欧州食材のパイオニア・アルカンからの提案vol.16 サステナブルな働き方の実現を手助けする「フォンドヴォー」の美味しい調理法 24年2月号


食品ロス削減や料理人の人手不足が叫ばれる中、いま日本の料理業界で注目されている、グリーンマウントフーズ社の「冷凍フォンドヴォー」。130年以上の歴史を誇る帝国ホテルでは、伝統の技と味を紡いでいくためにも自前のフォンをとり続けている。近年は働き方改革の一環として、料理の質が担保されることを前提に冷凍フォンドヴォーを取り入れることもあると、杉本 雄 東京料理長は語る。

フランス料理のベースとなるフォンドヴォー。かつてはお店でイチから仕込むものだったが「今は、フランス現地でも自前でフォンをとる店が減り、肉のスジや端肉のジュで代用することが多い印象。その一番の理由は、手間と時間がかかり、長時間労働の常態化を招きやすいからです」と話すのは、帝国ホテル第14代東京料理長の杉本 雄さん。

さらにパリ在住のジャーナリスト、吉田恵理子さんは「フランスではホテル・レストランの労働時間の規制が厳しい上に慢性的な人手不足。フォンを使用する際には、加工品を利用して時短・効率化しています」と分析。なお、フォンの加工品は冷凍ではなく粉末がよく使われているそうだ。

本場でもこの状況だからこそ、杉本さんは「フランス料理が誇る文化、フォンドヴォーの技術や味わいを伝承していかなくては」と語る。杉本さんといえば、38歳で東京料理長に抜擢されてから、美食とサステナブルの両立に取り組む。グリーンマウントフーズ(GMF)社の冷凍フォンドヴォー導入もその一環だ。

大量調理において、限られた人数で品質を安定させるため、帝国ホテル 東京では自前のフォンとこの商品を両立させている。GMF社のフォンドヴォーは、ビーフエキスを使わず、調理場と同じ材料・工程で作られ、安定した高品質が特徴。帝国ホテル 東京ではオリジナルレシピを導入して、調理場での働き方改革と、料理の質の担保に役立てている。

なおホテルでは通常、GMF社のフォンドヴォーをマッシュルームやポートワインと合わせて、それをベースに様々なソースへと展開させる。今回は特別に、フォンドヴォーをダイレクトに感じられる、牛のブレゼを披露してくれた。

鍋の中でタマネギとニンジンをよく炒めたあと、トマトとニンニク、タイムを加え、焼き色をつけたショートリブも入れる。
フォンドヴォーを加える。
フォンと赤ワインを加え、1時間半ほど煮込んだら肉を引き上げてジュースを濾す。
1/3までに煮詰めたフォンドヴォー。
コクを出し、照りをつけるため、煮詰めたフォンを適量加えていく。
「フォンドヴォーを使った牛のブレゼ」
「今回の料理の場合、目指すゴールのためには、フォンにはもっとトマトの味わいを、出来上がりにはゼラチン質感を高めたいと考え、調理過程でそれらをプラスしました」と杉本さん。豪快な骨付きリブの上には、キノコや黒トリュフやハーブなどが繊細にあしらわれている。肉を口に入れると、ショートリブ特有の食感が心地良い。フォンや赤ワイン、野菜のエキスが適度に凝縮され、奥深いうま味を持つブレゼに仕上がった。

国内外を問わず、ホテルやレストランで利用されているグリーンマウントフーズ社のフォンドヴォー。そのルーツはニュージーランドにある。北島の中央部。太平洋にほど近く、美しい風景が広がるエリアが、同社の拠点だ。そこで、自然の素材を使った抽出製品(ストック)やソース、スープなどの冷凍品を生産している。

牛肉の輸出国として知られるニュージーランドは、狂牛病が発生していない数少ない国のひとつ。安心安全で安価な仔牛の骨が安定的にあるため、日本国内のメーカーがフォンドヴォーを作るより原料コストを低く抑えられる。また、フォンを取ったあとの骨もペットフードの原料に使われるなど、無駄がない。SDGsの時代にあって、ニュージーランドもGMF社も、フォンドヴォー作りに最適な環境と言っても過言ではない。

「GMF社の依頼を受け、料理人でもある私が考えたのが、調理場と同じ食材、同じ行程で、化学的に作られた牛エキスや添加物を使わないで作る、自分が使いたいと思えるフォンドヴォーでした」と同社アンバサダー兼マーケティングシェフの浅川秀樹さんは話す。理由は明快。料理業界は慢性的な人手不足。一方で、働き方改革などで長時間労働は認められない。

浅川秀樹
グリーンマウントフーズ アンバサダー兼マーケティング シェフ

1950年生まれ。1968年、東京のフランス料理店で料理人人生をスタート。1978年にスイス、モナコへ。帰国後、数社の食品メーカーで製品開発、教育、買付、卸業務などを経験。65歳の定年後、GMF社の依頼を受け、フォンの開発責任者に。

「つまり、長い時間をかけて作るフォンドヴォーを自店で手作りするのは、現実的に難しい。だからこそ、安心安全で高品質な冷凍フォンは時代に求められていると考えたのです」と浅川さん。ニュージーランドは牛肉の輸出国で、素材となる仔牛の骨も豊富で安い。GMF社は、世界でも珍しい、材料を長時間かけて煮出す設備や減圧濃縮器も完備している。

仔牛の骨を10cmにカットし、オーブンロースターで野菜と一緒にローストする。

「完成品の風味をどのあたりに持ってくるかは考えどころでしたが、まずはオーソドックスでベーシックなフォンドヴォーにして、多くの人達に美味しいと感じていただけるものにしました」と説明する浅川さん。結果、ドバイやシンガポールで大人気となり、その流れは日本やアメリカへも広がっていった。

仔牛の骨や野菜といった材料を長時間かけて煮出すことができる、容量1tの釡を18基揃える。釡は自動制御システムで温度調整ができる。
通常の調理場にはない減圧濃縮器。減圧して沸点78℃で煮つめていくため、焦げ付くことなく、密封されているので香りが逃げない。

今回、杉本さんが煮つめたフォンドヴォーで味に深みを出したように、「皆さまのご要望が多く、来年には2分の1に煮つめた商品も販売する予定」と浅川さん。時代は進み、冷凍フォンドヴォーへの期待は、さらに高まっていきそうだ。

仔牛の骨とスジ、玉ねぎやニンジンなどの野菜類、トマト加工品などを使い、長時間かけてつくったGMF社のフォンドヴォー。あえて「オーソドックス」な味わいに仕上げているのは、例えば自店で別の材料を加えて煮ることでオリジナリティを出したり、帝国ホテル 東京のようにフォンと野菜とワインを合わせたものをソースへと展開させたり、料理人がそれぞれ思い描くゴールに向かってアレンジしやすいように、という浅川さんの思いがある。またニュージーランドは日本と同じ軟水のため、日本の料理人に馴染んだフォンを作ることができるのもポイントだ。

杉本 雄
1980年、千葉県生まれ。1999年に帝国ホテルに入社。2004年に退社して渡仏。「ホテル・ル・ムーリス」では、ヤニック・アレノやアラン・デュカスのもとでシェフを務める。2017年帝国ホテルに再入社。2019年に帝国ホテル 東京料理長に就任。現在に至る。

帝国ホテル 東京
東京都千代田区内幸町1-1-1
TEL 03-3504-1111

【フォンドヴォーの問い合わせ】
アルカン業務食材営業部
TEL 03-3664-5114

text:Shoko Yamauchi photo:Hiroyuki Takeda

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