欧州食材のパイオニア・アルカンからの提案vol.18 オマールブルーのおいしい調理法 24年6月号


大西洋沿岸の岩場に生息する、青褐色の殻が特徴的な「オマールブルー」は、その味わいや旨味の豊かさから一級品として愛されている。今回は「ドミニク・ブシェ トーキョー」の伊藤翔さんが、オマールブルーの魅力を引き出す二品を教えてくれた。

スペシャリテを支えるオマールブルーの魅力

オマールの中でも最高級ブランドと言われるオマールブルー。東京・銀座にある「ドミニク・ブシェ トーキョー」でエグゼクティブ・シェフを務める伊藤翔さんも、その愛用者の一人だ。「当店で提供するコースには、季節を問わず、必ずオマールブルーを使った料理が入っています。師匠のドミニク・ブシェのスペシャリテにも欠かせませんし、私にとっても大好きな食材のひとつです」。

オマールの英名はロブスターで、生物学分類上はザリガニの仲間。オマールの中でも、大西洋沿岸で水揚げされる殻が青褐色のものは「オマールブルー」と呼ばれる。一般によく流通するカナダ産と比べると、漁獲量は10分の1程。養殖が不可能な上に、甘味と旨味が濃厚で身が締まっていることから、希少価値の高い高級食材として知られる。そんなオマールブルーをハイプレッシャー(高圧)で硬直させて殻を外し、頭を落として急速冷凍する技術をヨーロッパで唯一取り入れているのが、サンク・デー・オー社だ。身溶けがなく食材ロスも防げ、在庫管理も容易に。旬の時期に集中して加工するので、品質や価格が安定しているのも大きな魅力だ。

以前はフレッシュを使っていたそうだが、現在愛用しているハイプレッシャー冷凍のオマールブルーに出会ってからは、後者を重宝しているという。「一年中使う食材なので、冷凍でストックしておけるのはとても便利です。クリスマスディナーなど、たくさん必要となるシーンでも大活躍しています。またフレッシュと比べて遜色なく、品質が安定しているのもありがたいですね」と、高く評価する。

ハイプレッシャー冷凍のオマールブルーは、フランス・ブルターニュ地方ロリアンにあるサンク・デ・オー社が手がけている。捕獲直後に高圧をかけて身を硬直させ、殻を外し、頭部を切り離して急速冷凍。この処理によって殻はきれいに外され、頭部から出る酵素で身溶けが生じることもない。さらに、旬である6〜9月頃に集中して加工するため、安定した価格での提供が実現している。

今回はハイプレッシャー冷凍のオマールブルーを使って、食材の魅力を引き出すような、温度帯の異なる2品の料理を作っていただいた。

「1品目は、ドミニクのスペシャリテである『ジュレ・ド・オマール』。オマールのコンソメをゼリー状に固めた上に、オマールブルーや生ウニ、キャビアなどを置いた冷たい料理です。2品目は私が考案した温かい料理で、オマールブルーと黒トリュフをタルトレットに仕立てました。2品それぞれのゴールに向けて、オマールブルーには異なる火入れを。エビは加熱すると丸まりやすいので、解凍したら身に竹串を刺してまっすぐに、節目を糸で縛ってから、慎重に火を入れていきます」と伊藤さん。

繊細な味わいを引き立てる火入れを

1品目は「ジュレ・ド・オマール」。伊藤さんが「通年出しているメニューですが、オマールブルーが旬を迎える夏はぜひ召し上がっていただきたい」と話すように、オマールブルーの甘味や旨味、生ウニの滋味ある味わいをキャビアの塩気が引き立てる爽やかな一皿だ。解凍して水気を拭いたオマールブルーは、レアな部分が残るようクールブイヨンでポシェした後、冷たいクールブイヨンに浸す。「クールブイヨンでのポシェは、殻つきのオマールでもよく使われる下処理の方法です。今回はむき身で殻がない分、早く熱が入ってしまいますから、火入れは慎重に。とろりとした食感の生ウニやキャビアと合わせるので、中心はレアな状態をねらいます」と伊藤さん。

加熱して身が丸まらないように、解凍して水気を拭き取ったオマールブルーのテールには竹串を通し、4つの節をタコ糸で縛る。
クールブイヨンが沸騰しない温度を保ちながら、ツメを2分半、テールを3分間ポシェする。
テールとツメを冷たいクールブイヨンに入れて冷却。ブイヨンの旨味や塩味を含ませる。
中心部はレアな状態のオマールを一口大にカット。

なお、冷たいオマールブルーと合わせるのは、オマールヘッドから引いたコンソメのゼリー。身の繊細な味わいに寄り添うように、コンソメは雑味を抑えてクリアに仕上げたい。そのためには、クラリフィエの際に、根気強く、こまめにアクをとるのが肝心だ。

コンソメにゼラチンを加えて皿に流して冷やし固め、中央にオマールのテールとツメを置く。生ウニ、キャビア、セロリの葉などを盛り付ける。
オマールヘッドでコンソメを引く。オマールと香味野菜、フォンブランを煮込み、泡立てた卵白と香味野菜を注いでクラリフィエ。卵白の中心に穴を間けてフォンを対流させながら沸かし、アクをこまめに取り除いてクリアに仕上げる。

こういったていねいな調理行程からは、食材や料理と真摯に向き合う伊藤さんの姿勢が伝わってくる。「ドミニクが教えてくれた、料理に対する愛情、食材への尊敬心を、私も大切にしています」。

「ジュレ・ド・オマール」
オマールのコンソメゼリーの上に、中心をレアに仕上げたオマールブルー。その上には生ウニ、キャビア、金箔、セロリの葉、ハーブ類を。周囲には5mm角のセロリにキャビアを1粒ずつ載せ、等間隔に24個並べる精緻な盛り付けが印象的だ。

2品目は、コースの魚料理に位置する温かい「オマールブルーのタルトレット」。「ジュレ・ド・オマールに比べて、味わいや食感のコントラストを強めた一皿です。タルトのサクサクとした食感に合わせるので、オマールは口に入れたときの香ばしさやバターの風味が感じられるよう、バターの泡でアロゼして仕上げます。最初からバターを使うとバターが焦げやすく、オマールブルーの繊細な味わいを邪魔する恐れがあるので、最初はオリーブオイルで表面を、次にバターでアロゼ、と2段階で火入れをしす」。伊藤さんの狙い通り、身にゆっくりと火が入るので、しっとりとやわらかく焼きあがっている。この料理でもオマールの殻を大量に使うビスクソースには、オマールヘッドを使った。

ジュレ・ド・オマールと同じくタコ糸で縛るまでの処理をしたオマールブルーの表面を、オリーブオイルをしいたフライパンで軽く焼く。
無塩バターを加え、溶けたバターの泡を繰り返しかけてアロゼしながらじっくりと火を入れる。
盛り付け。タルト生地の上にカリフラワーのピュレと、刻んでソテーしたカリフラワーを敷く。
オマールと黒トリュフを交互に重ね、トリュフの香りがたつように1分ほどオーブンへ入れる。仕上げにマッシュルームのトゥルネ、ハーブをあしらう。
ビスクを作る。オマールヘッドの頭と脚を分け、頭はオーブンに入れ、脚は鍋で炒めてうま味と香りを引き出す。ブシェ氏こだわりの「トマトをしっかり効かせる」味わいを守って仕上げる。
「オマールブルーのタルトレット」
タルト生地の上にカリフラワーのピュレとソテーを敷き、その上にオマールと黒トリュフを交互に並べ、トップにはマッシュルームのトゥルネ。ソースは輪郭として描かれたホウレンソウのピュレの緑と、オマールのビスクの赤、色のコントラストが美しい。

「フランス料理の長い歴史の中で、ドミニクは美しく繊細な盛り付けや、バターを抑えるなど、独自の取り組みをしてきました。しかし彼の料理は決してフュージョン的ではありません。根底に息づくのは伝統的なフランス料理で、オマールブルーのような伝統食材の存在意義や魅力が詰まったものになっています。彼が私に伝えてくれたように、私も後輩たちへ、伝統的なフランス料理とは何なのかを伝え残していかねばなりません」

伊藤 翔
1989年、秋田県生まれ。2008年、横浜のフランス料理店「霧笛楼」にてキャリアをスタート。15年、パリの「ドミニク・ブシェ」勤務。16年、帰国して「レ・コパン ドゥ ドミニク・ブシェ」のオープニングに携わり、翌年シェフに就任。22年より「ドミニク・ブシェ トーキョー」のシェフを務める。第6回パテ・クルート世界選手権アジア大会2020ファイナリスト。

ドミニク・ブシェ トーキョー
東京都中央区銀座1-5-6 銀座レンガ通り福神ビル2F
TEL 03-6264-4477
12:00〜15:30 18:00〜20:00
水休

オマールブルーの問い合わせはアルカン業務食材営業部へ
TEL 03-3664-5114

text: HanayoTanaka photo: Hiroyuki Takeda

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