生ハムの基礎知識


ハムがその土地の気候・風土・文化を反映

北部ヨーロッパのドイツ式ハム
ドイツ式(シンケン)ハムと呼ばれるもの。豚のモモだけでなくいろいろな部位を使用する。60~65℃で燻煙するのが基本。おもにドイツ、オーストリア、オランダ、デンマークといった北ヨーロッパのゲルマン諸国で用いられる方法で、ビール文化圏と重なる。
南部ヨーロッパの非加熱生ハム
「生ハム」と呼ばれるもの。豚のモモだけを使用し、非加熱で塩漬け、乾燥、長期熟成といった工程を経て作られる。おもにスペイン、イタリア、フランス、ポルトガルといった、南ヨーロッパのラテン諸国で用いられる方法。ワイン文化圏と重なる。

ハムは肉を長期保存する方法としてローマ帝国の時代の文献に記述があるなど、約2000年の歴史を持つ。製法には大きく2つあり、ひとつはドイツ式(シンケン)ハムと呼ばれるもの。もうひとつは、「生ハム」と呼ばれるものだ。   
また、生ハムと呼ばれるものの中でも、スペインのハモン・セラーノとイタリアのプロシュットでは、基本的な製法に違いがある。ハモン・セラーノは原料となる豚モモ肉を加工する際、蹄と骨盤の一部をつけたまま加工するのが一般的で、塩分がゆっくり浸透し、乾燥熟成により長い時間がかかる。
「ハモン・セラーノ(Jamón Serrano)」とは、スペイン語で「山のハム」の意味。もともと、標高の高い、冷たく乾いた気候の山岳地帯で造られたハムを指し、1980年代頃まで、「ハモン・セラーノ」という言葉は、生ハムの総称として用いられてきた。
また、当時、ハモン・セラーノには、古来伝統種であるイベリコ種などの原種豚を加工していた。しかし1950年代、中部ヨーロッパから生産効率のよい白豚系が導入され、白豚が使われるようになった。現在では白豚原料が大半を占める。イベリコ豚を使った生ハムは「ハモン・イベリコ」と呼び、区別している。

①マサ

内モモと外モモが合わさっているのが特徴。脂肪が多く柔らかな肉質。カットするときれいな霜降りの断面に。

②プンタ(クラタ、ディエンテ)

脂身であまり覆われていないので乾燥しがちだが、味わいの濃い部位。旨味が濃くてクセがない。

③バビージャ

赤身のハムを好む人にお勧めの部位。赤身が多く味わいが濃いのが特徴だ。俗にいうシンタマの部位。

④ ハレテ

頸骨・腓骨の前側(上図CDの下)から足根骨の下(上図Eの右)あたりを示す。頸骨と腓骨に挟まれた部分に、味わいの濃い部分がある。高いカッティング技術で無駄なく切り取りたい。

A 寛骨

寛骨の周囲には、コケラスと呼ばれる空洞が発生しやすい。黒く変色していたらペティナイフで丁寧に取り除く。

B 大腿骨

後ろ足を支える太い骨。骨の中には骨髄が多く、旨味のあるスープがとれる。

C 頸骨

腓骨との間に旨味の濃い肉がある。大腿骨と同様、骨の中には骨髄が多く、旨味のあるスープがとれる。

D 腓骨

頸骨との間に旨味の濃い肉がある。肉を切り出すために折って取り除く方法と、取り除かない方法がある。

E 足根骨

マサのカッティングを進めていくと骨の一部が突き出てくるので、避けて切り進める。

F 膝蓋骨

パビージャを切り始めるとすぐに膝蓋骨にあたるので、ペティナイフを使って除去する。

参考文献:『イベリコ豚の秘密とスペインの生ハム ―イベリコ豚の成立に関する考察と生ハムとイベリコ豚製品の実践的取り扱い』(渡邉直人、文芸社、2011年)


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