欧州食材のパイオニア・アルカンからの提案vol.12 イベリコ豚の美味しい調理法 23年6月号


スペイン産イベリコ豚の中でも最上級ブランドと言われ、世界の一流シェフが愛用するホセリート。3月に開催したアルカンアカデミーでは、生ハムと精肉をテーマ食材として、「レストラン サンパウ」エグゼクティブシェフの赤木 渉さんが、その調理方法を教えてくれた。

スペイン原産の高級食材「イベリコ豚」。なかでも1868年創業、ホセリート社のイベリコ豚は、世界中の料理人から絶賛される逸品だ。同社の豚は、17万haもの広大な森林で放牧される。2年間飼育すると、体重は約200kgに。どんぐりが落ちるのは冬から春なので、豚は1〜3月に限定して屠殺されて生ハムや精肉になる。特に生ハムは、創業当時から受け継いだ伝統製法を今も大切に守り続けている。

ホセリート社のイベリコ豚は、広大な森林に放牧され、ドングリを食べて育つ。屠畜後、塩漬期間を経た肉を、ギフエロの冷涼で乾いた空気の中で1年間乾燥。その後、地下セラーで長い間熟成させて生ハムを作る。生ハムになりにくい希少部位も活用して精肉となる。

去る3月23日には、ホセリート社の生ハムと精肉をテーマ食材として、アルカンアカデミーが開かれた。東京・平河町にあるモダンスパニッシュ、「レストラン サンパウ」エグゼクティブシェフ赤木 渉さんが講師となって、同業の参加者へ向けて、調理法を教えてくれた。
「レストラン サンパウは、スペインのカタルーニャ地方にあった3つ星レストランの東京店。カルメ・ルスカイェーダ氏が率いるカタルーニャ本店は2018年に閉店してしまったため、彼女の料理を継承するのは、世界でも東京店だけです。今日ご紹介する2品は、お店で実際に提供している料理です」と赤木シェフは説明する。

では、まずは1品目の前菜「ハモン イベリコレゼルバのタルタ」から。

薄力粉や水、卵などを合わせた生地を揚げ、お椀型の器(タルタ フリータス)を作る。さらに、牛乳、レモンジュース、にがり、水を鍋に入れ、ゆっくり加熱して、凝固したマト(リコッタチーズ)をすくっていく。そうやっていくつかの〝パーツ〞を作った後、「タルタ フリータス」の中に詰めていく。ヘーゼルナッツや、スペイン産山羊乳チーズのソース、さらにマトのエスプーマを「タルタ フリータス」の上部まで絞る。その上にパルメザンチーズのジェルシートを置き、スモークパプリカパウダーを全面にふりかける。最後に常温に戻した生ハムのスライスを、バラの花のように置けば完成。気が遠くなるほどの手間暇がかかったこの小さな前菜を食べれば、サンパウが名店であり続ける理由が分かり、次の料理への期待感も高まる。

スライスした生ハムは常温に戻す。
油で熱したレードルの底の部分に、水・薄力粉・卵・塩を合わせた生地をつけて焼き付ける。それを190℃の油の中に戻し、生地が離れたら、色付くまで揚げる。
牛乳・レモンジュース・にがり・水を加熱してマトを作る。
「タルタ フリータス」の中に、いくつものパーツを入れる。
ハモン イベリコ レゼルバのタルタ
「タルタ フリータス」の中に、マトのペーストやエスプーマ、スペイン産山羊乳のチーズのソースなどを入れて、生ハムと合わせた前菜。今回使ったホセリート社の生ハム(ハモン イベリコ グランレゼルバ)は、ほんのり甘く、ほど良い塩味と独特のナッツ香が感じられる上品な味わい。「生ハムは常温に戻しておきましょう。融点が低いため口の中で溶けます」と赤木シェフ。

