アンドゥイエットは、香辛料に漬け込んだ豚の内臓を豚の腸に詰めたシャルキュトリ。モツならではの臭みがあり、フランスでも好みがわかれる料理として知られる。多様なレシピがあるが、日本で一般的なのは「田舎風」と呼ばれる、挽肉のもの。しかし笹倉大助さんは「フランスで食べていた味だから」と、日本では珍しい「トロワ風」にこだわっている。中身を帯状にカットし、束ねてから腸に詰めるこのレシピは、圧倒的な手間と技術を要するが、笹倉さんは仕込みに3~7日をかけ、可能な限り本場の味を再現している。
豚モツを食べない関西でこそフランスの味を紹介したい
まず初日は下処理。主材料の消化器系モツは丁寧に掃除をして、胃はクールブイヨンで下ゆでする。水気を切り、翌日はカット。互い違いに切込みを入れてゆき、ひと繋ぎの帯状に形作る。これをぐるぐる巻いて輪にしたものをキャトルエピス、エシャロット、ワインビネガーなどに漬け込み、3日目は成型。輪の一カ所を糸でくくり、糸を引っ張りながら腸に通す。破れやすい直腸にギッシリと中身を詰める作業は、丁寧に的確に進めねばならない。
「サイドは結ばないのが本式です」と、最後に両端を中に折り込み、完成となる。火入れも一苦労だ。「ミルポワを入れたらフランスの味と違ったので」と、試行錯誤した結果、前回の煮汁を少し足した水を用意。これを80度に熱し、ゆでること実に約8時間。破裂させないよう、沸騰させないよう、じっくり煮てゆく。その後グリルパンで上下をこんがり焼き、ようやくテーブルに並ぶ。全面焼かないのは、パリッとした焼き面とそれ以外の歯ごたえのコントラストが楽しめるように、との工夫だ。付け合わせは「両方好きだから」と、フレンチフライ&マッシュポテト。ビストロらしいひと皿となった。
フランスで4年を過ごし、現地そのままの日常的なビストロを開業したいと考えていた笹倉さん。東京のビストロを辞して、より本場の味を極めるためにこの店をオープンさせた。肉料理はすべて「フランスの味」を徹底的に追及している。なかでもアンドゥイエットは本場で学んだ感性と技術が思いきり発揮できる一品だ。ところが牛肉文化が根強く、豚モツを食べる習慣がない関西では、仕入先がほとんどない。探した結果、神戸市内で週2日だけ内臓が入手できることがわかった。これが高品質で、需要が少ないからこそ新鮮な品がすぐ届く。意外な利点に恵まれた。
「鮮度がいいので臭みは少ないですが、それでも苦手な方はいます。ご注文の際に必ず確認します」日本風のいわゆる〝食べやすい〟アレンジを施さず、モツらしさがより強調されるトロワ風で、豚モツのクセをも楽しんでほしい。フランスの感動を文化ごと伝えたい。シェフの思いが詰まったひと皿だ。
シェ シロ CHEZ CHILO
兵庫県神戸市中央区
琴ノ緒町5-4-19 TMEビル 1F
078-252-2121
● 火~土18:00~25:00(23:00LO)、 日12:00~17:30(16:00LO)
● 月休
●15席
text 藤田アキ photo 畑中勝如
本記事は雑誌料理王国2015年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2015年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。