喫茶店で「ホット」といえば、ハンドドリップのコーヒーが出てきた時代もあったけれど、いまやレストランでだって、食後にイタリア人顔負けのおいしいエスプレッソが飲める時代。エスプレッソって何?から始まって、あなたが日ごろ抱いてたエスプレッソの「?」が、みるみるうちに解決していきます。
A. エスプレッソは英語でもそのまま使われているが、元来はイタリア語。名詞であり形容詞でもあって、特急列車や速達便など「速いもの」を意味する。コーヒーのエスプレッソも30秒以内にスピーディーに抽出するところからその名がついた。注文を受けてすぐに提供でき、クイッと一気に飲み干すところもエスプレッソの名にふさわしい。イタリアではカッフェ(コーヒー)=エスプレッソなので、バールなどでカッフェと言ってもエスプレッソと言っても、出てくるものは同じ。イタリア人はほとんどカッフェと言っている。ちなみに、カプチーノの本来の意味は「カプチン修道会士」で、彼らの象徴でもある薄茶の修道服の色に似ているところからつけられた。
A.諸説あるが、1901年にナポリのルイージ・ベッツェーラが、蒸気圧を利用して1回に1杯ずつコーヒーを抽出するマシンを開発したといわれている。その後、あまたの人の手をへて改良され、今のマシンにつながっている。エスプレッソの歴史は100年というわけで、意外や新しい。
A. 他のヨーロッパ諸国と同じで、コーヒー粉を煮出して上澄みを飲むトルココーヒーから始まり→煮出したものを漉す→布袋に入れて煮出す→湯にコーヒー粉を入れて漉す→コーヒー粉に湯を注いで漉す(ドリップコーヒー)などの変遷を経てきた。エスプレッソが登場するや、一気にエスプレッソ色に染まってしまったということになる。
A. 味も違うし、飲まれ方も違う。まずコーヒー豆。イタリアではアラビカ種7〜8割にロブスタ種2〜3割をブレンドしているのが普通だが、シアトル系はアラビカ種100%がほとんど(イタリアでもアラビカ種100%が登場し始めたが、まだ少数派)。豆のローストもイタリアが中深炒りに対し、シアトル系は深炒り。シアトル系はそもそもマイルドなカフェラッテに照準をおいたメニュー作りから始まったため、コーヒー香が隠れないようにと炒りを深くしている。イタリアはアレンジよりも基本派で、エスプレッソとその他のコーヒードリンクのオーダー比はほぼ9対1とエスプレッソが主流。片やシアトル系は誕生の経緯からカフェラッテ、カプチーノ等ミルク入りが主体で、比率はエスプレッソ1に対しその他が9と数字は逆転している。違いはまだまだ。容器もイタリアのバールでは紙コップで出すことなどあり得ないが、シアトル系はエスプレッソは陶器でもミルク入りエスプレッソはほとんどが紙コップ。さらに、イタリアでは自家焙煎しているバールはまれだが、シアトル系は中小規模店では自家焙煎が多い。
A. 発祥の国だけあってイタリア製マシンのシェアが俄然高い。温度設定機能の有無、ボイラーの数、スチームの強さなど、性能的にもイタリア製のマシンは群を抜いている。イタリア以外ではスイス、ドイツ、フランス、スペイン、スウェーデン、日本製などがある。
A. モカ(moka)は真ん中がくびれた八角柱状ポットスタイルのコーヒーメーカー。細かく挽いたコーヒー豆を気圧を高めて短時間で抽出する原理はエスプレッソと同じで、簡易式とはいえ立派なエスプレッソマシン。イタリアではほとんどの家庭に普及していて、コーヒーといえばドリップではなくモカである。本格マシンが9気圧30秒以内の抽出に対し、モカは1・2気圧程度で1分近く。クレマはできず、液が濁りやすくて風味は劣るものの、手軽にそこそこにおいしいエスプレッソが楽しめる。器具は3段構造で、①下段に沸騰湯、中段にコーヒー粉を入れ、上段は空のまま火にかける↓②下段の気圧が高まり、湯は中段から下がっている細い管を通って一気に上昇、中段の粉に染み渡る↓③コーヒーのエキスが染み出た湯が上段底面から上段内に突き出ている細い管を通って一気に上昇↓④管の先端からコーヒー液があふれて上段内にたまる、という仕掛け。中段の上下は小さな穴が一面に空いた蓋状になっているので粉があふれることはない。
A. コーヒー豆のおいしい成分が、ベストな状態で最大限に出るのが9気圧。これより低いとうま味が出切らず、いやな苦味やきつい酸味が出る。逆に高くなると、焦げ臭、強い苦味やえぐみなどの雑味が混じる。
