キャビア、トリュフと並んで世界の三大高級珍味ともいわれるフォワグラ。ガチョウのフォワグラに限っていえば、その起源は5000年前のエジプトにまで遡る。越冬するためにスカンジナビアからナイル川の沼地に渡ってきた野生のガチョウの、肝臓の大きさと味にエジプト人は驚いたという。渡り鳥が長い移動時間に備えて、意図的に大量の餌を飲み込み、エネルギーとして蓄えていることを知ったのである。この発見から、フォワグラをつくる習慣が生まれたといわれる
現在では、世界各地でフォワグラは生産されているが、最大の産地は何といってもフランスだ。その生産量は1万8000トン余り。世界の78・5パーセント(2014年)を占める。主な産地は、西南部に位置するペリゴール地方とランド県。そのペリゴール地方の中心都市サルラに工場を置くのが、フランス屈指のフォワグラの名門ブランド「ルージエ」だ。当主のアラン・ルージエ氏は言う。
「子どもの頃から祭りやクリスマスのときは、毎年必ずフォワグラを食べていました。ほとんどのフランス人はフォワグラが大好きです。とても高級な食材だから、家族みんなが集まったときに食べるものでした。楽しい思い出がいっぱいです」
そんなフォワグラの質を決めるのは鮮度だ。1980年代までは、「フレッシュ」が主流だった。しかし近年になって、マイナス196度の液体窒素で冷凍する急速冷凍の技術が確立。産地と遠く離れた地でも、良いフォワグラが入手可能になった。「食感を良くするには、脂が出ない状態を保つ必要があります。そのためには、温度管理が重要。急速冷凍が生まれたのは、適温を目指すためでした。この急速冷凍を開発したのも、じつはルージエなんですよ」とルージエ氏は説明する。日本人のマグロの保存方法からヒントを得たそうだ。 メーカーによって異なるが、一般的にと殺から2〜24時間以内に冷凍されるという。
フランス以外で有名なヨーロッパの生産地は、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スペイン、ギリシアなど。ブルガリア産のフォワグラは、〝本拠地〞フランスに送られて販売、加工されるほど質が高いものが多い。
ハンガリー産には、と殺場ごとに番号がつけられているのが特徴だ。と殺場周辺の飼育地の気候や飼料によって、品質に微妙な違いが生まれるため、それにこだわり、好みの番号をもっているシェフもいるという。スペインは、近年生産を開始した国のひとつで、ヨーロッパでの評価は高い。
さらに北米ではカナダ、アメリカともに一部の州で生産。中国も、フランスのメーカーと提携するなど、技術向上に努めている。
フォワグラにはビタミンBが豊富で、旨み成分であるグルタミン酸も多く含まれている。また、フォワグラの脂肪の大半を占める一価不飽和脂肪酸は、コレステロール値を減らしながら心機能を保護するといわれる。北東フランスの人に比べ、南西フランスの人のほうが長寿なのは、フォワグラなどに含まれる成分が健康維持に役立っているからだということも分かっている。
ガチョウやカモにできるだけストレスを与えずに飼育するのが大事とされる。そのため、自然のなかで放し飼いする農園もあるほどだ。
生産国によって多少の差はあるが、ひなから約110~115日飼育し、最後の12~14日間ほどガヴァージュを行う。ルージエでは飼料がのどを通りやすいように、油などを混ぜてストレスを軽減している。フランスでは、EUの家禽飼育に関する法律で定められたガイドラインに従い、フォワグラを生産している。
と殺から2~24時間以内に、-196℃の液体窒素で急速冷凍する。と殺してから時間が経つほど、カモやガチョウの内臓の苦味や雑味がフォワグラに移り、味が悪くなる。素早く取り出すことも重要だ。ちなみに、ルージエエスカロップは、全部3時間以内に急速冷凍されている。
高品質なフォワグラは、加熱時に脂の流出が少なく、テクスチャーがなめらか。切り口の角もしっかりしたまま崩れず、弾力がある。そんなフォワグラは、繊細な旨みとなめらかな食感を有している。
協力:ルージエ