ロンドンが誇る名店「ザ・ウォルズリー」が20年の節目に2号店を堂々オープン


保守層にもリベラル層にも等しく愛されるロンドナーたちの憧れレストラン「ザ・ウォルズリー」が、初めての2号店を出店した。ロケーションは金融街として知られるシティ地区。創業20年の節目にその意義を問う。

ロンドンで最も人気のあるレストラン? 「まさか、決められるはずがない」と思われるかもしれないが、意外とそうでもない。少なくとも最も反対意見が出づらいのが、ロンドン中心部のピカデリーにある「The Wolesley / ザ・ウォルズリー」だろう。

ウォルズリーがオープンしたのは2003年11月。リッツ・ホテルに隣接する1920年代の壮麗なビルを改装したグラマラスな空間は瞬く間に流行に敏感なロンドンっ子たちを虜にし、現代におけるヨーロッパ風グランド・カフェがどうあるべきかを再定義してくれた。

オープンしてしばらくはメディア取材お断りの姿勢を貫き、謎めいたセレブの館のようでもあったが、現在は地元の食通たちが定期的に訪れる定番店として、旅行者が高揚感あふれる朝食やアフタヌーン・ティーを目指す観光スポットとして、引き続きセレブの目撃スポットとして、その成熟度を増している。観光客と著名人、ロンドンっ子が不思議に混在する稀にみる成功店として、現在もカリスマ的な人気を保ち続けているということだ。

創業からちょうど20年。2023年11月にそのウォルズリーが、金融街として知られるシティ地区に初めて2号店を出し、界隈はにわかに活気づいている。

あらゆる層にアピールするメニューを揃える。
ヴィーガン用のメイン・コース料理はナスと豆を使ったシチュー風の一品。満足度も高い。
名物でもあるシーフード・パイ。クリーミーなマッシュ・ポテトで蓋をしたノスタルジックな一品。ボリュームも満点。

The Woleseley City / ザ・ウォルズリー・シティは、ピカデリー店に負けず劣らずゴージャスだ。ブラックとゴールド、エジプト王朝を思わせるディテール、ダイナミックなアーチ型天井にイタリア風ストライプの列柱、ビザンチン様式のシャンデリアなど、いかにも富が集まる金融街らしい仕様。白いリネンのテーブルクロスと真鍮のランプがこれほど似合う空間は少ない。

金融の心臓部であるシティ地区への進出はパンデミック前から計画されていたそうだ。ロックダウンによりオープンまで余計な時間がかかった。その背景には、ウォルズリーの創業者であり、現代ロンドンにおける洗練されたヨーロッパ風レストランの父とも言えるレストラン事業家「コービン&キング」が事業の大部分を手放し、タイを拠点とするグローバルなレストラン・グループに買収されつつあったことも遅延要素としてあったのではないか。

コービン&キングを知らない食通はロンドンではもぐりだと思われても仕方ないほど、彼らの貢献は計り知れない。そのコービン&キングがウォルズリーをはじめ、20年かけて築き上げた帝国(他にも7件の素晴らしいレストランを作った)を2022年に完全に手放したことは、ロンドン食業界では衝撃的なニュースだった。イギリス人たちは、他国籍企業への売却でクオリティが著しく変わってしまうのではと危惧したのだ。

ヨーロッパらしいデザート「ブラックフォレスト・ガトー」。上品な美味しさ。

しかしその心配は、どうやら杞憂に終わったようだ。ウォルズリー・シティには、これまでのコービン&キングと全く変わらぬクオリティがある。

ウォルズリーがなぜそれほどまでに人気なのか。言ってみれば「本物志向」と「現代性」だろうか。イギリスだからこそ可能な「真正」。インテリアも食事もオペレーションも、妥協なし。1920年代のノスタルジーあふれるグランド・カフェを再現したレストランは他にもあるが、肩ひじ張らない洗練で保守層とヒッピーの両者を惹きつけているところが、ウォルズリーらしさの真骨頂だと言える。過去を振り返らないグランド・カフェなのだ。

肝心の料理だが、実に信頼できる味とラインナップ。得意とするシュニッツェルやベーコン・チョップ、フィッシュ・パイなどの古典料理のほか、ヴィーガンやアレルギーにも現代的なメニューで対応している。そして驚くべきことに、今のロンドンにおいて、「リーズナブル」とさえ言える価格設定であり、ここは決して最高級店ではない。今後も万人に開かれた、ロンドンを代表するレストランであり続けるに違いない。

コービン&キングのジェレミー・キング氏も再びレストラン事業へ復帰を表明しており、今年オープンする新しいレストランも楽しみだ。

The Wolseley City
https://thewolseleycity.com

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

関連記事


SNSでフォローする