A. まず、カップだけでなく抽出用のホルダー&フィルターを熱湯に浸けるなどして温めておく。抽出時の温度もおいしいエスプレッソのカギを握るポイントで、これだけで随分違う。次に25〜30裨分のエスプレッソが20〜30秒かかって抽出されるかどうかをチェック。20秒以下の場合はコーヒー豆の挽き方をより細かくするか、粉の量をやや多めにして抽出に時間がかかるように工夫し(それだけおいしいエキスが出る)、逆に30秒以上の場合は豆の挽きを粗くしたり、粉の量を少なめにするなどして抽出時間を短縮。20〜30秒のジャストポイントを探る。
A. 店ごとの個性はさておいて、一般論でいえば地方性がある。それも地域ごとにバラバラではなく、南から北に向かってヘビー→ライトのグラデーションをなしている。たとえば南部のナポリは深炒りで苦め、量少なめ。それより北のローマでは、中深炒りでほどよい苦味。もっと北上してフィレンツェに行くと、炒りはやや浅くなり、味はマイルド。北部のミラノはさらに炒りが浅くなって、酸味、甘味が感じられるほどに。またコーヒー豆自体、ロブスタ種のブレンド比率が南は高くて北は低いという傾向があり、それが南部=ヘビー、北部=ライトという味にも影響している。
A. 小さいのに厚みがあって重く、底がすぼまっているのがエスプレッソカップ。〝ぽってり〞の表現がぴったりの容姿である。理由はいくつかある。まず、注がれるエスプレッソが25〜30裨(大さじでわずかに2杯弱!)と少量なので冷めやすい。温度の変化で味も変わりやすいので、冷めにくいよう厚く作られた。また、底をすぼめて厚手にすれば(つまり上げ底)、液体に高さができて30裨でも見栄えがする。さらに側面がなだらかなカーブを描いていると、クレマにタイガースキン(ヘーゼルナッツ色の虎の毛皮状まだら模様)が出やすいという利点もある。
A. クレマはコーヒー豆の品種、焙煎状態、淹れ方等によって出方が違う。①まず、アラビカ種よりロブスタ種のほうがクレマが厚く出る。②焙煎して時間のたった豆より新鮮なもの、また挽きたてのほうがクレマのキメが細かく持続時間が長い。③全自動マシンやモカのように抽出時の気圧が低かったり抽出時間が長かったりすると、クレマは色が淡く、厚みも少なくこわれやすい。④逆に気圧が高いと黒みが強くなる。結論的に、クレマはないよりあるほうがよい。クレマがあるとコーヒー液の蓋代わりとなって香りを逃がさず、また冷めにくくなる。とろんとして口当たりもいい。それにカプチーノなどにしたとき、色のコントラストが美しく出る。
A. エスプレッソとして提供する場合は作り直すかそのまま出すしかないが、カプチーノならエスプレッソにカカオパウダーを2〜3ふりしてミルクを注ぐと、白と茶のコントラストがきれいに出るという効果あり。
A. エスプレッソが苦いので、砂糖を加えて「苦甘」にしたほうがよりおいしいから(つまりチョコレートと同じ)と推察される。食事を甘いドルチェ(デザート)で締めることにも通じる考えであろう。
A. アレンジドリンクに使われる材料は牛乳が圧倒的に多く、生クリームの出番は少ない。ホイップクリームを浮かべたウインナーコーヒー風「エスプレッソ・コン・パンナ」がスタンダードとしてある程度。油脂分の多いこってりしたくどさが、エスプレッソの風味を壊すと考えるからだそう。
A. 脂肪分のある牛乳は胃にもたれるから。料理で満杯になった胃袋に牛乳たっぷりの飲み物を入れたら膨満感がさらに増し、胃がむかつくと多くのイタリア人は感じる。食後は苦味のきいた少しのエスプレッソで胃と口の中をスッキリと締める(消化・消臭)――これがイタリア人のコーヒー観。もちろん食前も同じで、食事時間が近づいてきたらカプチーノもカフェラッテも飲まない。食後にカプチーノを飲む人は、料理でお腹が一杯になっていない証拠かも!
A. 日本にコーヒー専門店旋風が吹き荒れた70〜80年代、カプチーノの泡には必ずシナモンパウダーがふられ、脇にはシナモンスティックが添えられていた(現在も現役の店はあるが)。しかし、イタリアのカプチーノにシナモンはない。おそらくアメリカ経由のコーヒー文化であろうと推察される。シナモンは香りが強く、せっかくのエスプレッソ香をかき消してしまうので、あまりオススメではない。
監修:門脇洋之「カフェロッソ」店主2005年ワールドバリスタチャンピオンシップ準優勝
本記事は雑誌料理王国158号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は158号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。