2品目は「ホセリート プルーマのアサド」。まずはソースから。深鍋に豚げんこつ、仔牛すね肉骨付き、豚足、ニンジン、タマネギ、リーキ、ニンニク、赤ワインを入れて5時間ほど煮出す。目の細かいシノワで漉したのち、さらにガーゼで漉して肉のカルド(出汁)をとる。エシャロットを軽く色づくまで炒め、ドライシェリー、シェリークリームを加え、デミグラスソースほどの濃度になるまで煮詰めたら、赤ワインソースの完成。

プルーマはフライパンで焼いたのち、シェリークリームを少量振りかけ、190度のオーブンに2〜4分ほど入れる。「プルーマは赤身が美味しい肉なので、レアに焼き上げるのがポイントです」と赤木シェフ。

プルーマは、歩留まり60~70%くらいまで掃除。
フライパンで肉を焼く。ポイントは「薄いので、強火で短時間」。
カットしたプルーマの断面全面に、赤ワインソースを塗る。

皿にパースニップのピュレを絞り、その上に帯状に薄切りにしてクルクルと巻いたリンゴを乗せ、適度な形にカットしたエアートリハスを散らす。プルーマは肩のカブリ部分で、スペイン語で「羽」を意味することもあり、羽型に作った繊細な飾りもあしらう。

パースニップのピュレなどで作ったペーストで、羽型の飾りを作る。
キャラメルやシナモンでコーティングされた、甘いつけ合わせ。
薄くスライスしたリンゴにメープルシロップベースのビネグレットを塗って巻く。

焼き上がったプルーマは1.5cm幅にカットして皿に並べ、温めておいたプルーマ用赤ワインソースを刷毛で断面全体に塗れば、「ホセリート プルーマのアサド」の出来上がり。プルーマは力強い味わいで、上質な脂と柔らかな肉質。まさに最上級と呼べるひと皿だった。

ホセリート プルーマのアサド
プルーマの力強い味わい、良質な肉質が実感できるひと皿。「これはサンパウの看板メニューとして、お客さまに提供し続けてきました。おそらく日本で一番、プルーマを消費するのがサンパウでしょう!」と赤木シェフ。プルーマを扱う中で、その肉質の柔らかさと、安定した品質に魅力を感じているという。「硬いと感じたことは一度もないので、掃除はそれほど神経質になってやらなくても大丈夫。脂もほど良くあり、本当に美味しい肉です」。

「スペインではなく日本で、これほど美味しいハモンとプルーマの料理を食べられるとは驚きだ」。赤木シェフの料理を食べたホセリート社のガルシア氏も、講義の参加者たちも、満面の笑みを浮かべた。

赤木 渉

マンダリン オリエンタル 東京「タパス モラキュラーバー」などで経験を積み、渡欧。フランス「ル・プティ・ニース」、ノルウェー「マーエモ」、デンマーク「AOC」「カドー」などで修業を積む。2019年1月より「レストラン サンパウ」エグゼクティブシェフを務める。

RESTAURANT SANT PAU
東京都千代田区平河町2-16-15 ザ・キタノホテル東京2階
TEL: 03-3511-2881
12:00~15:00(13:00LO)、18:00~22:00(19:30LO)
不定休

今回使用した食材

ホセリート グランレゼルバ(生ハム)

ホセリート プルーマ(冷凍精肉)

問い合わせ:アルカン業務食材営業部 TEL03-3664-5114

シェフ同士を繋ぎ、技や知識を伝える「アルカンアカデミー」とは?

アルカンアカデミーとは、東京本社1階のキッチン「ターブルドート」に一流のシェフを講師として招き、ひとつのテーマ食材を最大限に活かす調理法を学ぶ講習会のこと。参加者も料理人で、交流の場にもなっている。

ホセリートについて説明する同社のガルシア・ヘスス氏。
ガルシア氏と赤木シェフ。
デモンストレーションの様子。

text: Shoko Yamauchi photo: Ryo Yonekura

関連記事


SNSでフォローする