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管理栄養士が教える!病気や気になる症状のある人のための食事の作り方


「糖尿病や高血圧症、腎臓病などの持病があるから、外食は難しい」と諦めていたのは、もはや昔の話。最近は、「病気でも家族とともに、一流レストランの味を楽しみたい」というゲストが増えている。
これに伴い、医師とシェフが協働して食の研究や開発も進んでいる。日本人に多い生活習慣病。不安を抱えるゲストに、いかに負担なく食事を楽しんでもらえるか──。管理栄養士の立場から落合由美先生にアドバイスをもらった。

制限されているものはできる限り少なくしてそれを感じさせない調理法を工夫。 ゲストの体に合った食材を選ぶことも大切です。

鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科准教授 落合由美先生

これからの料理人には病気や栄養に対する正しい知識が求められる


「高血圧の人には塩分の少ない食事を」「糖尿病の場合は高血糖を招かないように食事を工夫すべき」などは、もはや常識だろう。しかし、レストランでこうした人たちを迎える場合は、「病気や栄養について、もう少しトータルに捉える必要があります」と落合由美先生は言う。

 たとえば高血圧の場合、だしの旨味や酸味などを活用して塩分を抑える努力をしている料理人は多く、中にはフランス料理のコースをグラム以下の塩で仕上げるシェフもいる。高血圧の食事の場合、塩分の目安は、1日6グラムだから、このコースを平らげても、あと2食の塩分を極端に減らす必要はないわけだ。「少ない塩でコース料理を仕上げるテクニックに加え、野菜や海草類、豆類に含まれるカリウムには、ナトリウムを排泄する作用があることを知っていれば、よりヘルシーなコースを完成させることができるのではないでしょうか」と落合先生。「高血圧の人は、血管を丈夫にする良質なタンパク質や、魚介などに含まれるタウリンを」という知識を持っていれば、食材選びにも反映させることができ、ゲストとの会話も弾む。

 糖尿病の場合も同様で、高血糖とならないための食材選びに徹し「、低糖質メニュー」を取り入れるレストランも増えているが、こうした店やシェフが社会に定着するには「人間の体や病気に対する総合的な理解が不可欠」と指摘する。

 単にコースから米やパン、デザート類などの炭水化物を抜き、肉などのタンパク質を増やすだけでは、タンパク質の摂りすぎや、肉に含まれる脂や調味による塩分の過剰摂取が心配される。糖尿病で、かつ高血圧を患っている人は、糖尿病患者全体の40~60パーセントを占めるため、それらに対する配慮も欠かせないのである。

「また、炭水化物を外すと3大栄養素のバランスが大きく崩れるのも気になります。炭水化物を除くだけでなく、血糖値を急激に上げない工夫として、主食量を守った上で、たとえば炭水化物(ごはんやパン)と食物繊維(野菜や海藻)などを組み合わせるようなことにも目を向けてほしいと思います」

 今後、ゲストの要求が医療や健康へ向けられると予測して、すでに医師と組んで仕事を始めているシェフも少なくない。「食事制限」をも楽しませる「医療ガストロノミー」が、一流シェフの条件に加えられる日は遠くないだろう。

病気を抱える人にとって、毎日の食事制限は決して楽ではなく、優雅で落ち着いた雰囲気の中での食事が息抜きや励みになることも。そのための努力をシェフたちも惜しまない。

病気や気になる症状のある人のための食事の作り方

糖尿病の食事

高血糖を招かない食材を選びつつ適正カロリーに仕上げる

糖尿病とは、すい臓から分泌されるインスリンというブドウ糖をエネルギーに変えるホルモンの作用不足、分泌の不足や遅延などによって高血糖が生じる病気。問題は高血糖が続くことで、これを放っておくと、目や腎臓の障害、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなる。

食事の条件と制限
● エネルギー摂取を制限する。
● 適正なエネルギー摂取量は次の計算式で算出される。
標準体重(kg)×身体活動量
*標準体重=身長(m)×身長(m)×22
*身体活動量の目安
– デスクワーク中心、主婦など 25~30kcal/kg
– 立ち仕事が多い 30~35kcal/kg
– 力仕事が多い 35~kcal/kg
● 算出された1日当たりのエネルギーの中でバランスよく摂取する。
● 塩分を控える。高血圧合併の場合は6g、そうでない人は、男性9g未満、女性7.5g未満を目安に。
● 食物繊維を十分に摂る。血糖値の上昇やコレステロール値の上昇を防ぐ働きのある食物繊維は、毎日20~25gを目標に摂取する。

調理のひと工夫
● 生クリームやオリーブオイル、ゴマ油などは香り付け程度とし、野菜のピュレ、ヨーグルト、エバミルクなどでコクや滑らかさを出す。
● 油や塩分を控え、酸味や香辛料、香味野菜などの風味で、たっぷり野菜を摂る工夫をする。
● 揚げ物の衣は薄くして吸油率を下げたり、焼き物と組み合わせて揚げ物の量を減らしたりする。
● デザートのゼリーやコンポートには、低カロリーやノンカロリーの甘味料を利用。牛乳や生クリームの代わりにヨーグルトや低脂肪乳などを用いる。
(塩分については高血圧参照)

高血圧の食事

だしの旨味、酸味、香ばしさなど塩味をカバーするものはたくさんある

 日本の高血圧患者は約4千万人と推定され、今や3人に1人が罹患していると言われている。食生活の乱れや加齢がおもな原因で、高血圧の人は脳卒中、心疾患、慢性腎臓病になりやすいとされる。

ソースを肉や魚などに直接かけず、皿の上に置くように盛り付けるのは、美しいだけでなく、減塩などにもひと役買っていると言える。

食事の条件と制限
● 塩分を1日6g未満に。3食、平均して摂るように心掛け、漬け物、佃煮、干物、塩分の多い汁物などは摂りすぎに注意。
● 抗凝血薬のワルファリンカリウムを服用している人は、納豆、青汁、クロレラは摂らないこと。ホウレンソウ、ブロッコリー、明日葉、モロヘイヤなどは少量にとどめる。降圧剤のカルシウム拮抗薬を服用している場合は、グレープフルーツやグレープフルーツジュースを摂取してはいけない。
● 肥満の場合は適正体重に近づくように、摂取カロリーを制限する。動物性脂肪も控え目に。

調理のひと工夫
● コンブ、鰹節、煮干し、干しシイタケなど、天然の旨味を活かす。
● ゴマ、ピーナツ、ほどよい焦げ目で香ばしさを出す。
● 酢、レモン、ユズなどの酸味や香りを利用。
● 素材に塩味を付けたい場合は、漬け込むのではなく、仕上げにかけるなどして、表面に味を付ける。
● ソースは料理とは別の皿に入れて提供する。付けて食べるほうが塩味を感じ、少量でも満足感がある。
● 塩分はメインの肉や魚に重点的に使用し、味にメリハリを。

減塩を望むゲストのために、自然のだしの旨味を活用するシェフも増えている。

腎臓病の食事

塩やタンパク質、カリウムなどは抑えつつカロリーは高めに設定

 腎臓のおもな働きとしては、体内の水分量や体液の成分を調整して一定に保つこと、血液中の不要なものを尿として体外に排泄することなどが挙げられる。この働きが低下すると浮腫んだり、体の中に老廃物がたまったりして、深刻な状態を引き起こすことにもなりかねない。

一般的に「野菜は体に良い」と言われているが、腎臓病を患うゲストの中には、カリウムを制限されている人もいるので、その際は、野菜たっぷりのメニューというわけにはいかない。

食事の条件と制限
腎臓病の場合、病気の進行状態によって食事の条件や制限が異なる。病期別に、こと細かに決められた食事療法中、共通点は減塩ということになる。
● 塩分を 1日3~8gにする(病期によって異なる)。
● 良質なタンパク質を病期に応じた量、摂取する。タンパク質は血液や筋肉のもととなる栄養素で、それが作られる際に出る老廃物を排泄するのが腎臓の役割。だが、腎臓の機能が低下するとそれを十分に排泄できなくなってしまうので、腎臓の処理能力に合わせてタンパク質摂取を抑える必要がある。
● 慢性腎不全や透析を受けている人など、カリウム制限が必要な場合はカリウムを制限する。カリウムの排泄を担っているのも腎臓。排泄が不十分で血中のカリウム濃度が上がると心筋の機能が低下するため、心停止を起こす場合がある。カリウム制限のある腎臓病の場合は、海藻を禁止したり、野菜は健康な人の2分の 1くらいにする必要がある。
● エネルギー不足にならないように炭水化物や油脂類を十分に摂る。

調理のひと工夫
● カリウム制限のある場合、小さく切って水にさらすと流出し、ゆでるとゆで汁に溶け出るというカリウムの特徴を利用する。たとえば、生野菜はせん切りやみじん切りにして使い、煮物にするには一度ゆでこぼしてから、だしを加えて煮る。果物も煮て、煮汁は捨てる。缶詰の場合もシロップは捨てる。こうすることで3~4割のカリウムがカットできる。
● 調理には油脂類を利用して、カロリー摂取に努めるが、食べやすくするために仕上げはあぶらっこくならないようにする。たとえば、揚げ煮にしたり、マリネしたり、マヨネーズにヨーグルトやレモンの酸味を加えてさっぱりした味わいにしたりする。ゴマペーストや生クリームなどを加えてもよい。
(塩分については高血圧参照)

鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科准教授
落合由美先生 Yumi Ochiai
1992年、大妻女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業。国立がん研究センター東病院・栄養管理室長などを経て、2015年より現職。著書に『がん患者さんのための国がん東病院レシピ』(共著、法研)など。


上村久留美=取材、文

本記事は雑誌料理王国第257号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第257号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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