食の未来が見えるウェブマガジン

フランス料理と中国料理の共通点を探る。「ナベノイズム」で蘇った四川の秘技


前回の記事はこちら

「中国とフランスの融合をテーマにしたら、いつもの僕の料理とは全然違う料理にたどり着きました」

井桁さんの店でのびっくり体験から1週間。渡辺さんはこう言うと、「融合」について説明し、調理過程から見せてくれた。

中国料理の技を取り入れたら新しいスタイルが見えた

中国料理とフランス料理の共通点を探りながら、井桁さんの技を活かしつつ、独自のフランス料理に仕上げる――。渡辺さんは、こんなハイレベルなテーマを自分に課した。

まず、井桁さんがメイン食材とした牛肉から、四川料理の定番の青椒肉絲を連想した。青椒肉絲の食材は牛肉とカキとピーマン。そういえば、牛肉とカキの組み合わせは、フランス料理にもあった。「これは使えそうだ」。

ハーブやスパイスの活用という点では、フランス料理のベアルネーズソースの構成からヒントを得た。また、冷たい肉料理にするなら、マヨネーズで食べるアシェットアングレーズ風にしてもおいしいし、これに辛味を潜ませる方法もある――。

こんなふうに、渡辺さんはイメージをふくらませていったと言う。

また、井桁さんから伝授されたテクニックを使って、高温の油でピーマンの香りを引き出した。香味オイルについては、「フランス料理に使うのだから主張しすぎる味ではいけない」と、山椒が余韻として香るように考えられている。さすがだ。「豆板醤も、井桁さんを見習って、まず加熱して香りを出し、そこにこの自家製の香草オイルを加えて味を引き締めました」

完成した渡辺さんの料理に、「水煮牛肉」の面影はない。それなのに、中華の知恵が見事に活かされている。「今後は、もっといろんなスパイス使いに挑戦してみたいし、たとえば、オレンジで煮込む料理に陳皮を使ってみるのも面白いかもしれない。油で野菜の香りを立たせる方法については、いろんな野菜で試し、自分の料理に取り入れてみたいです」

中国料理のこの華麗な「変身」は、井桁さんにとっても有意義な体験になったことだろう。

旨いものに垣根はない。そして、つねに旨いものをめざして進化し続ける料理人の感性にも垣根はない。そんなことを改めて見せつけてくれた渡辺さんと井桁さんの、未来につながるトライアルに、乾杯!

四川料理とフランス料理の融合

“フランス料理にも中国料理との共通点があることを発見し、面白い料理になったと思います。”

しっとりと仕上げた牛ヒレ肉に、少し辛味を効かせたべビーオイスターと、豆板醤を使ったソースがよいアクセントに。最後に口の中に残る山椒の香りがさわやかなひと皿。ポワンタージュで表現したソースは、古巣へのオマージュと感謝。「久しぶりにやってしまいました(笑)」。

「ナベノイズム」で蘇った四川の秘技

「井桁さんに教えていただいたことは全部活かしながら、そこに自分の表現も取り入れたいと思ったら、かなりハードルの高い宿題になってしまいました」。しかし、渡辺さんはわずか1週間でそれをやってのけた。

伝統的な素材の組み合わせを活かす

井桁流

トウガラシや豆板醤をはじめとする調味料のほか、牛肉、チシャトウ、葉ニンニクなどの食材についても伝統的な組み合わせに則っている。

渡辺流

青椒肉絲(チンジャオロース)からヒントを得て、牛肉、ベビーオイスター、ピーマンを用意。ソラマメについては、「豆板醤の原材料ということで加えてみました」。

旨味のある香味オイルの活用

井桁流

数多くのスパイスと野菜を使った香味オイルは、口に含んだ瞬間にたっぷりの旨味が感じられる。どんな料理にも合うようなクセのない味わい。

渡辺流

山椒オイルの材料は太白ゴマ油500g、黒粒コショウ20g、花山椒20g、コリアンダー10g、木の芽2g、ローリエ・八角・ナツメグホール各1個。

辛味を効果的に使う

井桁流

特にトウガラシについては、そのまま使うことはもちろん、発酵させたり、こがしたり、炒めたりして、辛さにバリエーションを出す。

渡辺流

青椒肉絲(チンジャオロース)からヒントを得て、牛肉、ベビーオイスター、ピーマンを用意。ソラマメについては、「豆板醤の原材料ということで加えてみました」。

高温で素材の香りを立たせる

井桁流

鍋の中の油の温度を最大限に上げる。野菜と同時にスープを加えて、高熱でスープを気化させるような勢いで瞬時に炒める。

渡辺流

あらかじめ野菜を刻んでおき、上から熱々に熱した油をかける。香りが立つと同時に野菜の色も鮮やかに。野菜に付いた油はよくふき取る。

牛肉を香りよく、しっとり仕上げる

井桁流

卵や紹興酒、水溶き片栗粉などによる合理的なコーティングによって、薄切り肉をやわらかく仕上げた。香りは香味オイルを使ってその場で付けた。

渡辺流

井桁さんは牛モモの薄切りを使ったが、ヒレ肉でやわらかさを出したかったので、肉がパサつかないように、塊のまま真空パックして1時間ほど64℃の湯で加熱。香り付けについては、真空する前に香味オイルでマリネした。

Yoshiki Igeta
1971年、千葉県生まれ。「四川料理 岷江」「知味斎」を経て、2000年、中国へ。2年間修業し、帰国後3年半の準備期間を経て、代々木上原の「中國菜・老四川 飄香」で独立(12年に麻布十番へ移転)。10年、銀座三越店をオープン。

Yuichiro Watanabe
1967年、千葉県生まれ。91年に渡仏し、星付きレストランで修業。帰国後、「タイユバン・ロブション カフェフランセ」のシェフ、シャトーレストラン「ジョエル・ロブション」 のエグゼクティブ・シェフを務め、2016年に独立。

上村久留美=取材、文  星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国273号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は273号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする