ロバート キャンベルの美味ごころ「ダイチノレストラン」(ソラノホテル) 22年8月号


日本文学研究者で食通として知られるロバート キャンベルさんが、心に残るとっておきのレストランを紹介する本連載。第7回目は、2020年6月、東京・立川駅近くに開業したソラノホテルの和食ダイニング「ダイチノレストラン」だ。立川や奥多摩で育つ季節野菜や川魚をふんだんに取り入れた料理には、「地元立川を活気づけたい」という想いが込められている。

地元の大地から届いた色とりどりのお宝が並ぶ大きなお皿。その日にもっとも美味しく頂ける幸(さち)を約二十種類厳選して、景色が見えるように立体的なフォーメーションを形成しているから、目が離せない。縁(へり)には、黒い土に見立てたパウダーが置いてある。都下唯一の醤油醸造元のお醤油にオリーブを漬け込み乾燥させたもので、この夕食が他でもない「ここ」で作られたことを訪れた者に強く印象づけている。凡(すべ)てが、美味しい。

シグニチャーのサラダは、真昆布・本枯節・干し貝柱の出汁のジュレをつけていただく。
天井が高く解放感があるダイチノレストランの店内。
店内にある野菜セラーには、その時期に旬を迎える15~20種類の野菜が並び、手作りの味噌も置かれている。
大地のサラダ -2022 秋-
地元立川の野菜をはじめとする約30種類の季節野菜を使用した、シグニチャーディッシュのサラダ。レンコンやサツマイモなどの根菜類はゆでて出汁に浸し、タモギ茸や大黒シメジなどのキノコは焼いてニンニク・エシャロット・ハーブなどで味付け。立川名産のウド、立川あみちゃんファームのエディブルフラワー、紅芯大根、トマト、ハーブ類も入る。「野菜の下にある、数百日間寝かせたメークインにお茶の炭を混ぜた黒いピュレや、醤油でマリネした黒オリーブのパウダーは、大地の土を表現しています」と竹田総料理長。見た目も味わいもバラエティに富む楽しいひと皿だ。

最近まで、立川市とはまるで縁がなかった。状況が変わったのは二〇一七年春。職場を都心の東京大学から国営昭和記念公園の少し先に位置する国文学研究資料館という研究施設に移したのがきっかけであった。新宿からJR中央線の中央特快に乗れば二七分で着けることを知った。思ったより、はるかに近い。七〇年代まで米軍基地があり、なんとはなしだが、立川に影の深いイメージを持っていた。実際、ベルリンに住んでいる小説家で立川高校の卒業生でおられる多和田葉子さんに話を聞くと、そのイメージには根拠があった。高校時代、彼女は国立の自宅から自転車で通学するが、立川市との「国境」にさしかかり越えてゆくと、とにかく一度も降りずまっすぐに学校まで漕ぎ続けなさいと、家族から言われたというのである。一九七〇年代後半の話である。

しかし、わたくしが降り立った立川駅周辺は、まるで近未来都市の入口のようであり、光に満ちた別世界になっていた。立川駅北口を降り、てかてか歩いていくと、左側にはこんもりと生い茂った昭和記念公園の木々がそびえ立ち、右側には短冊形で、柵に囲まれた約四万平米ある広大な更地が広がっていた。柵の中を覗くと山羊が一〇頭ほど放たれていて、幸せそうに雑草を食んでいる。

「柔豚」のロースを、炭で火入れした後、藁の火と煙で燻す。
肉料理 立川産「柔豚」
立川市内の古川畜産から仕入れた三元豚「柔豚」を使ったひと皿。福原料理長が「配合飼料のほかに、畜産場の近くにあるパン工場で余ったパンを食べて育つ豚です。食品ロスに貢献していて、サステナブルですよね」と教えてくれた。今回は赤く柔らかな肉質のロースを、炭でじっくりと焼き固めて、藁の香りをまとわせてスライス。しっとりと焼いた豚肉、まつたけ、茄子の上に、豚出汁に吉野葛でとろみをつけた餡をかけて、柚子をのせた。最後にかけたのは、八丁味噌とポルト酒を煮つめたソース。

三年後の二〇二〇年四月。ここにはグリーンスプリングスというきわめてユニークな複合施設が開業する。地権者である株式会社立飛ホールディングスが独自に開発したもので、たくさんの木々の間を水が流れ、コンサートホール、美術館、よそでは中々見かけないこだわりの商店と飲食店の中に、ソラノホテルというホテルが建っている。温泉もスパもあって、温泉水を使ったルーフトップのインフィニティプールから真ん前の昭和記念公園を臨み、晴れた日の夕暮れ時には真っ赤に染まった富士山の勇姿が眺められるという絶好の立地にある。

このホテルを手がけるのは、戦前に立川で創業し、現在も立川を拠点に不動産業や建設業を中心とした事業を展開する立飛ホールディングス。ホテルの内装は、フランス人デザイナーのグエナエル・ニコラさんが担当。メインロビーもレストランもナチュラルで心地よいトーンで統一されている。

二階にあるダイチノレストランは、季節折々の、多摩地区で育った滋味豊かな野菜とお肉と魚を提供するメインダイニングである。和食をベースに、フレンチキュイジーヌを優しく力強く融合させたクロスオーバー料理が目玉。開業以降、わたくしはふたたび軸足を都心に戻したのだが、武蔵野平野で育まれた食材と技術と心意気を味わいに、それからも何度も中央線に乗り、西へと向かうのである。食後、ルーフトップバーで飲むカクテルには格別の味わいがある。

この日使った奥多摩の山女は体長約20cm。
アラも無駄にせず、出汁をとってごはんを炊く際に活用。
那須で作るコシヒカリ「ソラノ米」。「米にうま味があり、食感がたっています」と福原料理長。
ご飯 奥多摩の山女
奥多摩で養殖した山女に串を打ち、備長炭で皮目は香ばしく、身はふっくらと焼き上げる。サフランと山女のアラでとった出汁で炊いたごはんと、焼いた山女と合わせたら、奥多摩のワサビ農家、保科正広さんのワサビと、大根おろし、ニンジンなどをトッピング。使用した米は、那須で作っているコシヒカリ「ソラノ米」。毎年2回、田植えと稲刈りは、レストランスタッフ自ら足を運んで手伝う。ちなみに、このソラノ米の麹と大豆で仕込んだ味噌も作り、ホテルで熟成させている。
デザート 和栗のモンブラン
立川産の生の栗から作るモンブラン。「栗のペーストは、既製品を使わず手作りしています。また渋皮も活用します。底にはメレンゲではなく、キャラメリゼしたヘーゼルナッツや、ダークチョコを纏わせたサブレフレークを敷きました」と竹田総料理長。栗の渋皮煮のエスプーマを絞り、ほうじ茶のチュイルをはりつけた。ソースは数種類のベリーのコンフィチュール。さらに添えたのは酒粕のアイス。ホテルが佐久の花酒造に依頼して作るオリジナルラベル日本酒「立飛のそら」の酒粕を使用している。

右/竹田光良(ソラノホテル総料理長)
大阪あべの辻調理師専門学校を卒業後、1996年からフランス料理の道へ。街の老舗フランス料理店やカジュアルフレンチから、ザ・リッツカールトン東京「Azure 45」やザ・ウィンザー洞爺リゾート&スパ「ギリガンズアイランド」など高級ホテルまでを幅広く経験。2018年6月からソラノホテル総料理長を務める。

左/福原義昭(ダイチノレストラン料理長)
1981年生まれ。高校卒業後、 2002年より、京都の老舗料亭に入り、10年間に渡って腕を磨く。その後も、北海道にある同料亭の系列店で副料理長を務めた。そして2018年、ソラノホテル開業準備室に入り、ダイチノレストラン料理長に就任。地元の生産者を巡り、その想いを料理に込める。

DAICHINO RESTAURANT(SORANO HOTEL)
東京都立川市緑町3-1 W1 2階
TEL 050-3196-9027(9:00~17:00)
朝食 7:00~10:00  昼食 11:00~14:00LO 夕食 17:00~21:00LO
※ホテル休館日とその翌日は営業時間の変更あり、詳しくは公式HPへ
https://soranohotel.com/restaurant/daichi/

ロバート キャンベル
日本文学研究者、早稲田大学特命教授。専門は近世・近代日本文学。ニューヨーク市に生まれ、1985年に九州大学文学部研究生として来日した。同学部専任講師や国文学研究資料館助教授を経て、2000年に東京大学大学院総合文化研究科助教授、2007年から同研究科教授。17年、国文学研究資料館館長を経て現職。テレビでのMCやニュースコメンテーター、新聞や雑誌への寄稿、書評、ラジオ番組の企画出演など、活動は多岐に渡る。

text: Robert Campbell photo: Gaku Yamaya

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