「ナベノ-イズム」渡辺雄一郎シェフ。中国・四川の技に学ぶ【第三弾】。フランス料理と中国料理の共通点を探る。


進化する料理人たちはジャンルを越えて刺激し合う。独自の文化とスタイルを貫く中国料理にも進化の波が押し寄せ、表に出なかった技や表現に注目が集まる。そんな中国料理にフランス料理がであったら──。フレンチ・渡辺シェフは『フランス料理では、辛味を強調することはありませんが、使い方次第では味が引き締まるので、中国料理の「辛味使い」は知りたいことのひとつです。』ふたりのトップシェフの挑戦をレポート【第三弾】、渡辺シェフによる中国料理とフレンチが融合された一皿です。

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「ナベノイズム」で蘇った四川の秘技
「中国とフランスの融合をテーマにしたら、いつもの僕の料理とは全然違う料理にたどり着きました」。
井桁さんの店でのびっくり体験から1週間。渡辺さんはこう言うと、「融合」について説明し、調理過程から見せてくれた。

中国料理の技を取り入れたら新しいスタイルが見えた

中国料理とフランス料理の共通点を探りながら、井桁さんの技を活かしつつ、独自のフランス料理に仕上げる――。渡辺さんは、こんなハイレベルなテーマを自分に課した。

まず、井桁さんがメイン食材とした牛肉から、四川料理の定番の青椒肉絲を連想した。青椒肉絲の食材は牛肉とカキとピーマン。そういえば、牛肉とカキの組み合わせは、フランス料理にもあった。「これは使えそうだ」。
ハーブやスパイスの活用という点では、フランス料理のベアルネーズソースの構成からヒントを得た。また、冷たい肉料理にするなら、マヨネーズで食べるアシェットアングレーズ風にしてもおいしいし、これに辛味を潜ませる方法もある――。
こんなふうに、渡辺さんはイメージをふくらませていったと言う。

また、井桁さんから伝授されたテクニックを使って、高温の油でピーマンの香りを引き出した。香味オイルについては、「フランス料理に使うのだから主張しすぎる味ではいけない」と、山椒が余韻として香るように考えられている。さすがだ。「豆板醤も、井桁さんを見習って、まず加熱して香りを出し、そこにこの自家製の香草オイルを加えて味を引き締めました」

完成した渡辺さんの料理に、「水煮牛肉」の面影はない。それなのに、中華の知恵が見事に活かされている。「今後は、もっといろんなスパイス使いに挑戦してみたいし、たとえば、オレンジで煮込む料理に陳皮を使ってみるのも面白いかもしれない。油で野菜の香りを立たせる方法については、いろんな野菜で試し、自分の料理に取り入れてみたいです」。
中国料理のこの華麗な「変身」は、井桁さんにとっても有意義な体験になったことだろう。

旨いものに垣根はない。そして、つねに旨いものをめざして進化し続ける料理人の感性にも垣根はない。そんなことを改めて見せつけてくれた渡辺さんと井桁さんの、未来につながるトライアルに、乾杯!

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