヴォライユの供給も安定してきている。
ヴォライユはフランスの食文化のひとつ。そこには長い歴史があり、先人たちの知恵や工夫が詰まっている。その食文化を支える素材たちを改めて手にすることで、新たな発見や発想が生まれてくるかもしれない。良質な素材には、そんなパワーが宿っている。
カナールロティ×「甲斐ノワール」(敷島ワイナリー)
洗練された味わいの鴨肉とスパイシーさや薫香のあるソースに合わせ、根菜のような香りやスパイシーなニュアンス、また肉質と非常に相性の良い緻密なタンニンを持つ「甲斐ノワール」を。
問い合わせは、敷島醸造株式会社 TEL: 055-277-2805
ピジョンの炭火焼き×「ジュヴレ・シャンベルタン」(ドメーヌ シャンソン)
鳩肉がまとうブラッディな香りやジロールなどの茸のソースには、力強く厚みのある味わいの「ジュヴレ・シャンベルタン」がぴったり。問い合わせは株式会社アルカン ワイン営業部 TEL: 03-3664-6591
後藤祐輔さんは、辻調理師専門学校の東京校とフランス校で学び、銀座「レカン」で修業したのち、再渡仏。帰国後、「カンテサンス」、「オトワレストラン」などのオープニングに携わり、30歳で「エキュレ」のシェフに就任。2012年、西麻布「アムール」のシェフに就任し、 2016年に恵比寿に移転。
アムール
東京都渋谷区広尾1-6-13
TEL 03-3409-1331
12:00~13:00LO、18:00~20:00LO
水を中心に月5日休
text: Shoko Yamauchi photo: Gaku Yamaya
本記事は雑誌料理王国318号(2021年10月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は318号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは、現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。