英国のオフィス・ランチを変える「Farmer J」、そのユニークな立ち位置とは


オフィス・ランチ戦争は英国内のどの都市でも日常風景となっている。お手軽なファスト・ブランドがしのぎを削るなか、大きな投資を受けて米国進出を目論む「Farmer J」は、元オフィス・ワーカーが生み出した必然の産物だ。

ロンドンはもう、1000円ではまともなランチを食べられない時代を迎えている。ごく一般的なサンドイッチ・チェーンの一食分が軽く10ポンド(約1890円)するご時世であり、また主菜の1皿を、40ポンド(約7600円)に設定することをためらわないレストランが急増しているところだ。

この物価高は食材コストの高騰が主な理由だが、包装コストの上昇、最低賃金(現在時給10.42ポンド=約1970円)のさらなる引き上げ予定などもあって今後もインフレは続くと見られており、消費者だけでなく店側も慎重な綱渡りを強いられている。

そんな中、ロンドンの金融街シティで2016年に店舗展開を始めたヘルシー系ファスト・チェーン「Farmer J」がこの2月、米国市場への進出を視野に入れて約6億円の投資を受けたというニュースが、業界で大きな注目を集めている。

「Farmer J」はオフィス・ランチ市場で成功しているカジュアル・ブランドだ。躍進の理由は、ファスト・フードとレストランのギャップを埋める品質と価格帯を提供していることにあると見ている。それまでのロンドンになかった、全く異なるクオリティだ。

金融街シティではランチの定番となっている。
デリ・タイプの温菜とサラダ類がカウンターに並ぶ。

「Farmer J」の生みの親はレカナティ夫妻。元ドイツ銀行のアナリストと、元弁護士というパワーカップルだ。彼らは選択肢の少ない金融街のランチ事情をビジネス好機とみなし、オフィス・ランチ市場を分析した上で、現在のブランドを構築した。

創業当初から主に金融街シティ・エリアを中心に展開していたが、現在は中心部へ進出し、市内に10店舗を展開。今年はまず国内の地方都市への進出を試み、その後はニューヨークやボストンなど米国東海岸へと進出していく予定。

「Farmer J」が、イギリスで一般的なファストフード・ブランドである「Pret a Manger」「Leon」「Itsu」などと決定的に違うのは、パッケージ済み商品を売るのではなく、温かい食事をカウンターで効率よく提供していることが挙げられる。穀類かリーフ・サラダをベースに、主菜1種、副菜2種を選ぶ「フィールドトレイ」、少し小さめの「フィールドボウル」が中核商品となっている。

その他にも惣菜の種類が無国籍風でバラエティに富み、珍しいフレーバーを取り揃えていること、栄養バランスが優れていることなどで競合と差別化を図った。コチュジャン風味のサーモンやスパイシー・チキンの煮込み、ケールの味噌コールスロー、ナスのタヒーニ和えなど、味がいいことでも支持者を増やしてきた。これらはまさに、創業者のレカナティ氏が銀行員時代に食べたいと思っていたものだ。

弁当スタイルのフィールドトレイは約14ポンド(約2600円)するが、価格にかかわらず順調に売り上げを伸ばしている。レポートによると今年1月の売上高は10~15%増と好調。大きな店舗ではランチタイム1時間に300~400食を売り上げる。大半は持ち帰り、デリバリーであり、法人向けケータリングも受ける。消費者嗜好の分析をもとに、非常にうまく時代の波を捉えたブランドであるとも言える。

フィールドボウルは7.50ポンド(約1400円)とお手軽。十分にお腹にたまるボリュームがある。右はベジタリアン向けの新商品。
フィールドトレイは日本のお弁当のようなコンセプト。バランスの良さと惣菜のクオリティが決め手。
店舗によってインテリアを変え、エリアの個性を反映していく。

食材は国内生産者から季節のものを仕入れることへのこだわりがある。一つの農場と契約し、特定の食材にまつわるストーリーを構築する。取引先が一つの方が、品質管理がより簡単になるという理由もあるようだ。

「栄養のバランスがよく、お腹もいっぱいになり、しかし腹もたれすることなく仕事に戻れる食事」を提供することが、創業者の目指すところでもある。ロンドンらしい無国籍な内容がリピーターを飽きさせない魅力なのだろう。

かくいう筆者も数年前に中心部でこのブランドを「発見」して以来のファンであり、まさにロンドンの外食で必要とされていたジャンルだと肌身で感じる次第。もう少し高級路線の「オットレンギ」という中東風ブランドが似たスタイルの惣菜を提供しているが、ほぼ3分の2以下の価格帯である「Farmer J」が拡大すればするほど、肩身が狭くなるのではないかと注目している。

Farmer J
https://www.farmerj.com

text:江國まゆ Mayu Ekuni

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