フェスティブ・シーズンに沸くロンドンに朗報が届いている。世界クラスの歌劇場、ロイヤル・オペラ・ハウスが上階にあるレストランをパノラマごと一般開放! 観劇しなくても訪れることができるようになった。
今、ロンドンで行くべき場所トップ5を挙げるとしたら、ロイヤル・オペラ・ハウスは確実に上位に食い込んでくるはずだ。
心動かされる世界レベルのプロダクションはもちろんのこと、19世紀の伝統建築に近代的スペースが見事に溶け合った空間は、いつ訪れても独特の高揚感に包まれている。シーズンになると好事家でなくとも演目が気になりそわそわしてくる場所だ。そして今年は新しいニュースが飛び込んできた。最高のパノラマを満喫できる4階レストラン「Piazza」が刷新され、この9月末から観劇しない人にも開放されていると言うのだ。これは、行かない手はない。
レストランPiazzaはその名の通り、青果市場としての歴史を刻んできたコベント・ガーデンの広場、Covent Garden Piazzaを望む最高のロケーションにある。そして厨房を率いるエグゼクティブシェフ、リチャード・ロビンソンさん( Richard Robinson / 写真下)の経歴は、ロイヤル・オペラ・ハウスの格式に見合った輝かしいものだ。
2021年からエグゼクティブシェフを務めるリチャードさんは、世界のミシュラン・レストランを渡り歩きながら腕を磨いてきた英才。カリフォルニアのザ・フレンチ・ランドリーやニューヨークのパーセ、フランスのランブロワジーなど3つ星での経験も豊富だ。英国では複数の実力派レストランを経由し、満を持しての今回の登板となった。
彼の料理の核となるのは、季節性とサステナビリティ。特に後者は徹底しており、生産者選び、彼らとの協働と、チャリティー寄付を組み合わせることで無駄を排することに真剣に取り組んでいる。野菜は通常なら廃棄処分になる新鮮だが不揃いなものを配達してもらい、週ごとにアイディアを練ってはさまざまな料理に昇華している。
オペラ・ハウス1階のカフェで使われている牛乳の残りやコーヒーの滓、レーズンを戻すために使った紅茶の茶葉に至るまで、その全てが余すところなく利用されているという。オペラ・ハウス全体の食におけるサステナビリティを、リチャードさんが担っていると言っても過言ではなさそうだ。
お料理をいただいて正直驚いた。劇場自体の華やかさに引っ張られない、地に足がついたスタイル。ある意味、保守的な人たちが客層でもあり、伝統ある劇場にふさわしい、正しいルーツを感じさせる料理とでも言えるだろうか。選び抜かれた食材を使って、ふさわしいメニューが構築されている。
締めのデザートは必食。モダン・ブリティッシュを締めくくるのに甘いものは絶対だし、イギリス人の食傾向を知るのにもってこいのジャンルだから。
シグニチャーはラズベリーとライムのタルト。瑞々しい赤に見とれる整然とした、しかし情熱的な一品だが、私のおすすめはホワイト・チョコレートとイチジクのシューだ。芳醇に香る口どけの良い濃厚クリームはフレンチやイタリアンのシューとは全く違う凝縮感がある。何かにつけどっしりしたものが好きな、いかにもイギリスらしいシューデザート。トップクラスの歌劇場でも、軽さより質実剛健さが愛されるようで。
席に余裕があれば、デザート・タイムで外のテラス席に移動という手もある。屋根や暖房付きで安心。さらにコベント・ガーデン・マーケットを見下ろす最高のパノラマ・ビューを楽しむことができる。つまりここは、ロンドンの特等席なのだ。クリスマス・シーズンの眺めはまた格別だろう。
The Piazza
https://www.roh.org.uk/eat-and-drink/piazza
text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni