一つ屋根の下で全く異なるビジネスが共存し、利益を生み出すフードホール・ビジネスが今、ロンドンでも定着しつつある。見事にキュレートされた、食ブランドのセレクト・ショップとも言える新業態の今をレポート。
物価が上昇し続けるロンドンで今、最も注目されている新タイプの食形態が、屋内フードホールだ。複数の精鋭ブランドが一つ屋根の下で営業し、豊富な選択肢とクオリティ、毎日が祭りのような独特の活気で人々を魅了する。ニューヨークでは当たり前のものになっているようだが、ロンドンで現在のような本格的なフードホールが定着し始めたのは、ここ5、6年のことだ。
デベロッパーが独立性の高い人気ブランドを招聘してワンストップのフードホールを作るアイディアは、ロンドンでは2016年創業の「Mercato Metropolitano /メルカト・メトロポリターノ」(以下MM)が最初期の例となる。
フードホールの醍醐味は、多種多様な食ジャンルをカジュアルに一箇所で楽しめるところ。ファストフードよりも値は張るが、レストランよりもリーズナブルなこと。こだわりのあるクラフト食であることも、足を向けたくなる理由だ。言わば「ストリートとレストランの間を埋める業態」が、フードホールなのだ。
イタリア人創業のMMは現在市内3箇所に展開し、今後も拠点を増やしていく姿勢を見せる勢いのあるブランドだ。テナントは「ナチュラル」「手作り」「サステナブル」であることが条件で、プラスチック・ボトルの飲料を扱うことも禁止。環境に配慮し、コミュニティとの一体化を目指す哲学で他のフードホールと一線を画す。
一方、この新業態をロンドンに導入する目的でレストラン事業家と投資家がタッグを組み、使われなくなった商業スペースを再生して人気の独立ブランドを集めて2018年に創業したのが、MMのライバル「Market Halls / マーケット・ホールズ」(以下MH)。最近3箇所目をオープンした。
仲間と一緒に来ても向かうのはてんでバラバラの方向で、皆が好きなものを注文できる楽しさはフードホールならでは。店にとっては高すぎる家賃や人件費など独立経営が抱えるリスクを回避し、スペースのシェアによる共益を得られる。マネージメント側は一貫したテナント管理でターゲット来客数や効率性を追求することで、安定した利益を確保できる。そこには独立したビジネスによるチームワークがあり、客・店・管理者の三者が共存共栄するフードホールは、今後を生き抜くためのビジネス・モデルだという人もいる。
いずれもテナントは実力を備えた話題店であることは必須。店をセレクトし、全体をキュレートするのはマネージメント側の仕事だ。利益を上げるには週に1万人程度の来客を見込む必要があり、人の流れがある場所でなければ、自らイベントなどを開催するなど集客の努力が必要となる。
ロンドン中心部、トッテナム・コート・ロードに昨年11月に再オープンしたフードホール「Arcade / アーケード」は、前述した2例よりもさらに強いマネージメント力を発揮している。まず受付係が入り口で客をコントロールし、席まで案内する。そしてQRコードでメニューをダウンロードしてオンライン注文するのだが、そこには全ブランドの全メニューが店別(ジャンル別)にきれいにリストアップされているのだ。座ったままフードホール全体のメニューを把握でき、携帯一つあればいつでも注文できるスマート・システムは、リピーターに受けているのではないだろうか。
一皿の平均価格がゆうに10ポンド(約1600円)を超えるのはロンドンならではだが、それでもレストランよりも安い。首都のフードホール成功譚をみてブームは地方都市にも飛び火し始めている。この動きがどう進化するのか見守りたい。
Mercato Metropolitano
https://mercatometropolitano.com
Market Halls
https://markethalls.co.uk
Arcade
https://www.arcadefoodhall.com
text:江國まゆ Mayu Ekuni